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 2000年卒業の宮崎拓郎です。5年間の長崎大学第一外科、関連病院での臨床経験を積み、2005年4月より長崎大学大学院腫瘍外科 大学院生として戻ってまいりました。このホームページを見ていただき、留学に興味のある学生さんの何らかの参考になればと思います。
2007年1月から2008年3月までSt Vincent's Hospital Sydney、Department of Cardiothoracic Surgery and TransplantationのClinical fellowとして臨床留学して参りました。この病院は心臓外科領域だけではなく、オーストラリアで最大の心臓移植、肺移植症例を持つ施設としても有名です。現在日本で著名な心臓外科医も若い頃この病院で修業したようです。
【 病院の外観 】
 今回の私の留学目的は、臨床脳死肺移植の経験を積むことでした。長年にわたる第一外科の先輩方の功績により、2005年5月に当科は悲願の肺移植実施施設に認定を受けています。今後当科で肺移植を実施するにあたり、その臨床経験が必要となってくることから、永安教授からお声を頂き、さらに私自身も留学してみたい気持ちは以前からありましたので、本当に絶妙のタイミングだったと思います。教授ご自身もアメリカに留学されており、留学の大変さや素晴らしさなど全てご存じですから、当科は留学に関しては積極的に応援してくれています。現在アメリカにご夫婦で留学されている先生もいらっしゃいます。
 シドニー生活の最大のストレスは、「オージーイングリッシュ」でしょうか。渡航前にオージーの家庭教師を雇いましたが、本場のオージーイングリッシュの独特なもごもごした早口には、本当に全く対応できませんでした。『行けばなんとかなるさ!』という甘い気持ちが多少なりともあり、反省すべきところです。渡航前に『3か月すれば、突然英語の神様が目の前に降りてくる』みたいなことを言われましたが、まったくの嘘でした。英語をただ漫然と聞いても上達しませんし、口も全く動きません。まあ全部聞き取れなくてもいいか、というような悪い癖もついてきますし、積極的に勉強しないとやはり何も身についていきません。忙しい中でも、医者に比べれば限りなく自由な時間の取れる学生時代に、ぜひ英語は勉強しておいてください。
【 オペラハウスとハーバーブリッジ 】
 普段の生活をご紹介します。朝7時のICU回診から1日が始まります。そこから一般病棟の回診後に手術が開始になります。移植手術というものは緊急的なものですから、普段はもっぱら心臓手術となります。毎日2〜3例の心臓外科手術に入っており、冠動脈バイパス手術、弁置換術、弁形成術、大血管手術、など合計約240例の心臓手術に加え、何といっても約50例の心臓・肺移植手術に参加することができました。この症例数は、日本では一般病院の心臓外科医の数年分に相当すると思います。心臓手術における解剖や人工心肺の知識など、今後呼吸器外科手術をやっていく上で参考になることも多々ありました。移植手術でいえば、今後私の外科医人生で経験する以上の症例数かもしれません、これを1年あまりで経験しました。
 移植手術に関してですが、ドナー手術ではプライベートジェットに乗り込み、オーストラリア全土を北から南へ、はてはニュージーランドまで臓器採取に向かいました。このプライベートジェットでは眺めがいいのはもちろん、食事も出ますし、座席もエコノミーのよりはだんぜん広いので、ちょっとした『セレブ気分』を味わえます。しかしほとんどが真夜中であり、ただ座席で貪るように寝ているだけなのですが・・
 オーストラリアは先進西洋諸国で最もドナー数が少なく(それでも日本の数倍ですが)、マスメディアによるドナー登録の呼びかけが多く見られます。その一環からか、TVクルーが病院の外だけでなく、ジェットの中や手術室まで『移植ドキュメンタリー番組』制作のために、たびたび押しかけてきました。
【 ジェットの内でのひととき 】
その模様は、なんとゴールデンタイムで放送され、実は私も数秒ですが、全豪中に姿が映ったことがあります。またジェットの中で個別にインタビューされたこともありますが、それはおそらくカットされたかも知れません(被写体が悪かったのでしょうか!?残念)。ちなみに多いときには週に4例のドナーが出たこともあります。
 全行程がとても慌しく、息つく暇もないほどスペクタクルなドナー手術と違って、レシピエント手術は比較的落ち着いた状況で行われます。レシピエントの荒廃した肺が取り出され、主人を突然失った肺が、再び他人の胸の中で新しい命として、大きく呼吸しだす瞬間は、とても感動的で素晴らしいものです。
【移植内科レジストラ、レジデントの女医さんと】
 酸素吸入をしながら、起座呼吸でさえも辛そうなレシピエントが、酸素無しで退院できるのです。そういった患者さんを何人も見ることができ、本当に移植医療は素晴らしいものであると実感しました。もちろんその背景には、ドナーとその家族の『究極の善意』により支えらえていることは言うまでもありません。必ず日本、ひいては『長崎』に根付かせなくてはならないと感じています。
  シドニーに来られたことがある方はご承知と思いますが、本当に多民族国家からなる街です。
 今までに出会った人々は、イギリス、アイルランド、マルタ、ニュージーランド、ブルガリア、カナダ、インド、中国、マレーシア、イラクなど、とても数え切れないくらいの国から来ています。みんな本当にフレンドリーで気さくな人ばかりです。食事もそういうわけで、多国籍料理が手軽に楽しめます。あと観光名所も多く、このたび新たに世界遺産に登録されたオペラハウスを始めとして、ハーバーブリッジ、コアラのいるタロンガ動物園、わずか30分くらいで信じられないくらい綺麗なビーチの数々、これぞオーストラリアといえるほどの雄大な世界遺産ブルーマウンテンズなどなど見どころはつきません。
【苦楽を共にした同僚のフェロー達 】
 このように、なんとか精神的にも肉体的にも健康で、異国で生活していけるようにいたるまでの数々の困難は、振り返れば決して日本にいては経験できない貴重なものでした。留学では日本では経験できない勉学の知識を得るのはもちろん大事です。しかしそれに加えて、異国で生活基盤を整え、いろんな国の人のものの考え方、生活習慣や文化を体験し、どうやって思考回路の違う外国人に自分を分かってもらうか、アピールしていくか、さらにとてつもない困難な状況に陥ったときに、いかに自分の気持ちを強く持てるか、また自分の道は自分で切り開かなくてはならないなど、想像以上に辛いことも多かったですが、それは長い眼で見れば、自分自身にとってプラスになることが非常に多かったと思います。このような経験は、これからまだまだ続く外科医生活の中で、自分の中で大変大きな、そしてかけがえのないバックボーンになったと思います。
【シドニー在住の日本人Dr、看護師の食事会】
 学生の皆さんも、自分を限りなく成長させてくれる、この海外留学をぜひ実現してほしいと思います。そのためには、まず英語の勉強です。日本人は本当にリスニング、スピーキングが下手です。英会話学校に行くのもいいですし、現地のラジオやニュースをポッドキャストで聞く方法もあります。英語の勉強は自分で見つけていくしかないですので、日頃から地道に頑張りましょう。
 一番大事なのはやはり、ただ留学したい!というのではなく、何を海外でやりたいか、はっきり自分の目標を持つことです。それは日本では体験し難いものであることが第一と思います。正直、肺癌の手術では、日本のほうが進んでいると感じた一方、心臓外科手術(というか外科医のトレーニングシステム)や移植手術はまだまだ西欧諸国とは隔たりがあるように思います。
【胸部外科のボス、Dr.Spratt】

 海外留学はすぐに実現できるものではありませんから、数年先の自分を考えて、行動することをお勧めします。

 とりとめもない文章を最後まで読んで頂いてありがとうございます。オーストラリア、シドニーについて知りたい!臨床留学について聞きたい!肺移植について知りたい!などありましたら、いつでも相談に来てください。全く遠慮はいりません、お待ちしております。

 3月に帰国して間もなく、当科としては初の生体肺移植が実施されました。患者さまも無事に退院され、シドニーでの私の経験が微力ながら役に立ったと自負しております。

【肺移植内科のボス、Dr.Granville】
お世話になったDr.Janszが、先日長崎で主宰された日本外科学会に講演に来られました!