診療内容(診療グループ):肝・胆・膵外科
肝・胆・膵外科班における手術、治療内容

 私たち肝胆膵班では、食べ物を消化、吸収、排泄を行う消化器系の臓器の中で、肝臓、胆道(胆嚢)、膵臓、脾臓の病気に対して、手術を主とした治療を行っています。対象とする疾患は多岐におよびますが、スタッフはこれまで当班で培われた経験と技術を生かし、最良な治療を目標に診療を行っております。
 手術についてはこれまでの標準的な手術方法に最新の知見を取り入れ、疾患の根治性(癌などの腫瘍性病変が完全に切除できること)と安全な術式,必要に応じて体にかかる負担や傷の大きさを考慮した低侵襲性に配慮した術式をこころがけています。手術を計画する場合は患者様に対する詳しい説明のもと、できるだけの情報を提供し、患者様の状況、ご希望、社会的等も考慮し、患者様本位の診療を重視しています。
 各種疾患の治療にあたっては、日頃より当大学病院の消化器内科、放射線科、その他の部門と合同で「肝癌カンファ」「胆道、膵疾患カンファ」等を行い、治療に際しては手術だけにとらわれず広い視野で疾患をとらえ、最良の治療方針の立案を合同で行っております。
 以下に、当班で行っている各臓器に対する治療内容を記しますが、詳しい疾患、具体的な術式や当班で行っている特徴的な治療法の実際などは「医療者向けのページ」にてご確認ください。
手術を行っている臓器、病気、手術の種類
1.肝臓の病気
1-1.肝腫瘍
肝腫瘍
 当班では肝臓に発生する腫瘍(肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌、そのほかの肝腫瘍)に対して手術によって腫瘍切除を行う治療を中心行っております。
 疾患の詳しい検査、術式選択に際しては、各種の最新の画像診断機器、解析方法等を用いて肝腫瘍のサイズ、個数、性状、脈管との位置関係を詳細に把握し、最適な治療方針、切除方針を立案します。
 肝臓は正常な肝臓であればその60%近くを病変とともに切除することができます。しかしながら、肝臓の機能は個人によって差があり、肝臓を切除するにあたっては、それぞれの患者様の肝臓の予備能力を正確に評価するために種々の検査を行い、そのうえで無理のない肝臓の切除を行っています。これらを用いることにより、標準的な肝切除に加えて、安全性を最優先としながらもこれまでは切除不能であったような巨大肝腫瘍の切除も施行しております。
 また、大量の肝切除が必要な際は手術の安全性を高めるために、切除する予定の肝臓領域への血管を術前に遮断し、残る肝臓の容積をあらかじめ増量させておく術前門脈塞栓術(PVE)を積極的に行っています。
 当班では肝腫瘍に対する腹腔鏡手術にも積極的に取り組んでおり、すでに保険適応となっている肝部分切除術、肝外側区域切除術については詳細な術前検査の上、適切な症例に対して腹腔鏡手術を施行しております。腹腔鏡手術については安全性を最優先したうえで、さらに体に対する侵襲の少ない単孔式腹腔鏡手術も取り入れております。

1-2.そのほかの肝疾患
 当班では悪性疾患のほかにも、外科的処置の対象となる巨大肝嚢胞に対する腹腔鏡下の開窓術、肝血管腫に対する腹腔鏡下肝切除術などの良性腫瘍、良性疾患に対する手術を施行しており、できるだけ低侵襲、肝機能温存の方針を心掛けております。また、交通事故等による肝臓の損傷等に対しても必要時には肝切除や止血術などを施行しております。


2.胆道疾患
 肝臓で作られる胆汁が、胆管を通って膵臓内を経て十二指腸に流出するまでの経路=胆道の疾患対する治療

2-1.胆道の腫瘍

胆道の腫瘍
 当班では胆管腫瘍(肝門部胆管癌、中下部胆管癌、乳頭部癌)胆嚢腫瘍(胆嚢癌、胆のうポリープ)に対して外科的治療を行っています。
 治療にあたっては胆道という非常に内径の小さな(3―10㎜)の管腔臓器における病変の評価を詳細に行うことで適切な術式、切除範囲の設定を行っています。術前検査では消化器内科において詳細な胆道の精査を施行し、術前の評価を行っています。また、放射線科と共同して各種の画像検査を行い正確、詳細な病変の評価を行い手術計画に役立てています。
 胆道癌に対する手術は肝門部胆管癌に対しては胆道とともに肝臓も切除する肝切除、肝外胆管切除等を積極的に行っています。 また、広範囲の胆管癌に対しては肝切除と膵切除を併施する、肝膵同時切除(HPD)を施行しており、良好な成績を上げています。
 下部胆管癌、乳頭部癌に対しては膵頭十二指腸切除術を中心とした手術を施行しており、術後の機能温存、低侵襲を目指した幽門輪温存術式や、縮小手術(膵温存十二指腸乳頭部切除など)を行っています。
 胆嚢癌に対しては積極的な手術を行い、胆嚢全層切除から肝葉切除、肝外胆管切除、リンパ節郭清等の拡大術式までを腫瘍の大きさ、進展度に応じて選択して施行しています。 

2-2.胆嚢、総胆管結石
 胆嚢結石(胆石症)、総胆管結石に対しては積極的に腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下総胆管切開術などの、低侵襲手術を施行しています。近年は通常の腹腔鏡手術よりさらに傷の数を減じた単孔式腹腔鏡手術も取り入れています。
 このような手術の低侵襲化により、入院期間の短縮(術後2-3日で退院)も可能となり、患者様のお仕事やご家庭の状況に応じた手術計画の立案が可能です。

2-3.膵管胆管合流異常
 膵管と胆管が通常と異なる形で合流する状態は、胆管癌、胆嚢癌の発生の頻度が通常の場合と比較して非常に高く、腫瘍性病変の発生予防のための手術療法が適応となることがあります。
 このような疾患に対して当班では胆嚢摘出術、いわゆる分流手術(肝外胆管切除再建)等を行っています。


3.膵疾患
 当班では膵癌、内分泌腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、漿液性嚢胞腫瘍などの腫瘍性疾患、膵炎に伴う各種の疾患、膵外傷等に対して手術を行っています。
 手術は癌に対する拡大切除術式から、良性腫瘍に対する機能温存手術、保険適応となっている腹腔鏡下の膵体尾部切除術などを積極的に施行しています。

3-1.膵腫瘍

膵腫瘍
 膵臓に発生する腫瘍には膵癌、膵内分泌腫瘍、膵嚢胞性腫瘍(IPMN)などがあり、これらの疾患に対して腫瘍の悪性度に応じた適切な手術を行っています。
 悪性度の高い膵癌に対しては腫瘍の肝全切除を目指した根治的切除を行うために、血管などの合併切除を伴う拡大手術も必要に応じて行っています。腫瘍の伸展範囲が広く、根治的手術が困難と考えられる症例に対しては内科、放射線科と共同して術前化学療法、術前放射線療法を組み合わせた手術療法も施行しています。
 また、手術施行症例に対しては膵癌診療ガイドラインに基づき、術後の補助化学療法を内科と共同して施行しております。
 膵管内に粘液を産生し、嚢胞様の形態をとるIPMNは前癌病変と考えられており、いくつかの条件を満たす場合、癌化の可能性が高いと考えられ、切除術の対象となります。
 当科では消化器内科にて施行される超音波内視鏡検査、膵管内超音波検査、経口膵管鏡検査、超音波内視鏡下穿刺検査(EUS-FNB)等の結果をもとに慎重な手術適応のもと手術を施行しています。
 手術は明らかな浸潤癌がない場合は脾温存、十二指腸温存の膵切除術や、腹腔鏡を用いた膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除等の機能温存、低侵襲手術を施行しています。
 膵内分泌腫瘍には悪性腫瘍(癌)と同等の悪性度を持つ腫瘍、良性腫瘍として治療可能なものなど多岐にわたります。
 手術療法はその悪性度に応じて、癌に準じた手術、IPMNと同様に機能温存、低侵襲を目指した膵部分切除、脾温存体尾部切除、十二指腸温存膵切除、腹腔鏡下膵切除などの手術を使い分けて治療効果、機能温存のバランスをとる方針としています。

3-2.そのほかの膵疾患(慢性膵炎、膵外傷など)
 繰り返す膵炎や、膵炎による有症状の嚢胞形成、膵石などによる有症状の膵管拡張等に対しては、膵管空腸吻合術、Freyの手術などを施行しています。
 また、交通事故、スポーツ事故などによる膵断裂、膵管損傷等に対しては慎重な適応検討の上で、内科的なステント術などを併用しながらの機能温存を目指した手術療法を行っています。