肺移植

肺移植(医療関係の方へ)
歴 史
 2005年5月に脳死肺移植実施施設に認定されました。日本で肺移植を行うことができるのは岡山大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院、東北大学病院、獨協医科大学病院、福岡大学病院、長崎大学病院、千葉大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、藤田医科大学病院、10施設です。
 もともと当科は前身の長崎大学医学部第1外科教室、故辻泰邦教授が1966年(昭和41年)に日本で2例目、世界で6例目の肺移植を行なった施設であり、その後も一貫して肺移植の研究に取り組んで参りました。

1966-2nd Human Lung Transplant in Japan

移植の種類
脳死移植
 脳死状態になられた方の臓器提供に基づく肺移植のことです。ドナーの片肺、または両肺をレシピエント(患者)の片方または両方の肺と入れ替える方法です。2010年の臓器移植法の改正後、脳死ドナーは着実に増加していますが、未だ本邦では欧米諸国と比較して、脳死者からの臓器提供数は非常に限られたものになっています。

脳死肺移植
摘出されたドナー肺
摘出されたドナー肺


生体移植
 原則として健康な二人のドナー(臓器提供者)がそれぞれの肺の一部(右もしくは左の下葉)を提供し、これらをレシピエント(患者)の両肺として移植するものです。頂いた肺を合わせてレシピエントの肺活量のおよそ50%必要となります。

脳死肺移植


日本の肺移植
 グラフに本邦の肺移植実施件数を示します。徐々に移植症例数と脳死移植が増加していますが、合わせて移植を希望される患者さんも増加しており、移植待機中に亡くなられる方も未だ多く見られているのが現状です。本邦の肺移植の成績を示します。欧米のそれと比較しても良好な成績となっています。

肺移植症例数の年次推移

術式別肺移植後生存率(3術式)


当科の実績
 2008年4月肺胞蛋白症の43歳女性に対して、ご主人様と弟様をドナーとした、当院初の生体肺移植を実施いたしました。肺胞にタンパク質が蓄積して呼吸不全を起こす、肺胞蛋白症という疾患に対しての肺移植は国内初でありました。術前の患者さんは、大量の酸素投与にも関わらずほぼ寝たきり状態でありましたが、移植後は酸素なしで元気に歩いて退院されました。2021年6月現在、合計18例 脳死肺移植14例(10例片肺、4例両肺)、生体肺葉4例 を経験しており、着実に症例数が増加しております。

移植の風景 バックテーブルでのドナー肺還流 術後ICUでの気管支鏡
移植の風景 バックテーブルでのドナー肺還流 術後ICUでの気管支鏡
移植前の肺 生体肺移植後
移植前の肺 生体肺移植後

 肺移植には呼吸器外科をはじめ、心臓外科、消化器外科、麻酔・集中治療科、呼吸器内科、循環器内科、精神科、理学療法士、薬剤師、看護師など数多くのスタッフにより成り立っています。これまでの実績は長崎大学病院の固いチームワークの成果といっても過言ではありません。


研究
 基礎研究として、虚血再灌流障害、脱細胞化の研究、再生医療等をテーマに取り組んでおります。


肺メディカルコンサルタント
 当科は移植実施施設のみでなく肺メディカルコンサルタント(MC)として近隣病院で脳死ドナーが発生した場合、ドナー肺の管理に積極的に関わることで、臓器提供施設としての役割も果たすようにしています。これまでに県内はもとより佐賀県、熊本県の病院にも派遣されています。さらに長崎大学病院は全国の大学病院の中でも有数の脳死ドナー発生病院となっており、病院一丸となって移植医療の推進に努めております。


肺移植適応条件:さまざまな条件があります
Ⅰ. 一般適応指針
 
1. 治療に反応しない慢性進行性肺疾患で、肺移植以外に患者の生命を救う有効な治療手段が他にない。
2. 移植医療を行わなければ、残存余命が限定されると臨床医学的に判断される。
3. レシピエントの年齢が、原則として、両肺移植の場合55歳未満、片肺移植の場合には60歳未満である。
4. レシピエント本人が精神的に安定しており、移植医療の必要性を認識し、これに対して積極的態度を示すとともに、家族及び患者をとりまく環境に十分な協力体制が期待できる。
5. レシピエント症例が移植手術後の定期的検査と、それに基づく免疫抑制療法の必要性を理解でき、心理学的・身体的に十分耐えられる。

Ⅱ. 適応となり得る疾患
 
1
  • 肺高血圧症
  •  1.1特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症
  •  1.2薬物/毒物誘発性肺動脈性肺高血圧症
  •  1.3膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
  •  1.4門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
  •  1.5先天性短絡性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(アイゼンメンジャー症候群)
  •  1.6その他の疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
  •  1.7肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)
  •  1.8慢性血栓塞栓性肺高血圧症
  •  1.9多発性肺動静脈瘻
  •  1.10その他の肺高血圧症
2
  • 特発性間質性肺炎(IIPs)
  •  2.1特発性肺線維症(IPF)
  •  2.3特発性非特異性間質性肺炎(INSIP)
  •  2.3特発性上葉優位型間質性肺炎(IPPFE)
  •  2.4上記以外のIIPs
3
  • その他の間質性肺炎
  •  3.1膠原病合併間質性肺炎
  •  3.2薬剤性肺障害
  •  3.3放射線性間質性肺炎
  •  3.4慢性過敏性肺炎
  •  3.5上記以外のその他の間質性肺炎
4
  • 肺気腫
  •  4.1慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  •  4.2α1アンチトリプシン欠乏症
5
  • 造血幹細胞移植後肺障害
  •  5.1閉塞性GVHD
  •  5.2拘束性GVHD
  •  5.3混合性GVHD
6
  • 肺移植手術後合併症
  •  6.1気管支合併症(吻合部および末梢も含む)(狭窄など)
  •  6.2肺動脈吻合部合併症(狭窄など)
  •  6.3肺静脈吻合部合併症(狭窄など)
7
  • 肺移植後移植片慢性機能不全(CLAD)
  •  7.1BOS
  •  7.2RAS
  •  7.3その他のCLAD
8
  • その他の呼吸器疾患
  •  8.1気管支拡張症
  •  8.2閉塞性細気管支炎
  •  8.3じん肺
  •  8.4ランゲルハンス細胞組織球症
  •  8.5びまん性汎細気管支炎
  •  8.6サルコイドーシス
  •  8.7リンパ脈管筋腫症
  •  8.8嚢胞性線維症
9 その他、肺・心肺移植関連学会協議会で承認する進行性肺疾患

Ⅲ. 除外条件
 
1) 肺外に活動性の感染巣が存在する。
2)
  • 他の重要臓器に進行した不可逆的障害が存在する。
  •  悪性疾患 骨髄疾患
  •  冠動脈疾患 高度胸郭変形症
  •  筋・神経疾患
  •  肝疾患(T-Bil>2.5mg/dl)
  •  腎疾患(Cr>1.5mg/dl、Ccr<50ml/min)
3) 極めて悪化した栄養状態。
4) 最近まで喫煙していた症例。
5) 極端な肥満。
6) リハビリテーションが行えない、またはその能力の期待できない症例。
7) 精神社会生活上に重要な障害の存在。
8) アルコールを含む薬物依存症の存在。
9) 本人及び家族の理解と協力が得られない。
10) 有効な治療法のない各種出血性疾患及び凝固能異常。
11) 胸郭に広汎な癒着や瘢痕の存在。
12) HIV(human immunodeficiency virus)抗体陽性。

日本肺および心肺移植研究会のホームページより一部引用
http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/surg/shinpai/pg373.html

 移植症例の検討などは定期的(年4回)に外科、内科、リハビリチームによる院内肺移植カンファランスを開催しています。適応に悩む患者さんがいらっしゃいましたら、どうぞご遠慮なくご相談ください。
 日本肺および心肺移植研究会のホームページ(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/surg/shinpai/pg183.html)から、認定10施設共通の「肺移植のためのガイドブック」がダウンロードできますので、ご参照ください。

詳しくは、長崎大学病院臨床肺移植実務責任者までお気軽にお尋ねください。
長崎大学病院臨床肺移植実務責任者 松本 桂太郎 (まつもと けいたろう)
E-mail: lungtxアットマークml.nagasaki-u.ac.jp
移植医療センター (長崎大学病院内)
TEL: 095-819-7500 FAX: 095-819-7511