東京都監察医は非常に人数が少なく、業務内容が一般に知られる機会は多くありません。その業務をかいつまんでいうと、「検案・解剖を通じて異状死体の死因を判断し、異状死にまつわる社会からの医学的な要請に応えること」となり、大学法医学教室の法医実務と大筋は変わらないように思います。もっとも、東京都監察医務院は、東京都23区のすべての異状死体を扱うという特殊機関であり、その業務にも特徴が多くあります。
検案において、監察医は補佐のサポートの下、遺体の外表観察、穿刺検査とともに、死者の背景や死亡状況の聴取を行い、死因診断あるいは解剖要の判断を下します。事件性が疑われれば、司法解剖の手続きをとるよう、司法関係者にアドバイスします。しかし、グレーゾーンのケースについて、解剖手続をどのようにするかで意見が食い違うことがあるほか、所謂医療関連死のケースにおいても、司法サイド・臨床サイドの意見調停役を務めることがあります。
当院での行政解剖は3人1班(監察医・検査技師・補佐)でスピーディーに行われるという特徴があります。解剖に付される理由としては、検案のみでは死因不明というのが最多ですが、その他に、遺族の要請、感染症疑い、労災認定・公害認定などの社会的要請、といった理由もあります。7割方は病死であり、突然死をきたす疾患(稀とされるものも含む)、未治療の典型像・極端な像などが観察されます。外因死においては、病院・警察が気付いていなかった例も経験されます。
上記の業務を通じ、監察医は極めて多数の遺体を診ます。遺体観察・死因診断の経験を積めるほか、臨床的な知識・感覚が要求されることもしばしばであり、さらには社会的な判断力も養えます。スタッフ多数で、異なる考え方に出会う機会が多いのも特徴です。臨床実務としての監察医業務、さらに、実学としての法医学に興味のある学生さんは、是非一度見学にいらしてください。
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