法医学を選んだ理由は、①医学生のころから興味があったこと、②医学部卒業後2年間内科医として働いたがそのまま臨床医として過ごす気になれなかったこと、である。私は法医学に進み今年で13年目であるが、この2つの理由だけで13年間も法医学を続けているわけでなく、この13年間には法医学を辞める機会はたくさんあった。そこで、今回は法医学を「選んだ」理由ではなく、法医学を「辞めなかった」理由を述べたい。内科医を経て大学院に入学したが、大学院では毎日のように解剖があり研究はなかなか進まず(解剖を理由にして自分を納得させていた)、研究は誰かが導いてくれるものと甘い考えを持っていた。あっという間に4年が経過し、結果的に学位取得が約半年遅れてしまった。卒業後の行き先はなく法医学への興味は徐々に薄れ、学位だけは取得して臨床医に戻ろう(正確には辞めざるを得ない)、と考えていたところ、他大学から助手のオファーがあり学位を持たないまま赴任した。これが私にとって大きな転機となった。赴任後、他教室の教授数人から学位がないことに対し、「君は一体4年間何していた?」「君は研究者に向いてないからさっさと辞めなさい」「この1年で結果がでなければ辞めた方がいいよ。どうせ無理だろうけど」とさんざんこき下ろされた。しかし、今までの自分の考えが非常に幼稚であったことに気付かされ、同時に「こいつらを見返してやろう」と奮い立った。怒りをエネルギーに換え、研究し論文を書いた。幸い、赴任先の教室は研究し論文を書く環境が整っており、スタッフは全員協力的で徐々に研究が進み始めた。これまで全く周囲に誰もいなかったのが、教室以外の多くの先生方にもサポートしていただけるようになり、ここまで法医学を続けてくることができた。しかし、何だかんだ言っても、この仕事は好きでなきゃ続けることはできません。
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