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(医学部学生向け)海外研修
ホノルル監察医事務所2017年

長崎大学医学部
(研究医コース学生)
近藤 萌 
(クリクラ学生)
 西原 聖仁 
(大学院生)
芝池 由規 

 2017年5月15日、16日にハワイ・ホノルルの監察医事務所(Honolulu Medical Examiner Office)を訪問しました。カンファレンスや解剖を見学させて頂き、事務所で働かれている小林雅彦先生にアメリカの法医学について講義をして頂きました。
 アメリカでは、州によってMedical Examiner制度とCoroner制度が混在していて、ハワイでは前者が採用されています。Medical Examiner制度は、法医・病理医として専門の研修を受けた専門医師であるMedical Examinerが死因究明の責任者となる制度です。日本の監察医制度は、この制度を参考に導入されていますが、警察から独立した捜査権を持たないところがMedical Examiner制度とは大きく異なります。
 ホノルルの事務所では、年に7000-8000人の死亡数に対し、2400-2500件捜査(書類のみの捜査を含める)を行い、700-800件解剖や検視を行っています。医師が、死亡診断書に硬膜下血腫など事故死のキーワードを書くと、保健省からデータが事務所に送られるようになっているそうです。葬儀社に免許を持つ人がいて、死亡診断書に不適切な点があれば事務所に報告することになっているとのことでした。また、遺族から直接事務所に解剖依頼がくることもあるそうです。捜査は事務所に勤めるDeath investigatorと呼ばれる人が行っています。非医師であり、多くは大学で法科学を学んだ人や、警察出身者です。
 15日の解剖は2件、16日は4件でした。事務所には解剖を行う医師は3人いて、当番制になっており、1日3件までは一人の医師が担当するそうです。多い時には1日15件になることもあります。まずカンファレンスを行い、Death investigatorにより症例の周辺状況について説明を受けてから解剖を行います。遺体は、挿管チューブなどの医療器具を含め死亡時の状態が保たれていました。まず解剖医が全身の外表所見をとり、非医師である解剖補助員が臓器などを取出し、その臓器について解剖医が重量等を測ったり割面を観察したりしていました。2日間とも解剖は午前中に終了しました。皮膚の縫合は葬儀社が主に行っているということで、分業することが時間の短縮に寄与していると感じました。
 意外に感じたのは、ハワイでは大学で法医学の授業がなく、死亡診断書の書き方を法医学者から習うことがないということです。死亡診断書のチェック機構があることにはそのような背景もあるのかもしれないと考えました。また、解剖に対する抵抗感が日本よりも小さいようであること、ハワイのMedical Examinerは日本の法医学者よりはるかに待遇が良いことも興味深い相違点として挙げられました。
 米国における法医学の実情や法医学者への道、小林先生が実際に経験された症例等について講義をしてくださいました。米国本土での殺人数や殺人の種類は日本の状況と大きく異なり、ハワイも日本の水準に比べ殺人数は多いものの、米国本土に比べると少なく、殺人の手段も似ているようでした。また、ハワイでは薬物乱用が多いということも印象的でした。解剖数は日本よりも多く「死因究明」により重点を置いた解剖をしている印象を持ちました。米国では法医学者として働く為には、病理学の専門医をとる必要があり、日本の法医学者と米国の法医学者の大きな違いでした。小林先生が経験された症例では日本では珍しい銃が関係したものや、ハワイに生息している特徴的なサメの噛み傷などを紹介してくださりいずれの症例も興味深いものばかりで法医学に対する興味が刺激される内容でした。
 全体を通して、ハワイでは、解剖数が多いこと、そして事務所が取り扱う事例が多いことが印象的でした。見逃しの可能性があるような死亡例を拾い上げ、専門家がチェックできる制度が日本よりも整っている印象を受けました。死因究明を重視した解剖により出来るだけ多くの事例を扱うこと、書類のみの捜査も多数行っていることは、日本より殺人事件が多いハワイにおいて非常に重要なことなのだと感じました。また、捜査官、解剖補助員など非医師のスタッフが活躍していて、法医学者の人手不足をカバーしているように見受けられました。
 ハワイの制度について学ぶことで、日本の現状についても興味深く学ぶことが出来ました。解剖の制度は国や州などによって大きく異なり、それぞれに長所・短所があるのが現状であり、その地域にあったより良い制度を模索していく為に、他の制度を学ぶことはとても有意義であると感じました。
 貴重な学習の機会を与えて頂いたHonolulu Medical Examiner Officeの小林雅彦先生、長崎大学法医学教室教授の池松先生をはじめとした全ての関係者の方々に心より感謝申し上げます。

ホノルル監察医事務所2017年

ミュンヘン大学法医学教室2015年

長崎大学医学部 クリクラ学生
赤松・江口・松本

 今回、ドイツ・ミュンヘンの中心部に所在する、ミュンヘン大学法医学研究所において実習、および見学を行いましたので、ここに報告いたします。
 主に私たちが現地で取り組んだ活動ですが、以下の3点であり、これらの3点について特に焦点を当て、以降記述します。
ミュンヘン大学法医学研究所の施設内容の見学
司法解剖実習および講義解剖
飲酒試験

 
ミュンヘン大学法医学研究所の施設内容の見学
 ミュンヘン大学法医学部はとても広く、一般人も敷地内を自由に通れるほど、仰々しいエントランスはありませんでした。街中にとけ込んでいる印象を受けました。あらゆる科が独立した棟を持っていたのは驚きでした。外科は外科の、内科は内科の棟を持っていて、もちろん法医学も独立していました。ただし、全てが法医学教室で占めているわけでなく、薬学部研究室などもありました。
 年間4000体を解剖するとあって、解剖室は長崎大学の3倍もあり、解剖台に解剖に必要な器具や機能がコンパクトに集約されていました。ご遺体をストレッチャーごと重量測定し、次々とご遺体が準備される様に圧倒されました。講義解剖を行える広い講義室があり、医学部生だけでなく法学部生などの他学部の学生の講義にも力を入れているそうです。長崎大学との大きな違いは、外来もやっており、専用の診察室があるということです。内診台も設置されています。ドイツではDVや虐待、性犯罪が多く、国が被害者の受診をすすめています。移民も多いのでアラビア語やロシア語などのパンフレットが準備されていました。
 研究も盛んで、さまざまな標本が保存されていました。毛髪からその人のルーツを探る研究をされているドクターがいらっしゃり、毛髪の成分は食生活と大きく関わりがあるといった興味深い話を聞くことができました。
 また、法医学教室のための広々とした図書室があり、ミーティングもそこで行っているそうです。コーヒーを飲みながら休憩をとることのできる明るい談話室も併設されていて、そこで働く人に必要な施設が十分にそろっているようでした。教官ひとりひとりの部屋がありながらも、スタッフ同士しっかりとしたコミュニケーションをはかっている印象でした。
 ミュンヘン大学と長崎大学の法医学は長い交流の歴史があり、私たちもその一員として立派な施設を見学でき、大変貴重な体験となりました。長崎大学法医学教室との規模の違いに目をみはるばかりでした。

司法解剖実習および講義解剖
 ミュンヘン大学では、年間約4000体の解剖を行います。教室に勤務する法医学者は約30人で、その半数以上が女性です。解剖は基本的に平日にのみ行われています。朝、その日のご遺体に関するミーティングを行い、午後より解剖を行います。解剖室には3台の解剖台があり、並行して解剖が行われ、多くは約1時間で1体の解剖が終了します。病院で死亡が確認されそのままの状態で搬送されてくるので、挿管チューブや静脈ルート、中心静脈カテーテルなどが入ったままのご遺体も多く見られました。死因究明へのアプローチ法は、状況等から推測される死因により方法を変えるという、1日に多くのご遺体を解剖するミュンヘン大学ならではやり方であり、年間約120体の解剖を行う長崎大学のものとは少し異なると感じました。また、プレパレーションというマクロでは気付けない頸部軟骨などの頸部の損傷をミクロの視点から観察するという世界でも行う人は数少ない手法も有しています。
 ミュンヘンは大学では講義解剖といって、医学生、看護学生、法学部学生などが講義室一杯に集う教室で、教育目的でご遺体の解剖を行う授業があります。今回、機会に恵まれ実際に参加する事ができました。講義解剖は、実際の解剖同様の手順で行われ、時折学生を前に呼び、近くで観察する機会を与えていました。これとは別に医学生に対しては検死の実習もありますが、このような実習が行えるのは、スタッフ数の多さや設備の豊富さをはじめとして、ミュンヘン大学の学生の意識の高さがあってこそだと言えます。さらに、こういった実習によって、法医学というものを身近に感じやすい環境に置かれている事がスタッフ数の多さに反映されている一因かもしれないと感じました。

飲酒試験について
 法学生を対象に、アルコール血中濃度0.1%に至るためのアルコール量を体重から計算し、そのアルコール量に該当するビール、または白ワインを飲み、意識や判断力がどれ程影響するかを体験するというものでした。飲酒運転を防止する団体が酒類、濃度の計測にかかる費用を出し、法医学教室の医師が試験を実施していました。
 私たちは、白ワインを選択し、400mlを30分ほどで全て飲み、呼気アルコール濃度、血中アルコール濃度を計測しました。血中アルコール濃度については、後日の計測になり、血液サンプルを採取したのみであったが、呼気アルコール濃度については、学生3人それぞれで、0.089%、0.084%、0.092%と大差はありませんでしたが、意識や判断力、外見上の変化については大きく差が出ました。3人の学生のうちの、アセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の遺伝子型の違いの内訳ですが、高活性(優性ホモ)が1人、低活性(ヘテロ)が2人でした(長崎大学病院での実習で確認済み)。高活性の学生は、多弁、緊張の減少、行動の活発化が見られたのに対し、低活性の学生のうち1人は前述の様子に加え、顔面の紅潮が見られ、さらにもう1人の学生は、顔面の紅潮、平衡感覚の麻痺、眠気が現れ、最終的には飲酒開始後1時間強で寝てしまうという結果になりました。以上より、アルコール濃度に関しては個々に大差はないものの、アルコールに対する感受性に関しては、ALDH2の遺伝子型によって大きく差が出るということを経験しました。
 今回は、現地の法学生(多くが5、6年生)の飲酒試験に一緒に参加させてもらうという形で実施しましたが、現地の法学生も呼気濃度については私たちと大差はなかったものの、外見上の変化については、私たちが見て、会話をした限り、全く変化がなく、ヨーロッパはアルコールの感受性が低い(いわゆる酒の強い)人種がほとんどであるのだと感じました。
 現在の法規制では、呼気アルコール濃度によって、酒気帯び運転、飲酒運転などと区別し、罰則についても濃度によって異なっていますが、実際に運転に支障を及ぼすのは、アルコールに対する感受性によって影響した判断力であり、呼気アルコール濃度によって罰則を決定するのは本当に正しいのかどうか疑問に感じました。例えば、ALDH2の遺伝子型がヘテロであれば、法規制の範囲内のアルコール濃度であっても判断力に影響がでることも考えられます。しかし、判断力については飲酒をしていない状態でも個人に差があるうえ、客観的に計測することが困難であるため、アルコール濃度を計測し、それを頼りにする他に方法がないのだと考えました。

 以上のように、今回海外の法医学教室の取り組み、勤務内容について見聞を広げたことにより、日本の法医学との比較が可能になり、それぞれの長所短所について考察することが出来る大変良い機会を得ることができました。
 このような素晴らしい機会を与えてくださった、ミュンヘン大学法医学研究所のリサ医師、長崎大学法医学教室教授の池松先生をはじめとした、すべての関係者の先生方に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

ミュンヘン大学法医学教室2015年①
ミュンヘン大学法医学教室2015年②


ミュンヘン大学法医学教室2014年

長崎大学医学部 研究医コース学生
(研究医コース学生)
神山 孝憲 
濱 義明 
小島 丈夫 
(大学院生)
村瀬 壮彦 

 今回、5月8日・9日にミュンヘン大学法医学教室を訪問させていただきました。
 まず施設ですが、解剖室をはじめ、研究所、図書室、診察室が含まれているきれいな施設でした。入り口のセキュリティもしっかりしていて、各部署のセキュリティも厳重でした。解剖室は3部屋にわかれており、そのうち1つの部屋は感染症に対応している閉鎖室でした。解剖は1体あたり約45分を目安に行い、1年に3千〜4千体行っています。解剖台上部のカメラで所見記録を行い、ディクテーションはレコーダーに録音し、それらをパソコンで一括管理していました。
 解剖は目撃者の有無、予想される死因により様式を変え、とにかく死因究明に特化したものでした。遺体は死亡時の状態で搬送されるため静脈ルートやAEDのパッドなどがついたままの症例もありました。解剖は遺体が発見されてから最短1時間で行えるシステムが整っていました。解剖ならびに検案に並行して移植のための臓器採集も行われていました。
 ミュンヘンではレイプや児童虐待が多く発生しており、ミュンヘン市はそれらの被害者が無償で受診できるような制度があるそうです。受診を促すパンフレットも充実しておりアラビア語を含めたいろいろな言語で書かれておりました。またそれらの生体鑑定を行うための診察室も充実しており、内診台も備わっていました。週末と夜は専門の担当医がいて24時間対応しているそうです。
 次に病理標本、組織標本の部屋を見学させていただきました。臓器保管庫は2年としており、警察の要望で延長できるとのことでした。
 またアイソトープによる個人識別を行っており、採取された頭髪から人種や生育環境、食べ物まで推定できるとのことでした。私たちも頭髪をサンプルとして提供させていただきました。
 最後に裁判を見学させていただきました。日本とは異なり、裁判官が被告に直接尋問し、事実関係を明らかにする様子がありました。見学した傷害事件を扱う裁判では、法医学者が生体鑑定の結果を証言することになっていました。

 ミュンヘン大学法医学教室見学を通して、教室の設備や解剖の様式における日本との違いを学ぶことができました。また、傷害事件や殺人事件では裁判に法医学者が出廷するのが当たり前となっており、日本に比べて法医学に対する社会や行政、司法の期待が大きいように見て取れました。法医学に対する社会の要求に応じて設備やスタッフを充実させると共に、死因究明や生体鑑定など法医学が必要とされる場面で存分に役割を果たすことができるシステムを構築することが日本においても重要であると感じました。

ミュンヘン大学法医学教室2014年
 最後になりましたが、このような貴重な機会をいただきましたこと、ミュンヘン大学並びに長崎大学の関係者の皆様に御礼申し上げます。
 
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