研究活動
期日:2011年9月5日-8日  報告者:助教 村田寛明

 9月7~10日にドイツのドレスデンで開催された30th Annual ESRA Congress 2011に参加してきました。ESRA(European Society for Regional Anaesthesia and pain therapy)とはヨーロッパ局所麻酔学会のことです。神経ブロックを中心とした局所麻酔に関する学会です。ドレスデンはフランクフルトから約1時間のフライト。旧東ドイツに属し、第二次世界大戦時の空襲による街の破壊という悲しい歴史があるようですが、2000年代初頭にかけて教会や宮殿などの街並みが再建されました。石畳と路面電車の似合う、ゆったりとした時の流れの静かな街でした(写真1,2)。学会場は市街地から徒歩圏内でエルベ川沿いにありました(写真3)。

 
写真1:カトリック宮廷教会とドレスデン城。路面電車がいたるところに走っていました。   写真2:ドレスデンの信号。「アンペル(信号)マン」としてグッズになっています。左は男の子バージョン(青)、右は女の子バージョン(赤)。
   
写真3:エルベ川の対岸、ガラス張りの建物が会場のInternationales Congress Center Dresden

 私の参加目的は、ESRA Diploma取得のためのWorkshop受講でした。ESRA diplomaとは、ESRAが認定している神経ブロックに関する資格試験で、毎年この学会会期中に試験が行われます。受験資格は毎年少しずつ変更されているようですが、基本的には①ESRA会員、②ESRA主催のワークショップ受講歴、③神経ブロックの臨床経験が必要です。私は①と③は満たしているので、②をクリアしなければなりませんでした。今年は旭川医科大学関連の先生方が受験しに来られていました。昨年までとは問題がガラッと変わったらしく、苦戦を強いられたそうです。私はCadaver Workshopを申し込みました。Cadaverとは「死体」のことです。神経ブロックに必要な構造物を分かりやすく展開したCadaverを用いて、超音波画像との関係を確かめたり、実際に超音波プローブを当ててブロック針を刺入したりします。いろんな種類のWorkshopがありますが、昨年までは受験資格にCadaver Workshopが必須でした(今年は縛りがなくなっていましたが...)。いずれにしても、日本ではなじみのないタイプのWorkshopであり楽しみにしていました。
 このWorkshopだけメイン会場からバスで15分ほどのInstitut für Anatomie(大学附属で解剖実習施設を備えた研究機関といった感じ)で行われました(写真4)。ASAでは同じようなワークショップを学会会場内で行っていた記憶がありますが、学会場にCadaverを持ち込むあたりはアメリカのすごさでしょうか。解剖実習室で8人ずつ5グループに分かれ、上肢・下肢など目的に沿ってセットアップされたCadaverを使って順番に実習です。超音波ガイド法だけでなくランドマーク法も意識しており「ここから針を刺すと、ほら(皮膚をめくる)、神経のところに針が到達してるよね?」という感じでデモをしてくれていました。神経と他の構造物との立体的位置関係を肉眼で確認できることと、針を刺せるというところが魅力です。突然質問が飛んでくるのでヒヤヒヤしましたが、終始アットホームな雰囲気でした。2時間半全く休みなしのスパルタ実習を終え、無事に参加証明書をもらいました。実習中の写真撮影はNGだったので、終了後の休憩の様子を載せます。解剖用の模型など誰も気にする様子もなくお菓子とドリンクに群がっていました(写真5)。

 
写真4:Institut fur Amatomieの入り口   写真5:Cadaver Workshop後のひととき。奥の方に骨格模型が見えます。誰も気にせず、クッキーを頬張っていました。

 長崎大学からは私を含めて3題のポスター発表を行いました。今回は井上智愛先生と髙松渥子先生が、参加だけの予定から一転して頑張って発表までしました!ESRA Congressの新しい試みとしてe-Posterというセッションがありました。事前にPDFに変換したポスターをESRAのWebサイトにアップロード、会場ではパソコン画面で選択して大型スクリーンで閲覧するというものです(写真6)。発表者の意向次第ですが、会期前後もサイト上で公開したり、ポスターのファイルをダウンロードできたりします(要パスワード)。発表者としては大きなポスターを持っていかなくていいのが何よりも嬉しいところです。井上&髙松はこのe-Posterセッションだったのに、私だけは紙ポスターセッション。一人大きなポスターを抱えて行きました。

   
写真6:ポスターエリア。奥の方は紙のポスター掲示板。手前にe-Poster presentation用の大型ディスプレイが並ぶ。

 学会参加者は1000人超ぐらい。ヨーロッパ中心ですが、世界各国からの参加者があり、日本からも20人程度が参加していました。国別の参加登録者名簿が張り出されていました(写真7)。特筆すべきは「食」が充実していたこと。昼食は立食パーティー形式の温かい食事が、午前・午後のティータイムにはコーヒーとケーキがバイキング形式でいずれも機器展示場で振る舞われました。味もよく、食事に関しては全くストレスのない学会でした。ただ、ヨーロッパの人は女性も含めて背が高く、食事用のテーブルが高く、平均的な日本人女性にはちょっと食べにくそうな高さでした(写真8)。

 

写真7:国別参加者一覧。日本人は少数派です。

 

写真8 Opening Ceremonyでのひとコマ。美味しそうにしてますが、テーブルが高くてちょっと食べにくそう!?

 私のWorkshop受講という目的は無事に達成され、井上&髙松先生はポスター発表も経験し国際学会の雰囲気を余すところなく体験できたと思います。長崎大学麻酔科は入局早期に1回、無条件に国際学会に参加できるという制度を設けています。早い段階で国際学会の雰囲気を知ることで、モチベーションを高めるのが狙いです。もちろん今回は発表もこなしたわけですが、二人はきっと「また頑張って国際学会に行きたい」と思ってくれたと期待しています。
 来年のESRA Congressはフランスのボルドーで開催されます。勉強が間に合えばESRA Diplomaを受けに行きたいと思います。