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(医学部学生向け)海外研修
ミュンヘン大学法医学教室2018年

渡辺 華子
 ミュンヘン大学にて、5月7・8日、法医学の実習を行いました。
 まずはじめに、朝のミーティングに参加しました。ここでは、当直医が週末にあった症例について話していました。ミュンヘン大学では当直医がおり、依頼があった際にはすぐに生体鑑定ができる体制が作られているとのことでした。有事の際の警察から法医学教室への流れがしっかりできていると感じました。
 次に、研究棟の見学を行いました。解剖室や遺体安置所、生体鑑定を行うための診察室などを見せて頂きました。診察室では、飲酒運転の疑いがある人、児童虐待や性的虐待の被害者などを診るとのことでした。ミュンヘン大学では、小児科や学校に向けた児童虐待についてのパンフレットを作成しており、法医学教室が外部に向けて発信し、社会において身近な存在であると感じました。他にも、移民の年齢鑑定を行うこともあると聞き、法医学の幅広さを感じました。
 次に、裁判の見学をしました。酒に酔った男性が起こした暴行事件の事例でした。諸事情により裁判は途中で中止となりましたが、法医学は、証拠である傷を客観的に評価するという点で大変重要だと感じました。
 1日目の最後は、解剖の見学をしました。解剖室は3レーンあり、13時〜解剖は開始されました。1レーンあたり3人の医師・技師がつき、2人が解剖、1人が所見をとる、というものでした。1体の解剖が終わるとすぐに次のご遺体が運ばれ、16時ごろには約10体の解剖が終了していました。症例数の多さと、1体あたりにかけるスピードの速さ、そしてそのシステマチックな動きに驚きました。
 翌日は、頸部損傷に関する講義を受けました。乳児の頸部の骨や軟骨はまだ柔らかいため、折れにくく、圧迫の跡が残りにくいということ、焼死体などのご遺体では死因の一つとして絞首を考え、甲状軟骨をきちんと評価しなければならないということ等、学びました。講義の中では、実際の乳児の舌骨・甲状軟骨・気管の検体に触れ、その柔らかさや大きさを実感しました。
 ミュンヘン大学での実習を通し、ドイツでは、法医学が社会のシステムの一つとして非常によく機能していると感じました。また解剖、生体鑑定、年齢鑑定、裁判への出廷等、法医学の幅広さや、社会で求められる役割についても改めて学びました。今回のミュンヘン大学における実習で得られた視点をもとに、今後、日本の法医学実習にて様々なことを学んでいきたいと思います。


大崎 琢弥
 今回、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ミュンヘン大学)法医学研究所を見学させていただきました。そこで学んだことを、以下に簡潔にまとめます。
 ミュンヘン大学法医学研究所は、ミュンヘン市内に独立した建物を持っており、その中で解剖を始めとして様々な業務が行われています。Matthias Graw教授を中心に多くの医師や看護師、解剖助手の方々が勤務しています。
 解剖は年間約3,000件行われており、3台の解剖台を用いて一日に約10体の御遺体が解剖されています。実際に解剖を見学させていただいきましたが、分業化の行き届いた非常に効率的なものであり、一体当たり30分から1時間で縫合まで完了していました。
 研究所では解剖の他にも、児童虐待や性的暴行などに対する生体鑑定も行われています。専用の設備や機材が揃っており、警察や児童相談所など様々な方面からの要請に応じて鑑定を行っています。
 ミュンヘンの法医学は非常に発達しており、我が国が見習うべき部分が多くあると感じました。しかし同時に、ミュンヘンで行われていたことがそのまま日本に持ち込むことは困難であるとも感じました。
 まず、人数の問題があります。ミュンヘン大学のあるバイエルン州の人口は約1250万人で、日本の人口の10分の1程です。これに対して研究所の人員は、医師だけで20人以上在籍しており、その他の職種も含めると100人規模に達します。日本国内の法医学者が全体で150人程度であることを考えると、圧倒的な差が存在します。人員を増やせばその分費用もかかるため、この差は容易には埋まらないと思われます。
 次に、ミュンヘンでは法医学が世間に浸透しているという背景があります。研究所から、学校や病院に向けて積極的な広報活動が行われており、虐待や傷害事件の際にはスムーズに鑑定の依頼が届くようになっています。また、市民もそれを自然に受け入れていました。法医学者は裁判にも度々出席し、鑑定結果を報告するなどしています。法医学と社会が密接に連携していると感じました。これは、我が国でも広報活動に力を入れることで実現可能であると思います。
 また、ミュンヘンでの効率的な解剖は、そのまま日本で行うことは不可能です。ミュンヘンで行われていた方法は迅速で効率的ではありますが、その分簡略化されている部分もあります。日本、特に本学での解剖では、臓器の断面一つ一つに至るまで写真を残しますが、そういったことはしません。このことは日独間で法医学に求められるものが違うからであると考えられます。
 以上より、基本的にはミュンヘン大学の方法を参考にしつつ、日本でも実現可能な形にアレンジしていくことが必要であると考えます。例えば、長崎大学で行われている音声入力による解剖所見の記録は、人手を増やすことなく解剖を効率化できる方法の最もたる例です。このような工夫を行うことも必要であると感じました。
 最後に、見学を快く受け入れてくださった研究所ディレクターのMathhias Graw教授、現地での案内や通訳をしてくださったLisa Eberle先生、引率をしてくださった長崎大学法医学教室の池松和哉教授始め、諸先生方にお礼申し上げます。
 本当に、ありがとうございました。


樋口 尚浩
 今回、ミュンヘン大学を訪問させていただき、ドイツのバイエルン州における法医学の現状について学ぶ機会があったので、ご報告させていただきます。私は、5月7日にルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)を訪問しました。ミュンヘン大学には、それぞれの科が独立した棟を持っており、それぞれが大きく驚きを隠せませんでした。法医学の研究所は、とても新しく大きな施設で、年間4000体の解剖を行なっています。そこでは、解剖だけでなく生体鑑定・中毒検査なども行なっていました。生体鑑定では、児童虐待、レイプ、傷害事件が発生した場合に、警察が被害者を法医学研究所に連れてきて鑑定を行なっていました。ドイツの裁判所で法医学者が証人出廷する様子も見学することができました。第三者の視点から傷や、傷害機序の評価を証人として述べ、証言によっては刑の重みが変化すると聞き、責任が大きいと感じました。このようにドイツでは、法医学が社会に深く関わっており、法医学者が様々な場所で働くことができる環境が整っていると思いました。私は、近年増加している児童虐待問題や、孤独死問題などにより日本社会での法医学の必要性は大きいと感じます。ドイツのように法医学が日本社会とより身近になることが必要だと思いました。
 解剖の見学では、解剖台が3台並列しており、1日に多い時で12体の解剖を行っていて大変驚きました。私は3件(薬物中毒と思われる死体、腐敗死体、医療過誤が疑われた死体)を見学しました。そこでもドイツと日本の違いを多く感じました。それぞれの解剖台に法医学者が3〜4人いて、トランシーバーで書記の人に伝える人、臓器の切り出しを行う人、切り出された臓器に異常がないか調べる人とそれぞれの役割が決まっておりシステマチックに解剖が進んでいました。また、ドイツでは所見を写真として保存することはあまりしていないということでした。解剖にかける時間は症例にもよると思いますが、1体を約1時間で行なっていてとても早いなという印象を受けました。
 頸部の所見を専門とする先生の講義では、実際に今まであった症例の保存検体を用いて頸部の骨折や損傷を見たときにどのようなことが考えられるかを教えていただき、大変勉強になりました。腐敗した死体から頸部の刺創を見つけ他殺であることを判定し、事件解決の手がかりになったということを聞き感銘を受けました。
 最後になりましたが、実際にドイツと日本の法医学の違いを自分の目で確かめることができ、大変勉強になりました。このような機会をいただき、ミュンヘン大学、長崎大学の関係者の皆様に御礼申し上げます。


前原 洋順
 ミュンヘン大学法医学研究所にて見学、実習を行いましたので、ここに報告させていただきます。
 ミュンヘンはバイエルン州の州都であり、ドイツでは3番目に大きな都市です。今回私が実習させていただいたミュンヘン大学は、1472年に同じくバイエルンの大都市、インゴルシュタットで設立され、長い歴史を経て1826年にこのミュンヘンに移転された、大変歴史ある大学です。ドイツの中でも様々なランキングで他大学と1位を争い、国内外で高く評価されている大学でもあります。大学病院は科ごとに建物が分かれており、キャンパスの敷地も大変広く、今回実習させて頂いた法医学研究所を探してたどり着くのも一苦労なほどでした。研究所も大変大きく、まず日本との規模の違いに驚かされました。
 法医学研究所では2日間実習を行わせていただき、1日目は研究所でのカンファランスへの参加、裁判傍聴、研究所の施設見学、法医学解剖見学を行い、2日目は本学でレクチャーの受講、研究所内で頸部の解剖に関するレクチャーの受講をさせていただきました。
 実習1日目は月曜日であり、土曜、日曜に集まった症例に関して朝のカンファランスで議論が行われていました。ミュンヘン大学にはバイエルン全体から症例が集まるため、なかには大変興味深い症例もありました。
 その後裁判所では厳重なセキュリティの元、暴行事件に関する裁判の傍聴を行うという貴重な機会を頂きました。この裁判において法医学者は、被害者の傷の鑑定を行い、裁判で証言するという立場で出頭していました。ドイツでは法医学の認知度が日本よりも高いそうで、傷害事件や殺害事件の裁判で法医学者が出頭することが一般的なのだそうです。またドイツは移民が大変多く、母国語をドイツ語としない人も少なくありません。今回傍聴した裁判は暴行事件に関するものでしたが、被疑者がドイツ語をうまく話せないため、裁判専門の通訳が参加しており、社会的背景の違いを感じました。日本国内でもなかなか裁判を傍聴する機会はありませんので、とても刺激的でした。
 施設見学では、解剖室、遺体安置室、生体鑑定のための診察室などを見学させていただきました。ドイツでは日本と異なり、生体鑑定が盛んに行われています。暴行事件、虐待などが起きた際、病院での緊急の処置が必要ない場合、被害者が直接法医学研究所の診察室に来室し、鑑定を受けることも多いと聞き、大変驚きました。診察室には採血室、飲酒運転後の運動・判断能力試験設備、内診台などがありました。特に印象的だったのは性犯罪被害を受けた後の検査で、被害にあったと訴える患者から被疑者の遺留物を採取し、内診所見をとるということでした。診察室内には被害にあった人や家族、その人を診察するであろう医療機関などに対する情報提供用のパンフレットもおいてあり、ドイツの法医学が社会に対して積極的に働きかけているということを感じました。傷害事件での鑑定では、傷の性状だけでなく、地面からの傷までの距離や障害を受けたときの体勢などまで鑑定するそうで、日本の臨床実習とは全く別の視点で患者を診察する点におもしろさを感じました。法医学という学問が社会に対する太いパイプを持ち、大変うまく機能しているように感じました。
 司法解剖の見学では、3体の御遺体の解剖を見学させていただきました。ドイツでの解剖は日本での解剖と比較して一体に対する解剖時間がとても短く、その分一日の解剖数が圧倒的に多いのが特徴です。これには法医学に関わるマンパワーや、解剖に対する人々の理解、制度の違いなどが関係しており、ここでも社会的背景の違いを感じました。2日目の講義では、創傷の所見からどのように受傷起点や凶器の形状などを考察するかについて学びました。また研究所内では、解剖を行った御遺体の頸部の組織を保存、固定し、頸部圧迫の所見などを細かく分析する研究についてお話を伺いました。縊頸や絞頸、扼頸の頸部所見や年齢による所見の相違などについても講義していただきました。過去実際に鑑定された症例を実際に見ながら、頸部に損傷が生じた際、どの部位にどのような所見が生じるか詳しく学ぶことが出来、大変おもしろかったです。
 長崎でも法医学という同じ学問を学んでいるはずなのに、ドイツで見た法医学はとても新鮮で、大きな違いを感じました。解剖、生体鑑定などに必要となる医学的知識を深めることが出来たのはもちろんですが、同時に文化的な違いや社会的背景の違いなども学ぶことが出来、大変貴重な経験となりました。改めて法医学が社会医学であることを実感するとともに、日本の医療制度、社会制度を海外と比較することで、理解がより深まり、色々な角度から考察することが出来るのだと感じました。
 ミュンヘン大学医学部法医学研究所のグラーフ先生、リサ先生、長崎大学法医学教室の池松先生をはじめ、このような大変素晴らしい機会を与えてくださった関係者の皆様に、心から感謝申し上げます。

韓国2018年

長崎大学医学部 クリクラ学生
坂田 尚弥、白髭 知之、藤瀬 悠太

 今回、ソウル市を中心として韓国に滞在し、科学捜査研究院、高麗大学法医学部教室、ソウル大学法医学部教室を訪問させていただき、韓国における法医学の現状と教育について学ぶ機会を得たのでここに報告する。 

<国立科学捜査研究院訪問>
 今回、1月15日に国立科学捜査研究院(NFS:National Forensic Service Seoul Institute)を訪問した。NFSは犯罪捜査にかかわる鑑定を実施し、科学捜査を支援することを目的とした韓国の研究機関である。1955年に内務省所属機関として国立科学捜査研究所として設立され、2010年に国立科学捜査研究院に昇格している。
 施設には、解剖室は解剖台数が全部で11台あり、それに加えて感染症対策のための閉鎖室、警察や遺族の方達のための会議室も複数設けられていた。死後画像検査機器として、レントゲン撮影装置や最新の384列マルチスライスCT撮影装置も施設に配備されており、全例に対しCT画像検査を行っていること、画像の判読は周辺地域の大学病院放射線科の医師が行いレポートを作成していることなどもお話しいただけた。当施設の規模の大きさと機器の充実には驚きを隠せなかった。
 韓国は2018年現在、人口は約5千万人で、国内では毎年約25万人が死亡しており、それに対して約8000件の解剖が行われている現状である。このNFSでも2017年には約2800件の死体解剖が行われており、全解剖件数における割合を考慮しても韓国の犯罪捜査や死因究明において大役を担う施設だといえるであろう。ただ、この解剖数は以前から維持されていたわけではなく、2015年6月の“曽坪事件”をきっかけとして、社会や行政より、犯罪捜査における死因究明の重大性が意識され、年々の解剖数の増加につながったとのことであった。今回韓国のNFS見学から、法医学に対する社会や行政からの期待がではひときわ大きいものであることが感じられた。
国立科学捜査研究院訪問

<高麗大学医学部 法医学教室訪問>
 1月16日はSung-Hwan Park教授が主宰する、高麗大学医学部法医学教室を見学させて頂いた。前身は1905年に設立された「普成専門学校」で、第二次世界大戦後の1946年に総合大学として創設された。早稲田大学とは姉妹校の関係である。キャンパス自体はとても新しく、太陽の明かりを十分に取り入れた開放的なつくりになっており、とても過ごしやすい環境のように思えた。
 高麗大学では、実際に解剖をさせてもらったり学内の教育施設を案内して頂いたりと、韓国の法医学についての話を交えながらとても有意義な時間を過ごすことができた。その日の解剖はもともと3件ある予定だったのだが、そのうち1件は裁判所によって却下されてしまったとのことで2件の解剖を見学させてもらった。1件目は急性心臓死疑いのご遺体で、高麗大学の先生が所見を丁寧に教えてくださったので、しっかり理解しながら解剖を見ることが出来た。2件目は凍死疑いのご遺体で、実際に血液の色調が左心系では鮮赤色,右心系では暗赤色を呈している様子をみることができた。
 解剖が終わると、学内の施設を案内してもらえたのだが、解剖の教育として導入されている巨大タブレット、ロボット手術をすることができるda-Vinciのシュミレーター、顕微鏡手術のシュミレーターなど数々の最先端の機材がそろっており、教育施設としてとても充実したところなのだと思った。これまで日本の法医学を学んできた私達としては、今回高麗大学を見学することができたのは大きな刺激となった。
高麗大学医学部 法医学教室訪問①
高麗大学医学部 法医学教室訪問②
高麗大学医学部 法医学教室訪問②  

<ソウル大学医学部 法医学教室訪問>
 1月17日、韓国滞在3日目は朝からPark教授の運転で、ソウル大学(Seoul National University : SNU)医学部キャンパスへ向かった。SNUは旧帝国大学で、日本植民地時代の建物も残されており非常に趣深かった。
 到着後、法医学教室に案内され、Soong Deok Lee教授と面会をした。
 まず、Lee教授から歓迎の言葉を頂いた。そして、我々の自己紹介をしたのちに、韓国の法医学の現状について、特に教育を中心にディスカッションを行なった。
 韓国において(医師の)法医学者は皆、法医病理学者であり、法医学者になるためには、まず6年間の医学部教育を受け、次に卒後1年間色々な診療科をローテートする研修を修了し(日本の初期研修相当)、その後4年間の病理部配属により病理専門医を取得する必要があるとの事であった。つまり、最速でも医学部卒後6年目から法医学の専門領域に足を踏み入れるという事である。
 韓国も日本と同じく、法医学者のなり手が少ないことが問題になっているが、オルガナイズされた勧誘のシステムは無く、個人ベースで学生・医師の勧誘を行なっているとのことであった。
 NFSでの解剖数が多く、大学での剖検数が少ないことが法医学教育の機会の少なさに繋がっており、大学での剖検数が増えない限り質の高い法医学教育を医学生および研修医に提供するのは難しいとLee教授が仰っていたのが印象的であった。
 ディスカッション後には解剖室およびラボ、そして医学部キャンパス全体の見学をさせて頂いた。

 最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった、高麗大学法医学教室のPark教授、長崎大学法医学教室教授の池松先生をはじめとした、すべての関係者の先生方に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

ソウル大学医学部 法医学教室訪問

ホノルル監察医事務所2017年

長崎大学医学部
(研究医コース学生)
近藤 萌 
(クリクラ学生)
 西原 聖仁 
(大学院生)
芝池 由規 

 2017年5月15日、16日にハワイ・ホノルルの監察医事務所(Honolulu Medical Examiner Office)を訪問しました。カンファレンスや解剖を見学させて頂き、事務所で働かれている小林雅彦先生にアメリカの法医学について講義をして頂きました。
 アメリカでは、州によってMedical Examiner制度とCoroner制度が混在していて、ハワイでは前者が採用されています。Medical Examiner制度は、法医・病理医として専門の研修を受けた専門医師であるMedical Examinerが死因究明の責任者となる制度です。日本の監察医制度は、この制度を参考に導入されていますが、警察から独立した捜査権を持たないところがMedical Examiner制度とは大きく異なります。
 ホノルルの事務所では、年に7000-8000人の死亡数に対し、2400-2500件捜査(書類のみの捜査を含める)を行い、700-800件解剖や検視を行っています。医師が、死亡診断書に硬膜下血腫など事故死のキーワードを書くと、保健省からデータが事務所に送られるようになっているそうです。葬儀社に免許を持つ人がいて、死亡診断書に不適切な点があれば事務所に報告することになっているとのことでした。また、遺族から直接事務所に解剖依頼がくることもあるそうです。捜査は事務所に勤めるDeath investigatorと呼ばれる人が行っています。非医師であり、多くは大学で法科学を学んだ人や、警察出身者です。
 15日の解剖は2件、16日は4件でした。事務所には解剖を行う医師は3人いて、当番制になっており、1日3件までは一人の医師が担当するそうです。多い時には1日15件になることもあります。まずカンファレンスを行い、Death investigatorにより症例の周辺状況について説明を受けてから解剖を行います。遺体は、挿管チューブなどの医療器具を含め死亡時の状態が保たれていました。まず解剖医が全身の外表所見をとり、非医師である解剖補助員が臓器などを取出し、その臓器について解剖医が重量等を測ったり割面を観察したりしていました。2日間とも解剖は午前中に終了しました。皮膚の縫合は葬儀社が主に行っているということで、分業することが時間の短縮に寄与していると感じました。
 意外に感じたのは、ハワイでは大学で法医学の授業がなく、死亡診断書の書き方を法医学者から習うことがないということです。死亡診断書のチェック機構があることにはそのような背景もあるのかもしれないと考えました。また、解剖に対する抵抗感が日本よりも小さいようであること、ハワイのMedical Examinerは日本の法医学者よりはるかに待遇が良いことも興味深い相違点として挙げられました。
 米国における法医学の実情や法医学者への道、小林先生が実際に経験された症例等について講義をしてくださいました。米国本土での殺人数や殺人の種類は日本の状況と大きく異なり、ハワイも日本の水準に比べ殺人数は多いものの、米国本土に比べると少なく、殺人の手段も似ているようでした。また、ハワイでは薬物乱用が多いということも印象的でした。解剖数は日本よりも多く「死因究明」により重点を置いた解剖をしている印象を持ちました。米国では法医学者として働く為には、病理学の専門医をとる必要があり、日本の法医学者と米国の法医学者の大きな違いでした。小林先生が経験された症例では日本では珍しい銃が関係したものや、ハワイに生息している特徴的なサメの噛み傷などを紹介してくださりいずれの症例も興味深いものばかりで法医学に対する興味が刺激される内容でした。
 全体を通して、ハワイでは、解剖数が多いこと、そして事務所が取り扱う事例が多いことが印象的でした。見逃しの可能性があるような死亡例を拾い上げ、専門家がチェックできる制度が日本よりも整っている印象を受けました。死因究明を重視した解剖により出来るだけ多くの事例を扱うこと、書類のみの捜査も多数行っていることは、日本より殺人事件が多いハワイにおいて非常に重要なことなのだと感じました。また、捜査官、解剖補助員など非医師のスタッフが活躍していて、法医学者の人手不足をカバーしているように見受けられました。
 ハワイの制度について学ぶことで、日本の現状についても興味深く学ぶことが出来ました。解剖の制度は国や州などによって大きく異なり、それぞれに長所・短所があるのが現状であり、その地域にあったより良い制度を模索していく為に、他の制度を学ぶことはとても有意義であると感じました。
 貴重な学習の機会を与えて頂いたHonolulu Medical Examiner Officeの小林雅彦先生、長崎大学法医学教室教授の池松先生をはじめとした全ての関係者の方々に心より感謝申し上げます。

ホノルル監察医事務所2017年

ミュンヘン大学法医学教室2015年

長崎大学医学部 クリクラ学生
赤松・江口・松本

 今回、ドイツ・ミュンヘンの中心部に所在する、ミュンヘン大学法医学研究所において実習、および見学を行いましたので、ここに報告いたします。
 主に私たちが現地で取り組んだ活動ですが、以下の3点であり、これらの3点について特に焦点を当て、以降記述します。
ミュンヘン大学法医学研究所の施設内容の見学
司法解剖実習および講義解剖
飲酒試験

 
ミュンヘン大学法医学研究所の施設内容の見学
 ミュンヘン大学法医学部はとても広く、一般人も敷地内を自由に通れるほど、仰々しいエントランスはありませんでした。街中にとけ込んでいる印象を受けました。あらゆる科が独立した棟を持っていたのは驚きでした。外科は外科の、内科は内科の棟を持っていて、もちろん法医学も独立していました。ただし、全てが法医学教室で占めているわけでなく、薬学部研究室などもありました。
 年間4000体を解剖するとあって、解剖室は長崎大学の3倍もあり、解剖台に解剖に必要な器具や機能がコンパクトに集約されていました。ご遺体をストレッチャーごと重量測定し、次々とご遺体が準備される様に圧倒されました。講義解剖を行える広い講義室があり、医学部生だけでなく法学部生などの他学部の学生の講義にも力を入れているそうです。長崎大学との大きな違いは、外来もやっており、専用の診察室があるということです。内診台も設置されています。ドイツではDVや虐待、性犯罪が多く、国が被害者の受診をすすめています。移民も多いのでアラビア語やロシア語などのパンフレットが準備されていました。
 研究も盛んで、さまざまな標本が保存されていました。毛髪からその人のルーツを探る研究をされているドクターがいらっしゃり、毛髪の成分は食生活と大きく関わりがあるといった興味深い話を聞くことができました。
 また、法医学教室のための広々とした図書室があり、ミーティングもそこで行っているそうです。コーヒーを飲みながら休憩をとることのできる明るい談話室も併設されていて、そこで働く人に必要な施設が十分にそろっているようでした。教官ひとりひとりの部屋がありながらも、スタッフ同士しっかりとしたコミュニケーションをはかっている印象でした。
 ミュンヘン大学と長崎大学の法医学は長い交流の歴史があり、私たちもその一員として立派な施設を見学でき、大変貴重な体験となりました。長崎大学法医学教室との規模の違いに目をみはるばかりでした。

司法解剖実習および講義解剖
 ミュンヘン大学では、年間約4000体の解剖を行います。教室に勤務する法医学者は約30人で、その半数以上が女性です。解剖は基本的に平日にのみ行われています。朝、その日のご遺体に関するミーティングを行い、午後より解剖を行います。解剖室には3台の解剖台があり、並行して解剖が行われ、多くは約1時間で1体の解剖が終了します。病院で死亡が確認されそのままの状態で搬送されてくるので、挿管チューブや静脈ルート、中心静脈カテーテルなどが入ったままのご遺体も多く見られました。死因究明へのアプローチ法は、状況等から推測される死因により方法を変えるという、1日に多くのご遺体を解剖するミュンヘン大学ならではやり方であり、年間約120体の解剖を行う長崎大学のものとは少し異なると感じました。また、プレパレーションというマクロでは気付けない頸部軟骨などの頸部の損傷をミクロの視点から観察するという世界でも行う人は数少ない手法も有しています。
 ミュンヘンは大学では講義解剖といって、医学生、看護学生、法学部学生などが講義室一杯に集う教室で、教育目的でご遺体の解剖を行う授業があります。今回、機会に恵まれ実際に参加する事ができました。講義解剖は、実際の解剖同様の手順で行われ、時折学生を前に呼び、近くで観察する機会を与えていました。これとは別に医学生に対しては検死の実習もありますが、このような実習が行えるのは、スタッフ数の多さや設備の豊富さをはじめとして、ミュンヘン大学の学生の意識の高さがあってこそだと言えます。さらに、こういった実習によって、法医学というものを身近に感じやすい環境に置かれている事がスタッフ数の多さに反映されている一因かもしれないと感じました。

飲酒試験について
 法学生を対象に、アルコール血中濃度0.1%に至るためのアルコール量を体重から計算し、そのアルコール量に該当するビール、または白ワインを飲み、意識や判断力がどれ程影響するかを体験するというものでした。飲酒運転を防止する団体が酒類、濃度の計測にかかる費用を出し、法医学教室の医師が試験を実施していました。
 私たちは、白ワインを選択し、400mlを30分ほどで全て飲み、呼気アルコール濃度、血中アルコール濃度を計測しました。血中アルコール濃度については、後日の計測になり、血液サンプルを採取したのみであったが、呼気アルコール濃度については、学生3人それぞれで、0.089%、0.084%、0.092%と大差はありませんでしたが、意識や判断力、外見上の変化については大きく差が出ました。3人の学生のうちの、アセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の遺伝子型の違いの内訳ですが、高活性(優性ホモ)が1人、低活性(ヘテロ)が2人でした(長崎大学病院での実習で確認済み)。高活性の学生は、多弁、緊張の減少、行動の活発化が見られたのに対し、低活性の学生のうち1人は前述の様子に加え、顔面の紅潮が見られ、さらにもう1人の学生は、顔面の紅潮、平衡感覚の麻痺、眠気が現れ、最終的には飲酒開始後1時間強で寝てしまうという結果になりました。以上より、アルコール濃度に関しては個々に大差はないものの、アルコールに対する感受性に関しては、ALDH2の遺伝子型によって大きく差が出るということを経験しました。
 今回は、現地の法学生(多くが5、6年生)の飲酒試験に一緒に参加させてもらうという形で実施しましたが、現地の法学生も呼気濃度については私たちと大差はなかったものの、外見上の変化については、私たちが見て、会話をした限り、全く変化がなく、ヨーロッパはアルコールの感受性が低い(いわゆる酒の強い)人種がほとんどであるのだと感じました。
 現在の法規制では、呼気アルコール濃度によって、酒気帯び運転、飲酒運転などと区別し、罰則についても濃度によって異なっていますが、実際に運転に支障を及ぼすのは、アルコールに対する感受性によって影響した判断力であり、呼気アルコール濃度によって罰則を決定するのは本当に正しいのかどうか疑問に感じました。例えば、ALDH2の遺伝子型がヘテロであれば、法規制の範囲内のアルコール濃度であっても判断力に影響がでることも考えられます。しかし、判断力については飲酒をしていない状態でも個人に差があるうえ、客観的に計測することが困難であるため、アルコール濃度を計測し、それを頼りにする他に方法がないのだと考えました。

 以上のように、今回海外の法医学教室の取り組み、勤務内容について見聞を広げたことにより、日本の法医学との比較が可能になり、それぞれの長所短所について考察することが出来る大変良い機会を得ることができました。
 このような素晴らしい機会を与えてくださった、ミュンヘン大学法医学研究所のリサ医師、長崎大学法医学教室教授の池松先生をはじめとした、すべての関係者の先生方に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

ミュンヘン大学法医学教室2015年①
ミュンヘン大学法医学教室2015年②


ミュンヘン大学法医学教室2014年

長崎大学医学部 研究医コース学生
(研究医コース学生)
神山 孝憲 
濱 義明 
小島 丈夫 
(大学院生)
村瀬 壮彦 

 今回、5月8日・9日にミュンヘン大学法医学教室を訪問させていただきました。
 まず施設ですが、解剖室をはじめ、研究所、図書室、診察室が含まれているきれいな施設でした。入り口のセキュリティもしっかりしていて、各部署のセキュリティも厳重でした。解剖室は3部屋にわかれており、そのうち1つの部屋は感染症に対応している閉鎖室でした。解剖は1体あたり約45分を目安に行い、1年に3千〜4千体行っています。解剖台上部のカメラで所見記録を行い、ディクテーションはレコーダーに録音し、それらをパソコンで一括管理していました。
 解剖は目撃者の有無、予想される死因により様式を変え、とにかく死因究明に特化したものでした。遺体は死亡時の状態で搬送されるため静脈ルートやAEDのパッドなどがついたままの症例もありました。解剖は遺体が発見されてから最短1時間で行えるシステムが整っていました。解剖ならびに検案に並行して移植のための臓器採集も行われていました。
 ミュンヘンではレイプや児童虐待が多く発生しており、ミュンヘン市はそれらの被害者が無償で受診できるような制度があるそうです。受診を促すパンフレットも充実しておりアラビア語を含めたいろいろな言語で書かれておりました。またそれらの生体鑑定を行うための診察室も充実しており、内診台も備わっていました。週末と夜は専門の担当医がいて24時間対応しているそうです。
 次に病理標本、組織標本の部屋を見学させていただきました。臓器保管庫は2年としており、警察の要望で延長できるとのことでした。
 またアイソトープによる個人識別を行っており、採取された頭髪から人種や生育環境、食べ物まで推定できるとのことでした。私たちも頭髪をサンプルとして提供させていただきました。
 最後に裁判を見学させていただきました。日本とは異なり、裁判官が被告に直接尋問し、事実関係を明らかにする様子がありました。見学した傷害事件を扱う裁判では、法医学者が生体鑑定の結果を証言することになっていました。

 ミュンヘン大学法医学教室見学を通して、教室の設備や解剖の様式における日本との違いを学ぶことができました。また、傷害事件や殺人事件では裁判に法医学者が出廷するのが当たり前となっており、日本に比べて法医学に対する社会や行政、司法の期待が大きいように見て取れました。法医学に対する社会の要求に応じて設備やスタッフを充実させると共に、死因究明や生体鑑定など法医学が必要とされる場面で存分に役割を果たすことができるシステムを構築することが日本においても重要であると感じました。

ミュンヘン大学法医学教室2014年
 最後になりましたが、このような貴重な機会をいただきましたこと、ミュンヘン大学並びに長崎大学の関係者の皆様に御礼申し上げます。
 
法医学教室について
教授挨拶
スタッフ紹介
業務・研究内容
ご遺族の皆様へ
死因究明医育成センター
九州法医学ワークショップ
法医学の医師になろう!高校生の皆さまへ
業績
大学院生募集
関連リンク
お問い合わせ
国立大学法人 長崎大学  
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻社会医療科学講座
法医学分野 (長崎大学医学部法医学)
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