消化管外科(胃・食道外科)
胃癌、食道癌と診断された方、そのご家族のみなさまへ

 現在、日本人の死亡原因の1位は癌(悪性新生物)であり、その死亡率は年々増加傾向にあります。しかし癌に対する治療法は様々に進歩しており、適切な治療を行うことで治癒(完全に治ること)する場合も多くなっています。
 手術を受けられた大多数の方々は、合併症を経験することなく、退院されます。しかし人間の体にメスを入れる以上は、様々な予期しない合併症が起こる可能性を念頭におく必要があります。特に食道癌手術後の合併症は重篤なことも多く、再び人工呼吸器の装着が必要な場合もあります。合併症が発生した場合、ご自身や、そのご家族のみなさまに多大な心的、経済的負担を強いることとなりますので、予防はもちろんのこと、起こった場合の早期発見、早期治療、および状況と経過の丁寧な説明を心がけております。
 これから治療を始めるにあたり、ご自身の疾病のことを知って頂かなければなりませんので、以下に胃癌、食道癌などの消化管の癌について簡単に"よくある質問"形式でまとめましたのでご説明いたします。

文責:金高賢悟
E-mail:kanetaka@nagasaki-u.ac.jp
手術後のおはなし
  Q: 術後の経過について
  Q: 手術後の食事について
Q: 消化管の癌とは?

A食べたものが通過し、消化吸収される管腔の臓器を消化管といい、食道、胃、十二指腸、小腸、結腸、直腸が含まれます。

 管状の臓器である、食道、胃の壁は、いくつかの層よりなっており、内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜に分かれています(食道では外膜といいます)。消化管の癌の大部分は、もっとも内側の粘膜から発生するため、検査には消化管の内腔からの観察である胃内視鏡検査が必要となります。したがって小さな病変はお腹全体をみるような腹部CTなどは胃癌、食道癌の早期発見には有用でありません。

 消化管の腫瘍には大きくわけて良性のものと悪性のものがあります。大腸ポリープの大部分は良性腫瘍であり、癌は悪性腫瘍の代表です。

Q: 癌はなぜ悪性なのか?

A正常の細胞はある一定の限度を超えて増殖することはありません。たとえば、万が一ケガをして擦り傷が出来ても、新しく出来た皮膚がもとの高さ以上に盛り上がって治ることはありません。ところが癌細胞には自律性に増殖していくという性質があり、最初、粘膜の中だけに存在していた小さな癌でもどんどんと消化管壁の深く拡がっていき、さらに進行すると消化管が閉塞するくらいの大きさになることもあります。加えて癌細胞はもともとあった臓器以外のリンパ節や肝臓、肺などにリンパ管や血管を通じて運ばれ、これらの環境でも増殖できるというやっかいな性質があり、これを転移といいます(前者をリンパ節転移、後者を遠隔転移といいます)。また、治療直後には腹部CT検査などでまったく癌を認めなくても、小さな癌細胞が体内に残り、数年を経て顕在化することがあり、これを再発といいます。再発した場合、全身に癌細胞が拡がっている可能性が高いため、根治が難しくなります。従って癌の治療を行うためには、癌が体の中でどのくらい拡がっているのかを知る必要があります。
Q: 癌はどうやって治すの?

A基本的には、癌がどのくらい拡がっているかによって、治療方針が変わります。消化管の癌に対する治療には大きく分けて、内視鏡的治療、手術、化学療法、放射線治療などがありますが、癌によって方針は異なります。
 どういうやり方にしろ、根治を目指す治療の基本原則は"癌細胞を体の中から全部消し去る"ことにあります。ですから、早い段階で発見された方は、胃内視鏡での治療で治癒に至ることもありますし、より広い範囲に拡がった場合には手術による切除が必要となります。一方、全身に拡がった癌に対しては、切除などの局所療法ではなく、全身的な抗癌剤治療などが行われることとなります。
 したがって、癌の治療を始める場合、その癌の拡がり(粘膜からどのくらい深くまで進行しているのか?リンパ節や、肝臓は肺などの他の臓器に転移がないのか?)を知る必要があります。そのためには、胃内視鏡検査や胸腹部CT、PETCT検査などが有用です。
Q: 胃癌とは?

A胃の粘膜から発生した癌です。日本人に比較的多い癌ですが、最近は減少傾向にあります。ピロリ菌が発癌に関与していることが知られています。
Q: 胃癌の進行度とは?

A癌の進行度(病期といいます)は下記のいくつかの要因によって決定されます。
  1. 深達度:粘膜から発生した癌が、胃壁に対してどのくらい深いところまで到達しているかを示します。早期の胃癌は粘膜に限局していますが、大きさを増すにつれて徐々に粘膜下層、筋層へと浸潤していき、最終的には胃の外側である漿膜面に露出したり、肝臓や膵臓など周囲臓器に浸潤することもあります。また、深達度が深くなるに従ってリンパ節転移のある可能性が高くなります。
  2. リンパ節転移:癌細胞が胃壁内のリンパ管の中に進入した場合、胃周囲のリンパ節に転移を形成する可能性が高くなります。従って治療方針を決定するにあたり、胃周囲のリンパ節に転移があるのかないのかが問題となります。
  3. 遠隔転移:癌細胞が胃壁内の血管の中に侵入した場合は、全身を巡る血流に乗り、体の様々な場所へと到達し、そこで増殖することとなります。胃癌の場合、主に肝臓や肺への転移が問題となります。
  4. 癌性腹膜炎:胃癌の場合、漿膜面(胃壁の外側)へ癌が露出した場合、癌細胞がお腹の中全体にばらまかれることがあり、これを癌性腹膜炎といいます。癌性腹膜炎に至った場合、腹水の出現や、腹痛、癌による腸閉塞を来すことがあります。
Q: 胃癌の治療法は?

A胃内視鏡検査や腹部CT検査などの術前画像診断を通して、進行度を判定し、進行度に応じた適切な治療が必要となります。胃癌治療の大きな部分を外科手術が占めますが、基本的には、遠隔転移や癌性腹膜炎に至った場合には、手術などの局所切除による治療の効果は望めません。
胃癌に対する主な治療法には以下のものがあります。
  1. 胃内視鏡的治療
  2. 手術
  3. 化学療法
Q: 胃粘膜切除術とは?

A胃内視鏡にて粘膜を切除します。胃壁の外にあるリンパ節には手をつけれませんので、確実にリンパ節転移のないと思われる早期胃癌に適応となります。
具体的には2cm以下の粘膜に限局した胃癌などに対して行われます。
詳しくは http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/gastro/research/index.html
Q: 胃癌に対して、どんな手術をするの?

A胃癌を残すことないように、胃を切除することが重要となります。従って癌の存在部位によって、胃2/3切除(幽門側胃切除術)か、胃全摘術が選択されます。一般的には出口に近い部位(幽門といいます)の胃癌に対しては前者を、入口に近い部位(噴門といいます)の胃癌に対しては後者を選択します。
 また、術前の画像診断や術中の観察ではリンパ節転移の有無はわかりませんので、転移の可能性のあるリンパ節を一緒に切除する必要があります(これをリンパ節郭清といいます)。切除した胃とリンパ節はすべて専門の病理診断医によって顕微鏡学的に、深達度、リンパ節転移の有無が検索されます。その結果、最終的な進行度がわかります。したがって最終的な病理学的な進行度は、実際にその方の胃癌がどのくらい進んでいたのか?再発のリスクがどのくらいあるのか?を表すこととなります。
Q: 腹腔鏡下手術とは?

A手術を行う場合、基本的には全身麻酔をかけた後、お腹をあけて手術をすることとなりますが(開腹手術)、当科では、特に早期癌の方に対しては腹腔鏡下胃切除術を積極的に行っております。腹腔鏡下手術は、炭酸ガスにて膨らませたお腹の中に腹腔鏡というカメラや電気メス、鉗子をいれて手術をするため、開腹手術に比してキズが小さく、術後の回復が早いことが知られています。当科では、積極的に腹腔鏡下手術を行っております。
Q: 手術にはどんな合併症があるの?


A

  1. 出血:お腹の中で、胃や食道などを切離する場合、周囲の血管を処理する必要があります。開腹手術においては糸で結紮を行いますが、腹腔鏡手術においては電気メスや特殊な機械にて切離を行います。手術終了時にお腹の中に出血がないことを十分に確認しますが、術後早期には再出血をみることがあります。出血量によっては再手術が必要なこともあります。
  2. 縫合不全:胃や食道を切離した後、食べ物の通り道を造るために、残った胃と十二指腸や、食道と小腸などをつなぎ合わせる必要があり、これを腸管吻合といいます。以前は糸を使い縫い合わせることも多かったのですが、最近では器械にて吻合することも多くなっています。腸管の状態によってはうまく繋がらず一部が漏れたりすることもあり、これを縫合不全といいます。絶食、点滴による栄養管理が必要となります。
  3. 膵液ろう:胃周囲のリンパ節を切除するときに、場合によって膵臓の周りを処理することがあります。膵臓は消化液が豊富な臓器ですので、処理した部分から消化液が漏れ出し、周囲組織を溶かすことがあります。膵臓周囲に水がたまったり、状況によっては感染を併発し、入院期間が長引くことがあります。
  4. 肺炎:全身麻酔の影響や、免疫力の低下によって術後に肺炎が起こることがあります。特にタバコを吸われる方は、痰の量が増えるため、肺炎になりやすい傾向があります。重症の肺炎の場合、痰をとるための細い管(ミニトラック)を喉から直接気管に挿入したり、気管内挿管をして人工呼吸器での管理が必要な場合もあります。
  5. 創感染:術後1週間くらいして、傷が化膿することがあります。
手術を受けられた大多数の方々は、大きな合併症を経験することなく退院されます。しかし人間の体にメスを入れる以上は、様々な予期しない合併症が起こる可能性を念頭におく必要があります。合併症によっては、ご自身、そのご家族のみなさまに多大な心的、経済的負担を強いることとなりますので、予防はもちろんのこと、起こった場合の早期発見、早期治療、および状況と経過の丁寧な説明を心がけております。
Q: 当科での治療成績

A準備中...
Q: 抗癌剤治療とは?

A肝臓転移や肺転移、腹膜転移など、手術にて取り切れない範囲に拡がった胃癌には抗癌剤による全身的な治療が必要となります。現在推奨されているのは5FUという抗癌剤とCDDPという抗癌剤の点滴による併用療法です。
 また、手術にて肉眼的には完全に取り去れた場合でも、顕微鏡的な小さな癌細胞が体内に残り、数年の内に再発を来す可能性があります。従って最終的に病理診断にて進行度II,IIIであった場合は、体内の遺残癌細胞に対して術後1年間の抗癌剤の内服が勧められます(これを補助化学療法といいます)。現在使用されるお薬はTS1という飲み薬です。
Q: 食道癌とは?

A食道の内腔を覆う扁平上皮で覆われており、この粘膜から発生した癌です。食道扁平上皮癌は最近は減少傾向にありますが、食道下部の食道胃接合部に出来る癌(食道腺癌)は増加傾向にあります。扁平上皮癌では喫煙や飲酒が発癌に関与していることが知られています。
Q: 食道癌の進行度とは?

A医学的には、食道癌の病状の進み具合を進行度といいます。
癌の進行度(病期といいます)は下記のいくつかの要因によって決定されます。
  1. 深達度:食道粘膜から発生した癌が食道の壁に対して、どのくらい深いところまで到達しているかを示します。初期の食道癌は表面の粘膜に限局していますが、徐々に粘膜下層、筋層へと浸潤していきます。食道は胃と異なり漿膜がありませんので、比較的容易に気管、気管支や肺、心臓になど周囲臓器に浸潤します。また、深達度が深くなるに従い、リンパ節転移のある可能性が高くなります。
  2. リンパ節転移:癌細胞が食道壁内のリンパ管に進入した場合、食道周囲のリンパ節に転移を形成する可能性が高くなりますが、食道癌の場合、深達度は比較的浅い段階においても食道周囲だけでなく、広く頚部、腹部へリンパ節転移が起こることが知られています。
  3. 遠隔転移:肝臓や肺への転移を示します。
  4. その他
 上記を総合して進行度を判定します。進行度に応じた適切な治療が必要となります。
 食道扁平上皮癌は比較的放射線治療が効きやすい癌ですので、その治療法として、例えば、ごく早期の癌の場合、内視鏡的切除が有効ですし、全身に拡がった場合や、体力的に手術が無理な方に対して化学放射線治療が選択されます。大多数の患者さんに対しては手術もしくは化学放射線治療が適応となります。
 そのため当院では、外科、消化器内科、放射線科の医師とともに食道カンファランスを行い、個々の病状にあった治療方針について意見の交換を行っております。ですから、癌の状態はもちろん、ご自身の体力や治療に対する考え方を総合的に判断し、治療方針を決定することとなります。
Q: 一般的な食道癌の治療法は?

A
  1. 食道内視鏡的治療
  2. 手術(+化学療法)
  3. 化学放射線療法
Q: 食道癌に対してどんな手術をするの?

A当科では積極的に胸腔鏡、腹腔鏡での食道手術を導入しています。
Q: 食道粘膜切除術とは?

A胃内視鏡にて粘膜を切除します。リンパ節転移のないごく早期の食道癌に適応となります。
Q: 食道切除術とは?

A胸部食道とリンパ節を一括して切除します。
 食道は前方を気管、気管支、心臓に、後方を脊椎骨に、両側を大動脈や肺に囲まれています。したがって食道を切除する場合には一般的に右側から肋骨の間から胸腔に進入し(右開胸)、右肺をよけながら食道に到達することとなり、胸壁や肺に対するダメージが大きく肺炎や術後の合併症が問題となります。
 加えて、食道はリンパ管が発達しているため、食道癌のリンパ節転移は縦隔だけでなく、頚部、腹部へと広汎に転移することが知られています。そのため、食道切除術では基本的に頚部、胸部、腹部のリンパ節郭清を行う3領域リンパ節郭清術が基本とされています。当科では手術中に胸部と頚部の境目のリンパ節に転移を認めない場合、頚部リンパ節郭清術を省略することにより、侵襲の軽減を図っています。
 切除後の再建は、お腹から胸まで胃を持ち上げ、頚部食道と吻合します。したがって術後は食べ物がのどからすぐに胸の高さで胃に入ることとなります。
Q: 胸腔鏡下食道切除術とは?

A食道癌手術は一般的には開胸、開腹操作にて行われることが多く、消化器外科領域においてもっとも手術侵襲の大きな手術と言えます。当科では胸腔鏡下食道切除術を導入しており、開胸の回避と、小切開からの腹部処理にて手術を行っております。そのため、術後の創痛が少なく、肺機能が温存され、加えて積極的な理学療法を行うことで、術後1日目からの歩行が可能となっております。食事は4日目から開始しており、経過の早いかたでは術後2週間での退院も可能です。
Q: 抗癌剤治療の併用について

A食道癌は早期よりリンパ管、血管を通じて全身に拡がることが知られています。そのため、病期の進んだ方では、術後の再発が問題となります。再発予防のための抗癌剤治療を補助化学療法といいますが、当院では手術前に補助化学療法を行うことで再発抑制を図っています。病状によっては手術後に補助化学療法を行うこともあります。主に使用されるレジメンは5FUとCDDPという抗癌剤の点滴での併用療法です。
Q: 食道癌の手術の合併症にはどんなものがあるの?


A

  1. 肺炎:全身麻酔の影響や、免疫力の低下よって術後に肺炎が起こることがあります。また、食道癌手術は肺を圧拝して手術操作を行う必要があるため、術後に肺のふくらみが悪くなることがあります。特にタバコを吸われる方は、痰の量が増えるため、肺炎になりやすい傾向がありますので、術前は少なくとも4週間の禁煙をお願いしております。肺炎が重症化した場合、痰をとるための細い管(ミニトラック)をのどから直接気管に挿入したり、気管内挿管をして人工呼吸器での管理が必要な場合もあります。
  2. 縫合不全:食道を切離した後、食べ物の通り道を造るために、残った頚部食道と胃などをつなぎ合わせる必要があり、これを腸管吻合といいます。以前は糸を使い縫い合わせることも多かったのですが、最近では器械にて吻合することも多くなっています。腸管の状態によってはうまく繋がらず一部が漏れたりすることもあり、これを縫合不全といいます。絶食、点滴による栄養管理が必要となります。
  3. 声のかすれ(嗄声):食道癌の場合、声帯にいく神経(反回神経)周囲のリンパ節に転移をしやすいため、この周囲のリンパ節を十分に切除する必要があります。そのため、神経が麻痺をし、術後に声が枯れることがあります。
  4. ARDS:肺炎でもないのに、突然、呼吸状態が悪くなり、レントゲンで肺が真っ白になったりします。食道癌手術のもっとも大きな合併症の一つです。治療には気管内挿管による人工呼吸器での管理が必要です。
  5. その他
Q: 化学放射線治療について

A食道癌は放射線感受性の高い癌として知られています。そのため抗癌剤と放射線治療の併用は切らずに治す食道癌治療として注目されています。
Q: 術後の経過について

A当科では、肺合併症予防や早期の日常生活への復帰を目標として、積極的に周術期の理学療法を導入しております。基本的には理学療法士の指導のもと、術後1日目から歩行を開始していただきます。お腹のキズの痛みに対しては、鎮痛薬の持続点滴にて対応しております。
Q: 手術後の食事について

Aつなぎ直した消化管に問題がなければ、翌日から飲水および栄養剤の内服を開始します。胃切除術後で術後3日目から、食道切除術後でも術後4日目からお粥が始まり、徐々に普通食へと移行していきます。
 胃や食道を切除した後には、食べたものを胃で貯留や攪拌することが出来なくなりますので、「よく噛んで、ゆっくりと時間をかけて食べること」が大事になります。どのような食事が好ましいかについては、ご家族を含めて管理栄養士による栄養指導を受けていただきます。

上記のごとく、現在、胃癌、食道癌の治療は、手術だけではなく、胃内視鏡による治療から、抗癌剤や、放射線治療の併用まで多岐にわたっており、それぞれの癌の進行度に応じた治療法の決定が重要となっております。当科では、ご本人、ご家族に対して十分に時間をかけた懇切丁寧でわかりやすい治療方針の説明を心がけておりますので、ご自身の病状に関して、ご不明な点などございましたらお気軽にご相談ください。

文責:金高賢悟