教室紹介

教授挨拶

1. 長崎大学の歴史、WHO、教授の歴史


 長崎大学医学部精神神経科学教室のホームページをご覧になってくださりありがとうございます。2023年4月より主任教授として着任した熊崎博一と申します。

 まず長崎大学医学部精神神経科学教室の歴史を簡単に説明させていただきます。長崎大学医学部は1857年、ドイツ人医師ポンペが長崎に開設した医学伝習所が起源になります。1901年医学伝習所と養生院(当時の病院)がいくつかの改称を経て、長崎医学専門学校となりました。長崎大学医学部精神神経科学教室は1907年に、長崎医学専門学校の内科から独立する形で開設されました。初代教授は石田昇、2代目斎藤茂吉、3代目高瀬清、4代目仁志川種雄、5代目高橋良、6代目中根允文、7代目小澤寛樹とその歴史が受け継がれてきました。
 当教室は1979年に世界保健機関(WHO)の認定を受け、WHO協力施設として疫学研究に貢献してきたことに代表されるように国際研究に力を入れてきました。また地域医療の発展にも力を入れてきました。

2. 臨床について

 私は初期臨床研修制度の第一期生であります。2年間の初期臨床研修後は、精神科、中でも児童精神科を専門として臨床中心の生活を行ってまいりました。並行して精神科救急、女性のメンタルヘルス、高齢者医療にも取り組んでまいりました。児童精神医学の社会における重要性は高まっている中で、患者様の評価法・治療法については発展途上であります。今後、教室として今まで以上に専門性を深化させてまいります。一方で私は現在まで専門分野にこだわらず、幼児から老年期まで幅広く診察してまいりました。精神科医師として、特定の専門にとどまらず、すべてのライフサイクル、いかなる領域にも対応できる幅の広さは重要と考えており、今後も診療してまいります。また患者様は心だけでなく、同時に身体疾患を患っていることも多く、リエゾン診療、緩和医療も今後ますます重要であり従事してまいります。現在まで長崎大学病院内にある認知症疾患医療センター、現在行っているリエゾン診療、緩和診療がさらに発展するように努めてまいります。
 精神症状は家族や社会と強いつながりがあります。COVID-19の流行にてうつ病や強迫症、不安障害の増加が示唆されておりますが、このような変化に迅速に対応するためにも診療を最前線で継続し、社会と精神症状の関係について考え続けることは重要と考えており、チームとして実践してまいります。
 現行の精神医学では薬物療法、心理社会的治療などあるものの、患者様の治療法の選択肢は限られております。治療エビデンスも限定的な中で、世界各地で標準的な治療を行うことは急務と考えております。今後もエビデンスを意識した診療を継続していきます。一方で固定観念を持たずに治療に当たる気持ちも忘れずに診療に従事致します。また精神科専門医として様々な治療法の取得に常に挑戦してまいります。
 精神科診療に課題が山積している中で、遠隔診療、ロボティックス、AIを取り入れた医療の潜在性を感じております。私自身遠隔診療、ロボティックス、AIの臨床研究に携わってきました。今後も遠隔診療システム、ロボット、AIを各現場で用いる研究を継続してまいります。世界の動向を注視し、診療において世界最先端の精神医療を提供できる深さとバランスを併せ持つことを意識し、診療に従事してまいります。


3. 教育について

 卒前教育において、医師として相応しい知識・技能・態度を身に付けることは主な目標となります。実際に精神科診療がどのように行なわれているかを肌で感じる臨床実習は重要です。実習を通して、目の前の一人一人の患者様を大切にする姿勢、チーム医療に取り組む姿勢、家族との関係を意識したコミュニケーション能力を身につけていただきたいと考えており、実践してまいります。面接技法、患者・家族との関係構築を学ぶために陪席は重要でありますが、従来の陪席では学生が受け身になりやすい傾向がありました。オンライン、ロボットを用いた遠隔操作による医学教育システムを開発し、学生が陪席の場において積極的に診察に参加することを目指しております。最新の科学技術を適宜導入することで、今まで以上に学生が積極的に学べるシステムの構築に努めてまいります。
 学生には学際的な研究をはじめ多くの出会いの場を提供したいと考えております。留学をはじめ様々な機会を提供します。異なる価値観や認識を有する多くの仲間との様々な出会いの場を提供し、客観的で、俯瞰的な視野を抱く機会を作っていきます。多様性を認め合い、新たな自分に気が付く場となればと考えております。
 卒後教育において何より丁寧な教育が求められていると思います。出会った患者様一例一例から、研修医及び同僚医師と共に学ぶという姿勢を基本に、面接法、診断評価、治療についての教育を行っていきます。精神科医療は標準的診断評価・治療が未完成な現状がありますが、可能な限りエビデンスに基づき、だれにでも理解できる根拠を持って診断評価・治療に当たることが必要と考えております。標準的な治療への意識を植え付けることを念頭に、教育に当たってまいります。精神科医の育成においては特定の専門にとどまらず、すべてのライフサイクル、いかなる領域にも対応できる幅の広さも重要であります。都市型の病院から地域医療を担う病院、急性期からリハビリ、児童から老年期など多くの臨床現場で患者様の診療を経験していただき、共に患者様から学ぶ、半学半教の精神を通しての教育を心がけていきます。
 標準的な治療の実力を身に着けた後は、サブスペシャリティーを磨いてさらに専門家として高みを目指していただき、世界最先端の精神医療を提供できる医師を目指していただきたいと思います。心理療法、精神薬理、精神生理、精神病理、神経心理、といった様々な分野がありますが、固定観念にとらわれず、個人がそれぞれの専門性を持ち、新たな分野を開拓することについても積極的に応援していきたいと考えております。
 人工知能技術の中でも深層学習を含む機械学習の進歩には目覚ましいものがあります。今後の医学において人工知能をはじめとした情報学教育も重要なものとなってまいります。私は現在まで全国各地の情報系研究者と共同研究を行ってきました。現在も定期的な勉強会を開催しております。人工知能やロボット工学の情報を適宜精神医学の分野に取り入れることについて考える機会を提供し、精神医療と科学技術の共生について、今後の展開について研修医・同僚医師と共に考えていきたいと思っております。


4. 研究について

 今や5人に1人が生涯で受診する精神科の需要については説明するまでもないと思います。一方で精神疾患については多くの病態が未解明な現状があります。個別性の強い精神疾患において遺伝と環境因子の相互作用の解明は課題であります。これからの医療人には、臨床、教育に当たりながら、病態解明に貢献することが求められていると思います。教室として臨床的視点を生かして、精神医学の発展に貢献できる研究を行っていきたいと考えております。長崎大学には原爆後障害医療研究所、熱帯医学研究所などの研究所がありますが、学内各機関、学外各機関とも適宜連携し精神疾患の病態解明に貢献してまいります。
 ここからは私が現在まで進めてきたロボット、AI、遠隔診療に関する研究について説明します。現在まで私が世界でも先駆けて行ってきたロボット研究につきましては、現在は機械学習を用いて人の感情の急な変化に対応できるロボットシステムの開発に医学の立場から携わっております。自立したロボティックスにおいては優れた人工知能の搭載が望まれますが、優れた人工知能を開発することで、現在まであいまいだったヒトの思考、欲、注意、意識、意思決定といった解明に努めてまいります。ロボットを用いて再現することはヒトの理解につながると考えており、精神医学的視点から人間に近いロボットの作成に携わることで逆に人間の精神を知ることにつなげたいと考えております。
  精神障害の診断は、客観的評価の担保が難しいことが一因で、医師により診断が異なるという問題がありました。この問題を解決するために患者様の診療情報や行動から診断、治療方針の決定を行う人工知能の活用が考えられます。またヒト型ロボットの技術進歩にも目覚ましいものがあります。ロボットは予めプログラムすることで人間同様の動作を行うことが可能であり、人間と比較して常に同一の動作が可能な正確性があります。この利点を利用して、精神科診療のエキスパートの面談技術をロボットのプログラムに組み込むことで、その面談を別のロボットで再現できる可能性があります。さらにこのロボットを患者様の面接や学生の教育に導入することで、全国各地で統一化した最先端の面接の提供,および面接法の教育が可能となります。またアヴァター技術の進歩にも目覚ましいものがあります。アヴァターを適切に用いることで遠隔医療の質の向上が期待されます。精神科医療には、病院、診療所、待合室、離島医療だけでなく、デイケア、訪問看護、グループホーム、作業所、学校、特別支援教育をはじめとした多様なフィールドでの展開が期待できます。このように人工知能、ロボット・アヴァター技術は医療資源の不足を補うだけでなく、高度で標準的な医療への貢献が期待されます。また精神科だけでなく他の診療科においてもメンタルサポートを要する患者様は多数いらっしゃいます。各地域の多様な領域で、人工知能、ロボット・アヴァター技術を適切に用いることで、高度な医療を全国各地にもたらすことにつながり、地域における医療の格差是正の効果も期待できます。
 このように科学技術との共生を図ることで新しい精神科医療の形を模索していきたいと考えております。


長崎大学精神神経科教室の歴史

●1857年(安政4年)、ポンペ(Lidius Cathalinus Pompe van Meerdervoort)が来日し、医学伝習所を開いた。同年11月12日が長崎大学医学部創立記念日となっている。

●1901年(明治34年)、ポンペが開いた医学伝習所と養生所(病院)がいくつかの改称を経て、長崎医学専門学校となった。当時は内科学教授であった大谷周庵が医学生に精神病学の講義を続けた。

●1907年(明治40年) 、長崎医学専門学校の内科から独立する形で精神病学科が開校した。初代教授は新撰催眠療法などの著者である石田昇氏が就任した。開放治療を実践し、恩師である呉秀三の「病者中心の医療」を継承し、開放病棟の試みや作業療法をとりいれた。

●1913年(大正2年)、精神科教授石田昇により長崎県病院に20余名の入院可能な精神病室の建設を計画し、同年11月28日に落成された。

●1917年(大正6年)、歌人であり、斎藤茂太、北杜夫の父である斎藤茂吉氏が第2代教授として赴任し石田の開放治療を受け継いだ。第3代教授高瀬清氏は、旧制長崎医科大学学長、初代の長崎大学医学部長、初代の長崎大学学長を歴任し、原爆被災後の病院と大学に貢献した。第4代教授仁志川種雄氏は、初めて長崎で日本精神神経学会を開催した。

●その後、第5代教授の高橋良氏、第6代教授中根允文氏らの尽力により、1979年世界保健機構(WHO)より「機能性精神病に関するWHO研究協力センター(1989年精神保健の研究・訓練のための協力センターと改称)」の正式指定をうけ、主にDisaster Psychiatry、Child and Adolesent Psychiatry、Geriatric Psychiatryに取り組んでいる。



スタッフ紹介

*2024/1~
氏名 役職 職名
熊崎 博一 教授 科長
長崎大学医療科学専攻「未来メンタルヘルス学分野」 併任
地域連携児童思春期 精神医学診療部  併任
小澤 寛樹 教授 医歯薬学総合研究科医療科学専攻 国際・地域精神保健科学分野
今村 明 教授 長崎大学生命医科学域(保健学系作業療法分野)
木下 裕久 准教授 保健センター所属
田山 達之 助手 医局長 認知症疾患医療センター 副センター長
三宅 通 助手 地域連携児童思春期 精神医学診療部 所属
大橋 愛子 助手 病棟医長
冠地 信和 助手 リエゾン長、社会人大学院生
山本 直毅 助手 外来医長
地域連携児童思春期 精神医学診療部 所属
社会人大学院生
酒井 慎太郎 医員
谷保 康一 医員  
中村 康司 医員
川原 紘子 医員
田添 健裕 修練医
夏山 竜一 修練医
手島 由利恵 修練医
野畑 宏之 医員
(パート)
清水 日智 医員
(パート)
     
金替 伸治 客員准教授
松坂 雄亮 非常勤講師
岡崎 祐士 非常勤講師
辻田 高宏 非常勤講師
川口 哲 非常勤講師
小野 慎治 非常勤講師
楠本 優子 心理士
疋田 琳 心理士
菊川 芙美香 心理士・精神保健福祉士
浦本 麻美 精神保健福祉士
南條 一花 相談員
松尾 昂尚 精神保健福祉士
大学院生 ※準備中
関連病院へ派遣
松坂 雄亮 長崎県精神医療センター
壹岐 聡一朗 長崎県精神医療センター
蓬莱 彰士 長崎医療センター
倉田 青弥 長崎医療センター
志方 有莉 長崎医療センター
小田 孝 五島中央病院
中野 健 五島中央病院
浦島 佳代子 五島中央病院
岩永 健 長崎みなとメディカルセンター
清水 日智 道ノ尾病院
客員研究員
米澤 健
山田 聖剛
浦島 佳代子