私は現在法医学に入って4年目になる大学院生です。なぜ法医学を選んだのか、そしてこれまでを振り返っての感想や反省をお話したいと思います。
中学生の頃、西村京太郎先生の推理小説「寝台特急殺人事件」に出会って以来、小説を読みあさることとなりました。毎回毎回多くの殺人事件が起こりますが、その中で検視官は死亡推定時刻をきっちり2時間の範囲で必ず的中させていました。そんなところから検視官、そして司法解剖や法医学者の存在を知ることとなりました。
医学部に入学し、法医学教室を訪れました。教室の先生方は、全くの素人にもかかわらず温かく迎えていただき、解剖を見せていただきました。自分の持っていたイメージと離れておらず、これなら一生の仕事にできると確信しました。
当時の興味は、もともとのきっかけが殺人事件であったこともあり、刺した、殴った、といった派手な事件性のある事例で、病気にはそれほど関心はありませんでした。しかし、大学院に入って実際に解剖に立ち会うようになって、解剖事例の大半が結果的には病死で、派手な事件はほとんどないことに気付きました。また大きな事件でも、病院に搬送され入院後に死亡したような事例もあり、疾患の病態の重要性に気付かされました。学部の講義で学んだ疾患のこと、卒業後の臨床研修での病院勤務を、もっと真剣にもっと有意義に取り組んでいればよかったと今となっては後悔しています。
外傷から内因性疾患まで、また頭のてっぺんから足の先まで、そして高齢者から生まれる前の胎児まで、亡くなったというだけですべてが法医学の守備範囲です。あらゆることを知っておかないといけないという大変さの半面、どんなことにも関われ興味や研究対象を持っていくことができるというメリットもあります。
法医学の人員は他分野に比べ少ないですが、これは個人にとっては逆にチャンスでもあります。これからますます発展が期待される法医学に、皆さまのお力を貸していただければと思います。
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