医学部長メッセージ

医学部長から新入生へのメッセージ

 医学科、保健学科の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。長崎大学医学部教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。
 今、皆さんはいろいろな思いを胸に新しいスタート地点に立っていることでしょう。これから始まる大学生活への期待に胸を膨らませている方や既に自分なりに卒業後の将来像を描いている方もいると思います。その一方でこれから学んでいく医療という学問への不安、あるいは大学という大きなコミュニティーの中で生活していけるかどうかの不安を抱いている方もいるかもしれません。「どの方向に進んでいるかを知らぬものほど高く登る」という言葉があります。どうか先のことを思い煩わず、これからの日々のいろいろなことに全力投球していただきたいと思います。
 現代社会において「医療」は大変広い意味を持った言葉として使われていますが、その語源をたどると、医の字に含まれている「矢」は弓矢、療の字に含まれている「尞」は鈴や炎を意味する象形文字であり、いずれも古代から神聖なものとして特に病魔を追い払うことに使われていたとされています。語源からも医療という言葉そのものに病気の人を治す、あるいは癒すという意味が強いことがわかります。
 それでは現代の医療において古代の弓矢や鈴に代わるものは一体何でしょうか。
 それは「医療技術」です。あなた方はこれからこの医療技術を体系的に学んでいくことになります。ただし、医療技術とは医療機器を使う技能のことだけを指しているのではありません。「技術」を辞書で調べるとテクノロジー、テクニック、スキル、アートなどに訳されます。医療を行っていくうえで必要な専門知識、技能、研究能力は重要ですが、現代の医療ではノンテクニカルスキルと呼ばれるコミュニケーション、チームワーク、状況認識、意思決定などの能力も重要な医療技術に含まれます。
 医学教育の基礎を築いたウイリアム・オスラーは、「医療は科学に基づいた芸術である」という言葉を残しています。様々な技術を駆使して行う医療はまさにアートといって良いかもしれません。医療人はこの医療技術を身に着けることで、自分自身の大切な命のケアを他人に任せる患者側からの信頼を得ることができるようになるのです。患者の受ける苦痛、苦難に比べれば、君たちがこれから受ける様々な講義、実習、試験などを乗り越えていくことなどた易いはずです。
 昨今、医療人の倫理観を疑わせるような報道に接する機会が多くなりました。医療人に対して向けられる一般社会からの目も厳しくなっており、医学部生に対しても高い倫理観が求められています。飲食店や駅のホームなどの公共の場において、周りに聞こえるような大きな声で患者の話をしたりすることなど医療人として当然慎むべき行動です。医療人は実は同じような職種の集まりでもあるため、常識的な部分に鈍感になっていることがあります。学生生活の中では医療以外のことにも関心をもって教養を高めていって欲しいと思います。
 長崎大学の開祖であるポンペ・ファン・メールデルフォールトの言葉「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」これは建学の基本理念であり、医学、保健学にかかわる全ての医療人に向けて、強い倫理観と常に患者に寄り添う姿勢の大切さを説いたものと言えるでしょう。
 長崎大学医学部は、ポンペが長崎奉行所の一室で松本良順とその弟子たちに講義を開始した1857年11月12日を創立記念日とする日本最古の近代西洋医学発祥の地です。今年創立160周年を迎える本学の輝かしい歴史の中で、多くの素晴らしい人材が輩出され全国あるいは世界の医療現場で、ポンペの言葉に恥じない活躍をしてきました。
 これから君たちが学んでいく医療という学問が、病気で苦しむ人々の為に私欲を捨て努力を惜しまなかった先人たちのおかげで発展してきたことを忘れてはなりません。
 真の医療人になるための第一歩を踏み出した君たちを長崎大学医学部は心より歓迎いたします。

 


平成29年4月5日
長崎大学医学部長
永安 武