ごあいさつ

長崎大学消化器内科開講3年目を迎えて 教授:中尾一彦
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科消化器内科学分野 教授
(長崎大学医学部消化器内科学 教授)
長崎大学病院消化器内科 診療科長
中 尾 一 彦
 長崎大学に消化器内科が新設され、早2年が経ちました。診療、研究、教育等々、何とかやってこれましたのも、教室員のがんばりと同門の先生方ならびに関係の皆様方のご支援の賜物と心より感謝しております。この間、失敗を恐れず何にでも挑戦しようと、教室員一同、様々なことにチャレンジしてきましたが、嬉しいことに将来に繋がるいくつかの成果を得ることができました。
 まず、光学医療診療部の磯本准教授、山口助教を中心に食道がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後の難治性狭窄に対するステロイド内服治療が行われ、狭窄が劇的に防止できることが明らかとなりました。ESD後のQOLを大きく改善する治療法として学会でも高い評価を受け、その治療成績は英文誌Gastrointestinal Endoscopy(IF:6.713)に掲載予定です。今年は、移植消化器外科、兼松教授のご紹介で東京女子医大、岡野教授のグループとの共同研究で口腔粘膜細胞由来の細胞シートを用いた食道ESD後の粘膜再生医療に取り組む予定です。さらに、南ひとみ先生が食道アカラシアに対する内視鏡的内輪筋切開術 (Per-Oral Endoscopic submucosal Myotomy: POEM)を昭和大学横浜市北部病院、井上教授のご指導のもと、4例の治療を成功させることができました。治療後、劇的に症状が改善し喜ばれる患者さんを目のあたりして、POEMがアカラシア根治療法のゴールドスタンダードとなることを確信いたしました。アカラシア内視鏡治療の拠点病院になるべく、竹島准教授、南先生を中心に今後も症例を集積していきたいと考えております。
 肝臓病の分野では一昨年秋に、IL28B遺伝子のSNPsがC型肝炎インターフェロン治療効果に大きく関わる宿主因子であることが報告され、市川病院准教授を中心に臨床検査医学、上平教授のご協力を得、いち早く院内でIL28BSNPs測定を開始し、インターフェロン治療の個別化医療(テーラーメード医療)に取り組むことができました。今年中にはテラプレビルという新たなC型肝炎治療薬が使えるようになり、IL28B遺伝子のSNPs 測定はますます必要不可欠なものになると考えます。さらに、一昨年、肝細胞癌の分子標的薬として認可されたソラフェニブも当初は副作用対策など不慣れな点もありましたが、最近では関連施設を含めて使用症例が増加し、私たちも国内外の臨床試験に積極的に参加してきました。これらの知見が集積されることで、肝細胞癌の治療アルゴリズムも今後変わってくるものと思います。
 昨年秋には、大学病院外来棟・研究棟の改装に伴い、9階に内科系共同実験室が整備され、消化器内科も実験ベンチとスペースをいただきました。拠点を得たことで、実験の主要メンバーである赤澤助教、松島先生、柴田先生、大学院生の研究が一層進むことを期待しています。
 この2年間、長崎大学消化器内科関連施設との多施設共同研究も少しずつ進んできました。大仁田病院講師、山口助教を中心とした長崎内視鏡治療研究会(Nagasaki Association of Therapeutic Endoscopy: NATE)によるESD症例集積、予後調査、そして、田浦病院講師、宮明助教を中心とした長崎肝疾患研究会(Nagasaki Association for the Study of Liver Diseases: NASLD)による肝癌の実態、治療、予後調査、C型肝炎治療症例の集積等です。これらの成果は、消化器内視鏡学会総会、肝臓学会総会、DDWで発表することができました。ご協力いただいた先生方にこの場をお借りして深謝申し上げます。
 さらに、最近、新たな治療法が次々と出てきた炎症性腸疾患についても、竹島准教授を中心に現在、多施設研究が着々と進められており、今後の展開が期待されます。関連施設を合わせると消化器内科のベッド数は500床近くになります。これからも、関連施設の先生方と協力して、質の高い共同研究を進めていければと考えています。
 さて、3年目の診療における重点項目として、化学療法班の立ち上げと、胆膵系診療の充実を考えています。進行消化器癌に対する化学療法の需要は高く、院内外からの治療依頼は年々増加しています。昨年12月に埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科から塩澤健先生が帰局されたのを機に、平成23年4月より塩澤先生を中心に化学療法班を立ち上げ、専門カンファランス、専門回診を始める予定です。また、昨今の胆膵疾患数の増加、診断治療法の進歩に対応すべく、胆膵系診療の充実を図りたいと考えています。コンベックスタイプの超音波内視鏡を用いた経消化管的穿刺細胞診(EUS-FNA)は今や胆膵領域の腫瘍性病変の確定診断に欠かせない手技となっています。今年は、大仁田病院講師がEUS-FNA症例数の多い米国メイヨークリニックで2か月間、海外研修の予定です。また、愛知県立がんセンター消化器内科に国内留学していた佐伯哲先生が長崎医療センターに戻ってきますので、長崎の内視鏡胆膵処置の第一人者である佐世保市立総合病院、山尾拓史先生を中心に長崎消化器内科全体の胆膵診療技術進歩を図っていければと考えております。一方、平成23年度は内視鏡治療技術研鑚のため、吉田亮先生が昭和大学横浜市北部病院へ、石居公之先生が慶応大学病院へ国内留学します。また、宮明助教がイタリアボローニャ大学へ研究留学予定です。大学病院のスタッフは現在より少なくなりますが、将来への投資ということで、がんばってくれるものと思います。
 以上述べましたように、内視鏡治療、肝疾患診療、炎症性腸疾患診療、癌化学療法は消化器内科の主要な診療領域と思います。これらの領域すべてで最新の診療を提供できることが地方大学病院消化器内科の責務と考えています。よって、消化器内科と一心同体である光学医療診療部と共に、消化器外科、放射線科のご協力を得ながら、これからも、さらに質の高い消化器内科診療を目指して行きたいと考えています。
 最後になりましたが、今年11月には、第98回日本消化器病学会九州支部例会を私が、第92回日本消化器内視鏡学会九州支部例会を同門の宿輪三郎先生が担当することになっております。現在、協力して準備を進めているところでございます。教室として初めての学会となりますので、皆様のご参加、ご支援をいただければ幸いでございます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。