心房細動に対する冷凍アブレーションとは

心房細動に対する冷凍焼灼術(冷凍アブレーション)とは
心房細動
 心房細動とは、別名 絶対性不整脈と呼ばれるように、不規則で速い脈拍が発生することで、動悸や体調不良など様々な自覚症状を生じる不整脈です。
 正常に心臓が拍動しているときは、右心房の上の方に存在する洞結節から規則的に電気刺激が生じ、その刺激が心房筋を収縮させ、その後房室結節という刺激伝導系を経由して、心室筋を収縮させています。このような正常な電気刺激の流れが維持できなくなっている状況が、不整脈と言われる病態です。

心房細動①

心房細動②

 心房細動が出現しているときの心臓に何が起きているのでしょうか。心房内での電気興奮が順番に伝わらず、局所的な興奮が多数出現し持続しています。外部からみると、心房が細かく震える状態です。その際、心房は250〜350回/分の頻度で興奮しています。この心房の興奮が、不規則に房室結節を伝導し心室筋を興奮させるため、脈拍が不規則となります。
 心房細動が発生するメカニズムの1つとして、研究の結果、左心房に繋がる「肺静脈」が関与していることがわかっています。肺静脈の左心房付近から生じる異常な電気的興奮が、左心房へ伝導することで、心房細動が発生するといわれています。
心房細動に対するアブレーション治療
 心房細動に対するカテーテルアブレーション治療は、肺静脈から生じた異常な電気的興奮が左心房へ伝導しないようにすることで、心房細動の発生を抑えるものです。アブレーション治療には、現在一般的に、高周波焼灼術(高周波アブレーション)と、冷凍焼灼術 (冷凍アブレーション、または クライオアブレーション)の2つがあります。

心房細動に対するアブレーション治療①
 高周波カテーテルアブレーションは、心筋組織に直径2mm程のカテーテルを当て、人体を介した電気回路を形成し、高周波電流を流します。心筋とカテーテルが接触する部分に、50℃前後の抵抗熱を発生させて、限局的に心筋組織を変性させます。結果、異常な電気興奮発生部位や不要な伝導路の活性を消失させて、不整脈を発生させないようにします。
 現在、この高周波アブレーションは多彩な不整脈の治療に用いられています。心房細動に対する治療では、この高周波アブレーションで肺静脈と左心房間の伝導を遮断します。これを「肺静脈隔離」と呼びます。

 冷凍アブレーションは、-40℃〜-50℃まで心筋組織を冷却することで細胞障害を引き起こし、電気的興奮や伝導を生じないようにさせる治療法です。心房細動に対する治療では、高周波と同様に、肺静脈と左心房間の伝導を遮断することを目標に行います。カテーテルは主に径28mm大のバルーンカテーテルを用いて、肺静脈を塞ぐように押しつける要領で、肺静脈周囲を冷却、隔離します。
心房細動に対するアブレーション治療② 心房細動に対するアブレーション治療③
冷凍アブレーション治療の流れ
バルーンカテーテルを左房内に入れるため、
① 大腿部の静脈よりガイディングカテーテルを挿入、下大静脈を経由して、まず右心房に到達します。
② 心房中隔の膜様部(卵円窩)に、専用の器具で開けた穴を通して、左心房内に侵入します。
③ ガイディングカテーテルにバルーンカテーテルを通し、更にバルーンカテーテルの中心に、非常に柔らかい電極付きのガイドワイヤーを通します。
④ この電極付きガイドワイヤーを、治療する肺静脈内に挿入し、ガイドワイヤーに沿ってバルーンカテーテルを肺静脈の入り口付近に進めます。
⑤ バルーンカテーテルを膨らまし、肺静脈の入り口にしっかりと当て、バルーンカテーテルの先端から造影剤を流し、入り口を塞いでいることを確認します。 
この状態でバルーン内に液体の亜酸化窒素を流し、気化する際に熱を奪う作用を用いて、180秒間 -40℃から-50℃まで冷却させます。この処置で肺静脈の電気的隔離が完成します。不十分であれば冷却を追加します。それでも隔離が完成しない場合は、冷凍凝固用のカテーテルを用いて部分的に追加冷凍を行い、隔離を完成させます。
⑥ 4本の肺静脈すべての隔離が完成したところで、手技は終了となります。
冷凍アブレーション治療の流れ

 なお、カテーテル操作はX線透視下で確認しながら行います。また心房中隔に穴を開ける処置(心房中隔穿刺)は、心腔内エコー監視下で行っています。
 治療中は痛みを軽減する目的で、鎮静剤や鎮痛剤を用いながら行いますので、寝ているような状態になって頂きます。
対象となる疾患(適応・除外基準)
 心房細動による自覚症状が強く、抗不整脈薬でも発作が抑制されない方が対象です。
 心房細動は発作性と持続性とに分類されます。発作性は長くても1週間以内に停止するもので、持続性は1週間以上続くものです。
 冷凍アブレーションは、この「発作性心房細動」が適応となります。持続性心房細動や、肺静脈の形態異常(共通管など)は適応外です。そのような方は高周波アブレーションによる治療が選択されます。(高周波アブレーションは持続性心房細動も治療対象となりますが、効果が発作性と比べて下がります)
治療の流れ 外来、検査、入院、治療、退院後の生活
・外来受診:適応の有無や内服治療歴の確認、入院日時の決定を行います。
・術前に必要な検査:
 入院前;心臓造影CT検査(左心房、肺静脈の形態を確認するため)
 入院後;経食道心エコー検査(左心房内血栓の有無を確認するため)
・アブレーション治療後:
治療翌日は合併症の有無を確認するため入院継続
 問題がなければ、治療後2日目以降に退院(入院〜退院まで最短5日間)
・退院後:紹介元の病院で診療継続して頂きますが、大学でも1ヶ月、3ヶ月、半年、1年後に外来診察をさせて頂きます。
・内服薬:アブレーション治療前に抗不整脈薬内服されている方は、術後しばらくは継続して頂きます。抗凝固薬についても同様です。中止時期については経過を見ながら検討します。
治療成績
 冷凍アブレーション治療は新しい治療で、当院ではまだデータがありません。一般的には高周波アブレーションと比較して、心房細動の再発率は、同等かやや低いと予想されています。また、手技の煩雑さが高周波と比べて少ないことから、手術時間が短縮されることもメリットとして挙げられています。
 再発した場合でも、2回目、3回目とアブレーション治療を追加することで、治癒率が高まることが確認されています。
合併症
 当施設でのデータはまだありませんが、日本国内での治療実績では全体として3.7%の割合で合併症が見られています (Circ J 2016;80:1744-1749 )。
 その内訳は、横隔神経障害 1.5%、心タンポナーデ 0.6%、穿刺部血腫 0.5%、肺静脈狭窄 0.2%、心嚢水貯留 0.2%、胸水貯留 0.2% です。
当科担当・窓口
土居 寿志(外来医長)、 石松 卓(病棟医長)