SESSION 6 特別セミナー2 「法医病理学を学ぼう パート2」
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岐阜大学大学院医学系研究科法医学分野
武内 康雄 先生 |
法医解剖診断は、まず、詳細な肉眼的所見を把握することから始まり、心臓を刺されたような例では、組織学的検査は死因となるような他の疾病が存在しないことなどの確認検査となる。また、多くの剖検例を経験すると、肉眼的所見で多くの情報を得ることができ、組織学的所見を補助検査のように思ってしまうこともある。死因となるような高度な細菌性肺炎は肺を肉眼で観察し、さらに、触知した時にほぼ診断できることが多い。
しかし、高齢者では肺炎が高度に進行しなくても死因となることがあり、解剖時の肉眼的所見のみでは診断が難しいことも多い。また、一見類似する肉眼的所見であっても、全く違う原因がその変化を起こしていることもある。例えば、肉眼的に肉ずく肝様の変化がみられたとする。組織学的に中心静脈周囲に高度なうっ血による変化が認められれば、右心不全が背景にあることがわかる。他方、その肉眼的変化が小葉中心性壊死によるのであれば、高度なショック状態が持続したことを表している。すなわち、剖検診断は肉眼的所見や組織学的所見、時には他の検査所見を総合して下さなければならない。
また、組織学的検査は肉眼的所見に比べてより詳細な情報を与えてくれことがある。例えば、2日前に暴行を受けた被害者が死亡しているのが発見され、CTで死因が硬膜下出血と診断されたとする。解剖では硬膜下出血の量や脳ヘルニアの有無を明らかにする他、頭部・顔面に皮下出血があるか、あればその個数や程度等を明らかにし、頭部・顔面に作用した外力についてできるだけの情報を得なければならない。しかし、これらの所見のみでは、いつ硬膜下出血が起きたのか、すなわち、暴行の際に生じたとして矛盾しないのかの疑問が十分解明されていない。このような場合、皮下出血部や硬膜を組織学的に検査すると、出血が起きた大凡の時間を推定でき、暴行との因果関係について論じる重要な根拠を与えてくれる。
組織学的検査は、法医解剖において、真実を明らかにする重要な手段の一つである。 |
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