はじめに

感染免疫学講座 免疫学分野ホームページへようこそ。

 私達の教室では、「T細胞の感染免疫学」を中心テーマとして研究教育活動を展開しています。免疫学は近年急速に発達した学問分野で、基礎的なことは殆ど終わったと言う人がいるかもしれません。しかしながら、見る角度を少し変えてみると、免疫学はまだまだ未開の学問です。そもそもマラリアを始めとして、寄生虫に有効なワクチンはひとつも確立されていません。さらにマラリア免疫などの分野を調べてみると、驚く程未開の荒野(分野)が広いことがわかります。しかもこれらは、些細な重箱の隅ではありません。誰にも知られずまだ磨かれていない原石が、たくさん転がっています。この中から有用な原石を見いだし、丁寧に磨きをかけ、世の中の役にたつ学問的知見・一般化できる概念として発信することが私達の仕事です。興味のある人には、門はいつでも開いています。

免疫系と寄生体
 免疫系は、外界からの寄生体の侵入(感染)や体内発育・増殖を抑え生体の恒常性を保つ強力な生体防御系です。常に水際で感染防御に関わっている自然免疫系と、個々の寄生体を識別・記憶できる高度な仕組みを備える適応免疫系から構成されています。地球上での長い生物進化の歴史の中で、寄生体としての微生物と宿主となる多細胞生物の免疫系は、互いに競いながら進化して来ました。現在ある多細胞生物の免疫系、また微生物の側の感染の仕組みは、その長い進化の歴史の現時点における到達点と考えることができます。その結果、免疫系は実に巧みな、まさに神秘的な仕組みで寄生体の感染から私達の体を守っています。しかしながら、それとて完全ではありません。寄生体は、それを上手に回避し、また免疫系を修飾し、寄生して生きていく術を身につけているのです。これを病原体の免疫エスケープといいます。これらの仕組みを明らかにすることは、難治性の感染症に対する治療法やワクチンの開発につながります。
 免疫系は、このように感染防御や体内恒常性維持のために特に発達した生体防御系ですが、負の側面としては自己免疫病・アレルギー・臓器移植の拒絶などがあります。従って免疫系は「両刃の剣」ともいわれ、その活性は常に厳密に制御されていなければなりません。ですから、この制御機構の解明とその応用は、難治性感染症のみならず、癌の予防・治療や各種免疫疾患の克服にとっても重要な意義をもっています。