長崎大学医学部附属動物実験施設


人獣共通感染症、特にサルの Bウイルスについて

副施設長 佐藤 浩

 旧世界ザル (アカゲ、カニクイを代表とするサル)の Bウイルスの件について、9月18日付け朝日新聞で取り上げられ、その後、それに対する対応策等について、11月2日(いずれも1995年)に国立大学動物実験施設協議会 (国動協)から連絡がありました。これらについて、利用者の皆様に必要と思われる部分を下記にお伝えします。

 さて、抗体検査を依頼された数施設からの最近の情報によりますと、抗体陽性サルがかなりの率にのぼっているようです。この事実から旧世界ザルの実験や飼育管理に関して、基本的事項を再度遵守すべく考慮下さるよう小委員会として国動協会員の方々にご注意申し上げますとともにBウイルスの概略に関して記述します。
 なお、サルが抗体陽性であるからといって、ことさら過剰反応になる必要はないとの専門家のご指摘もありますし、米国のガイドライン (1) にもありますように適切な処置 (治療)を行うことにより、現在では危険を回避できるものと考えられます。
  1. ヒトの単純疱疹ヘルペスや帯状疱疹ヘルペスと同属のヘルペスウイルスの一種で、 Cercopithecine herpesvirus 1あるいは Herpesvirus simiae ともよばれ、通常サルでは潜伏感染を起こすのみで、ひどいストレスや免疫抑制実験等をしない限り発症いたしません。しかし、ヒトが感染発症した場合、ほとんど致死的になります (過去の米国のデータによると 70%以上であるが、上述したように現在ではヘルペスウイルス感染症の治療がかなり功を奏するようになっている)。
  2.  このウイルスは、ご存じの如く国動協で作成した感染動物実験の際のレベルは最高の級の 4ですし、予研の試験管内実験での分類も 4です。
  3. しかし、CDC/NIH発行の Biosafety in Microbiological and Biomedical Laboratories. 3rd Edition (1993)の Recommendation Precaution によると、一般的サルの組織や体液、サル由来組織培養の際にはレベル2の研修経験と施設を使用すべきとなっており、さらにウイルス (抗体)が陽性とわかっているサルを使用する時や、ウイルスを単に診断用程度の低レベルで組織培養上での増殖の際には、3を推奨するとなっています。しかしながら、高レベルのウイルスを含むことが判明しているものを操作する場合は、キャビネットはクラス3のもの、施設もクラス4のものを要求していますし、このウイルスの濃縮実験は当然クラス4になります。
  4. また、サルでも Bウイルス感染症を臨床的に疑わす口腔内の水疱や潰瘍を有する場合 (例えば、免疫抑制実験の際に発症する可能性があります)は隔離をし、最高の注意を持って対処し、かつすみやかに安楽死処分することが望まれるようです。
  5.  要するに、場面場面に応じて施設管理者と相談をして、その分類を決めるようにとなっています。
  6. また、血液を代表とする体液に直接触れないことや、咬傷・ひっかきにも注意しなければなりません。更に、飼育管理上・実験上もっとも注意を要することとして、採血や試薬注射後の注射針による人為的刺傷です。これはいずれの場合にも当てはまりますが、使用した針を元のキャップに戻す操作を絶対に避けるべきです。
  7. その他、色々な日常的な対応策としては、CDCが中心となって作成した Guidelines for the Prevention and Treatment of B-Virus Infection in Exposed Persons (1)がありますので参照して下さい。
  8. いずれにしても、現状では旧世界ザルの多くが抗体陽性であることを前提として対応するよう望まれる次第です。
    1. 以上、国動協バイオハザード対策小委員会より。

      参考文献

      1. Holmes GP, et al. Guidelines for the Prevention and Treatment of B-Virus Infection in Exposed Persons. Clin Infect Dis 1995; 20: 421-439.
      2. Centers for Disease Control. Guidelines for prevention of Herpesvirus simiae (B virus) infection in monkey handlers. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1987; 36: 680-2. 687-9.
      3. Weigker BJ, et al. Biology of B virus in macaques and human hosts: a review. Clin Infect Dis 1992; 14: 555-567.
      4. B virus Working Group. 1988. Guidelines for prevention of Herpesvirus simiae (B virus) infection in monkey handlers. J Med Primatol 17: 77-83.