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 「形成外科と再生医療」 教授 平野明喜
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
展開医療科学講座 形成再建外科学
教授 平野 明喜

 漫画の神様と呼ばれる手塚治虫が30年ほど前に描いたブラックジャックという有名な漫画あります。顔に黒人から移植された皮膚を持つ主人公のブラックジャックの物語には、医師でもあった手塚の未来の夢として多くの再建外科手術が描かれています。全ての患者にとって、「治る」ということは機能だけではなく形も元の状態に戻るということです。しかし、実際は大きな外傷や悪性腫瘍切除後には目立つ傷跡や大きな組織欠損などの変形が残ります。また、生まれつきの顔や手足に異常をもつ人や、成長過程で発生する変形もあります。このような様々な変形を正常な状態に戻すのが形成外科の主な仕事です。
 我が国の形成外科の中で最も古い歴史をもつ長崎大学医学部形成外科では入院患者を3つの診療グループに分けて治療します。顔や手の外傷、熱傷(やけど)、褥瘡(とこずれ)や治りにくい傷、ケロイドなどの治療はグループに関係なく診療にあたります。第1のグループは唇裂(みつくち)などの顔や手足の生まれつきの異常やあざや皮膚のできものなどを治療するグループです。唇裂(みつくち)は矯正歯科や耳鼻科との連携で正常な形態、正常な言語、正常な噛み合わせが得られます。2番目は顔の骨折や変形、顎の変形(噛み合わせの異常)、顔面深部の腫瘍などを治療するグループです。矯正歯科などと連携し、頭蓋顔面骨の手術数では我が国で有数の規模を有しています。第3のグループは再建外科や手の外科を中心としたグループです。このグループは顕微鏡を用いて、組織移植や切断された指などの再接着を行います。1ミリ以下の血管も縫合する技術を利用して、悪性腫瘍や外傷で生じた組織欠損を修復する手術を年間100例以上行っており、患者さんの社会復帰の手助けをしています。
 現時点では失われた組織を再建するためには患者自身から組織を採取しますが、この方法では健常な部分に新たに傷が生じ、また、採取できる量に限度があります。この場合には自分以外の人からの組織や臓器移植が行われ、腎臓、心臓、肝臓、さらに最近では手や顔の移植も行われています。しかし、臓器を提供する人が少ないことと拒絶反応と呼ばれる免疫反応が問題となります。
 そこで、15年程前に提唱されたのが、組織工学(ティシュー・エンジニアリング)や再生医療と呼ばれるものです。組織工学は患者自身の細胞を増殖させて組織や臓器を人工的に作るという手法ですが、更に進んで、最近ではどのような細胞にも分化増殖できうる幹細胞を使った再生医療が注目を集めています。最初、幹細胞は胎児から発見されましたが、同様な幹細胞が成人にも存在することが判り、臨床で用いられようとしています。長崎大学形成外科でも皮膚、骨、神経の再生に間葉系幹細胞を利用する研究を進めており、実験的に幹細胞から皮膚や骨を新たに作成できるようになっています。
 ブラックジャックの漫画のように身体に生じた変形を跡形なく修復し、再び元通りの社会生活をすることが患者さんの夢であると同時に形成外科医の夢でもあります。
長崎大学