はじめに
 1型糖尿病はインスリン分泌を行う膵内分泌細胞が自己免疫反応等で破壊され、インスリン分泌能が廃絶している状態です。インスリン分泌能が廃絶すると、高血糖状態となりインスリン投与なしでは生命の維持が困難となります。大多数の患者様はインスリン強化療法により適正な血糖コントロールが可能です。しかし、糖尿病専門医による管理を受けても血糖コントロールが困難で生命の維持に支障を来たすケースや、腎症・網膜症・神経症等、糖尿病性合併症が進行するケースがあります。膵臓移植は、上記のような患者様に対する根治的治療法で、血糖値に応じて移植膵臓がインスリンを分泌することで血糖値が安定します。血糖値の安定は各種糖尿病性合併症の改善もしくはその進行を阻止することに繋がり、患者様のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)のみならず、生命予後の改善が期待できます。
 大部分(約80%)の患者様は、糖尿病性腎症による慢性腎不全を合併しており、この様な患者様に対しては膵臓と腎臓の同時移植(SPK)が行われます。その他、腎移植後の膵単独移植(PAK)と、腎機能が保たれている1型糖尿病の患者様に対する膵単独移植(PTA)があります。
膵臓移植の適応基準
1. 対象
(1) 腎不全に陥った糖尿病患者であること。
臨床的に腎臓移植の適応があり、かつ内因性インスリン分泌が著しく低下(注1、2)しており移植医療の十分な効能を得るためには膵腎両臓器の移植が望ましいもの。患者はすでに腎臓移植を受けていても(PAK)良いし、腎臓移植と同時に膵臓移植を受けるもの(SPK)でも良い。
注1:空腹時血清Cペプチド0.3ng/ml以下、かつ、グルカゴン負荷後血清Cペプチド0.5ng/ml以下
注2:血液透析を導入している、もしくは腎不全患者(e-GFR<30ml/min/1.73m2)はグルカゴン負荷試験(または食事負荷試験)で負荷前後の血清Cペプチドの差が0.3ng/ml以下
(2) 1型糖尿病の患者で、糖尿病専門医によるインスリンを用いたあらゆる手段によっても、血糖値が不安定であり、代謝コントロールが極めて困難な状態が長期にわたり持続しているもの。(重症低血糖発作や無自覚低血糖発作) 
このような方に膵臓単独移植(PTA)が適応となります。
2. 年齢 原則として60才以下が望ましい。
3. 合併症または併存症による制限
(1) 糖尿病性網膜症で進行が予測される場合は、眼科的対策を優先する。
(2) 活動性の感染症、活動性の肝機能障害、活動性の消化性潰瘍。
(3) 悪性腫瘍:悪性腫瘍の治療終了後少なくとも5年経過し、この間に再発の徴候がなく、根治していると判断される場合は禁忌としない。
(4) その他:膵臓移植地域適応検討委員会が移植治療に不適当と判断したものも対象としない。

また、患者様とその御家族が膵臓移植の内容について十分に理解し、移植後の協力体制が整っていることも重要です。
日本臓器移植ネットワークに登録するまで
 下図のような流れで日本臓器移植ネットワークに登録します。
日本臓器移植ネットワークに登録するまで
(日本膵・膵島移植研究会ホームページより)
待機患者人数
 2017年6月30日現在、全国で205人の登録待機患者様がいます。膵腎同時移植が157人と大半を占めています。
年間移植件数
 本邦で2015年12月末日までに行われた脳死・心停止下膵臓移植は246例でした。なお、生体ドナーからの膵臓移植も27例行われました。2010年7月の改正臓器移植法の施行後、脳死ドナーからの移植が急増しています。
年間移植件数
(日本膵・膵島移植研究会膵臓移植班・本邦膵臓移植症例登録報告2016)
登録から移植までの待機期間
登録から移植までの待機期間

 登録から移植までの待機期間は最短で29日、最長で4,974日、平均待機期間は1,326日です。
(日本膵・膵島移植研究会膵臓移植班・本邦膵臓移植症例登録報告2016)
レシピエント選択基準
1. ABO式血液型の一致又は適合
2. HLA型の適合による優先順位
 DR座の適合とA座およびB座の適合数により、腎移植における順位と同一の順位とする。
3. 上記1及び2による優先度が同一の待機患者が複数存在する場合は、膵腎同時移植、腎移植後膵移植、膵単独移植の順に優先する。
4. 上記の条件が同一の場合は、待機期間の長い順とする。
5. リンパ球直接交叉試験陰性。
手術方法
膵腎同時移植(腸管ドレナージ)  脳死ドナーより膵臓を十二指腸とともに摘出し、レシピエントに移植します。 膵腎同時移植の場合、同じドナーより同時に腎臓も摘出し、腎移植も行います。 膵臓を移植する際、足へつながる血管と移植される膵臓の血管をつなぎ血液が流れるようにします。また、ドナーの十二指腸とレシピエントの腸管(小腸)を吻合して膵液の通り道を作ります。通常は、膵臓は右の下腹部に移植し、腎臓は左の下腹部(後腹膜)に移植します。 腎移植後膵移植の場合、腎臓を左下腹部に移植している場合は右下腹部に移植します。腎臓を右下腹部に移植している場合は膵臓を左下腹部に移植します。 手術時間は膵腎同時移植が約7~10時間、膵臓移植だけの場合は約5~8時間です。
膵腎同時移植(腸管ドレナージ)
移植成績
 2015年12月末までに本邦で行われた脳死・心停止下膵臓移植は246例でした。移植した膵臓の1年、3年、5年生着率はそれぞれ86.1%、79.2%、73.9%です。また、膵臓と同時に移植した腎臓の1年、3年、5年生着率はそれぞれ92.6%、92.6%、89.5%です。
年間移植件数
(日本膵・膵島移植研究会膵臓移植班・本邦膵臓移植症例登録報告2016)
費用について
 日本臓器移植ネットワークに登録する際に新規登録料(1臓器30000円)が必要です。
 そのほかHLA検査費用(新規登録時のみ)や更新料等が別途かかります。
 脳死下での膵臓移植は保険適用となっていますので、医療費は通常の保険診療と同様の3割負担となります。高額医療制度も利用可能です。透析をされている場合、障害者手帳や更正医療などは継続して利用できます。
お問い合わせ先
移植消化器外科医局、もしくは移植コーディネーターまでご連絡ください。
 移植・消化器外科医局 TEL:095-819-7316
 レシピエント移植コーディネーター(看護師) 川浪幸子
 管理支援室 TEL&FAX:095-819-7767 (平日 9:00~17:00)
 E-mail s-yabu@nagasaki-u.ac.jp