第1部 救急医学と法医学のつながり |
救急医学における法医学 |
この度、医学生の方々を対象に救急医として法医学との関わりについてお話させて頂くにあたり、自分が医学生だったころの法医学の授業を思い返してみた。法医学の授業に関しては全くと言っていいほど記憶にないのだが、大阪の監察医制度の中での法医学実習に関しては鮮明に覚えていた。当時は自分とはあまり関係のなさそうな、少し不気味な世界だな、という印象に終わった。ところが、いざ卒業して救急の現場で研修医として働きはじめて、あの時の法医学実習が以外にも身近なものであることに気づかされた。
私が専門にしている救急医学についてであるが、救急医学は医学の原点と言われるが、体系だった学問、救急システムとしての歴史はたったの50年ほどである。救急医療自体は最も原始的な医療で、古くからどこででも行われてきたはずである。しかし、医学が成熟して各診療科が細分化されるに従い、予定外に来る、どこの専門科にも当てはまらない、しかも重症なこれらの患者は行き先を失い、いわゆる”たらいまわし”と言われる状態が生まれた。医療が進む一方で、このような”たらいまわし”の結果の患者の死が社会問題となり、救急医学が生まれた。
救急医学と法医学は共通点が非常に多い。それは教科書を開くと一目瞭然であるが、法医学と救急医学のみでしか扱われない病気というのが数多くある。救急医学の特徴として、命にかかわる急性疾患や、一般診療科で診ない特殊疾患を対象としており、これらが生死に直結しているため、必然的に法医学につながるわけである。法医学は社会医学と呼ばれるが、救急医学もその成り立ちからもそうであるように、社会的側面の強い医学である。救急外来を通して見える人間ドラマや社会の裏側など、なかなか他では見られない世界がそこにはある。これもまた、法医学と共通したところではないかと思う。
法医学の知識は臨床医学をする上で不可欠であるが、救急医学ではその特殊性、社会性という点から、おそらく他のどの診療科よりも法医学と密接に関係している。そんな救急医学の日常診療になくてはならない法医学を、救急外来でのいくつかのエピソードも交えつつお話したい。 |
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