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長崎大学の現況:長崎大学産婦人科から皆さんへ
変わる長崎大学病院 【産婦人科】
病院間の産科医派遣システムを構築

産科婦人科医の待遇改善

 産科婦人科医の減少とそれに伴う分娩取り扱い施設の減少、いわゆる" お産難民" が社会的問題となり、産科婦人科医を増加させるためにさまざまな待遇改善がおこなわれた。その結果として、全国的にはここ数年、産科婦人科医の数が増加し始めているが、産婦人科医の労働環境は必ずしも改善しているとはいえず、妊娠、出産などを契機に産科婦人科医療から離れてしまうケースは少なくない。実際に働いている産婦人科医を増やすために
は、大きなライフイベントがあっても職場復帰できる環境を整備する必要がある。長崎大学産科婦人科では、全国に先駆けて革新的な対策に取り組んでおり、それらを紹介する。


分娩料金の適正化

 東京など都会では分娩取り扱い施設が減少し、大病院での分娩が増加しているが、長崎県では全分娩の約70%を常勤医2 人以下の診療所が担っている。診療所よりも総合病院の分娩料が安価であったため、正常妊娠もハイリスク妊娠も総合病院に集中する傾向があった。また、分娩数の減少により診療所の経営が悪化し、正常産を取り扱う施設が減少することで、総合病院で扱う正常産が増加し、勤務医の労働条件が悪化する悪循環に陥っ
ていた。
 そこで、ハイリスク妊娠を管理する総合病院の分娩料が診療所のそれを上回るように適正化した。具体的には、大学病院の分娩料金を1 週間入院で40 万円から56 万円と、当時の大学病院全国最高レベルにまで引き上げた(図1)。同様に県内の公立病院にも分娩料の引き上げを依頼した。正常分娩が診療所に移れば、総合病院の勤務医が夜間に正常産に関わることが減り、異常分娩に専念できることで負担が軽減される。それに伴って診療所の分娩料も適正化すれば、診療所の経営状態もさらに改善され、正常産に専念でき、医療安全も確保できる。
 以上の取り組みの成果として、地域の周産母子センターである大学病院でも2006(平成18)年には正常分娩の割合が20%前後あったが、2007(平成19)年以降は異常分娩の割合が増えはじめ、2010(平成22)年には正常産の割合は10%を切るまでになった。一方で母体搬送の受入れ数が2007(平成18)年には30 件であったが、2010(平成22)年には60 件と倍増している(図2)。分娩総数は大きく変化することなく、異常分娩が総合病院に集中する傾向が見られ、当初期待した通りの結果が得られている。

図1
図1


図2
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ホリデー&ワークシェアリング制度

 長崎市内には産婦人科を扱う総合病院として大学病院以外に長崎市立市民病院、日赤長崎原爆病院、済生会長崎病院があるが、各病院で受け入れ症例に特徴があり、その多忙さにも偏りがある。病院によっては部長が学会出張や休暇を取るのもままならない状態であった。また、時間外手術や呼び出しの多い病院では、小さな子どもを抱える女性医師の勤務は困難で、派遣できる医局員も限られていた。
 そこで、当科の増崎英明教授が各病院の院長と直接交渉し、各病院で長期休暇、学会参加あるいは復職に伴う当直免除などで人手不足の事態が生じた場合、統一された報酬体系で互いに医師を派遣し合えるようにした。これがホリデー&ワークシェアリング制度である(図3)。
 この制度を開始して、夜間および休日のバックアップが得られ救急搬送への対応が可能になった。各病院の医師は学会への出張、休暇を取れるようになり、労働環境が改善された。さらに、他院医師によるバックアップがあるために、時間外勤務が困難な育児中の女性医師でも他の医師への負担が増加することなく早期に職場復帰できるようになり、結果的に全体のマンパワーが保たれることに繋がった。

図3
図3



育児休業の積極的取得

 育児休業は「改正育児・介護休業法(略称)」いう法律に基づいて取得が可能であり、たとえ勤務している病院に規定がなくても、申し出れば取得する権利がある。しかしながら、県内でも、2007(平成19)年以前に産婦人科医が育休制度を取得した例はなかった。
 そこで、女性医師の育児中の身分を保障し、退職せずに産婦人科医を継続できる環境をつくるため、増崎教授自ら各関連病院へ説明に回り、必ず育休を取得できるようにすること、また育休の対象になる女性医師を各病院必ず1 人は受け入れ、労働力が不足する部分は病院間の連携で補うことを依頼した。
 その成果として、2008(平成20)年以降に分娩した女性医師は全員が育休を取り、かつ全員が職場復帰している。この背景には、職場復帰後に当直が困難な医師がいても、前述したワークシェアリング制度によって他院からのサポートを受けられるために、ほかの医師の負担が大きくならず、職場に復帰しやすい環境をつくり出しているからである。出産• 育児を経験しても仕事が継続可能な環境が整備されることで、産科婦人科を辞める医師は減少している。また、出産・育児を経てもキャリアが途絶えることなく続けられる例を間近にみることで、学生、研修医が安心して産科婦人科の門をたたくきっかけとなり、新たな産科婦人科医の増加に繋がると考えている。 
(吉田 敦)