副腎腫瘍

副腎腫瘍とは

副腎は、左右の腎臓の上にある5cm×3cmほどの小さくて薄い臓器です。
副腎の役割は人間が生きていくのに必要なホルモンをつくることです。副腎は皮質と髄質に分かれ、それぞれからホルモンが分泌されます。

① 副腎皮質ホルモン アルドステロン、コルチゾール、アンドロゲン(性ホルモン)などがつくられます。

② 副腎髄質ホルモン カテコラミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)がつくられます。

副腎に腫瘍ができると、これらのホルモンを過剰につくってしまうことがあります。ホルモンを過剰に分泌するかどうかで、副腎腫瘍は機能性副腎腫瘍と非機能性副腎腫瘍に分類されます。
また頻度としては少ないのですが、副腎皮質癌という悪性腫瘍ができることもあります。また、肺癌や胃癌、腎臓癌など他の臓器にできた癌が副腎に転移することもあります。
ここでは、機能性副腎腫瘍として代表的な3つの疾患を説明します。
① 原発性アルドステロン症 アルドステロンはナトリウムという塩分を体に蓄える働きがあります。副腎腫瘍によるアルドステロンの過剰分泌により塩分が過剰に蓄えられることで高血圧が引き起こされます。
原発性アルドステロン症は高血圧症の患者さんの約10%に見つかるといわれており、手術で治る可能性があります。あなたが高血圧の治療を受けているのであれば、一度副腎ホルモンの血液検査を受けることをお勧めします。かかりつけの先生に相談してみてください。
② 副腎性クッシング症候群 コルチゾールは炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝を制御し、生体にとって必須のホルモンです。肉体的・精神的なストレスでコルチゾールの分泌量は増加し、生体防御の役割もあります。コルチゾールの産生は脳下垂体から分泌されるACTHというホルモンによって調節を受けており、朝たくさん作られて、夜は分泌量が低下します。これを日内変動と呼び、人間の生体リズムを整える重要な意味があります。副腎腫瘍がコルチゾールを過剰につくってしまうと、この日内変動がなくなり、さまざまな症状が出現します。
③ 褐色細胞腫 副腎腫瘍がカテコラミンを過剰につくるとこの病気になります。カテコラミンは血管の収縮に強くかかわっており、興奮したときなどにも分泌量が増加します。
・副腎外発生が約10%
・両側性発生が約10%
・悪性腫瘍が約10%
・家族内発生が約10%
・小児発生が約10%
などの理由から10%病といわれることがあります。褐色細胞腫の腫瘍は比較的大きくなりやすく、放置すれば突然死の可能性もある病気です。

副腎腫瘍の症状

副腎腫瘍の症状は、ほとんどの場合過剰につくられるホルモンによって引き起こされます。副腎腫瘍が小さいうちは、腫瘍そのものによる症状はあまりありません。他の病気を調べているときにたまたま副腎腫瘍が見つかることもよくあります。腫瘍が大きくなると背部痛などの圧迫症状が出ることがあります。 ここでは代表的な機能性副腎腫瘍による症状をご説明します。

① 原発性アルドステロン症 アルドステロンが腫瘍によって過剰分泌されると、ナトリウムが過剰に蓄えられることによって高血圧になります。またカリウムの排泄が多くなり、低カリウム血症になることもあります。カリウムの不足により筋力が落ちたり、つりやすいなどの症状が出ることもあります。

② クッシング症候群 コルチゾールの過剰分泌および日内変動の消失により、さまざまな症状が引き起こされます。代表的な症状は高血圧、高血糖、中心性肥満、野牛のような肩のこぶ、多毛などです。また皮膚が薄くなって血管の壁がもろくなるのですぐに皮下の内出血ができやすくなります。さらに精神的にもうつ傾向になることが知られています。

③ 褐色細胞腫 褐色細胞腫は大きく5つの症状があります。
高血圧(Hypertension)
高血糖(Hyperglycemia)
代謝亢進(Hypermetabolism)
頭痛(Headache)
発汗過多(Hyperhydrosis)
以上の5つの症状の頭文字をとって5H病と呼ばれることもあります。このほかに、脈が速くなる(頻脈)、脈が乱れる(不整脈)、立ち上がるときにめまいがする(起立性低血圧)、過呼吸になる、皮膚が冷たいのに湿っている、胸が苦しい、みぞおち付近が痛む、呼吸困難感、便秘といった多彩な症状が現れることがあります。

副腎腫瘍の診断

副腎腫瘍の診断には腹部CTや腹部MRIなどの画像検査が有用です。また、副腎腫瘍がホルモンを過剰に分泌しているかどうかを調べるためにホルモン検査が必要です。以下、代表的な疾患の診断について説明します。

① 原発性アルドステロン まず最初に行う検査はアルドステロンと、これに関わるレニンというホルモンを血液検査で調べることです。アルドステロンとレニンの比が200以上の時この病気を疑い、次のステップに進みます。
次のステップではカプトプリル負荷試験、立位フロセミド負荷試験、ACTH負荷試験が行われます。これらの検査によって原発性アルドステロン症の診断が確定します。 アルドステロンを過剰に分泌する腫瘍は比較的小さいものが多く、時にはCTなどではわからないことがあります。また両方の副腎にアルドステロンを分泌する腫瘍ができる場合もあります。両方の副腎に腫瘍がある場合と片方の副腎に腫瘍がある場合では治療法が異なります。このような理由から、原発性アルドステロン症ではカテーテル検査を行い、両方の副腎から直接血液を採取し、どちらの副腎からアルドステロンが過剰分泌されているかを調べる必要があります。この検査を副腎静脈サンプリングと呼びます。

② 副腎性クッシング症候群 副腎腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されると、血液中のACTHが低下します。また、デキサメタゾンという副腎皮質ホルモンの薬を投与しても、コルチゾールが十分に下がらない場合に本疾患が疑われます。
画像検査にはCTが有用であり、腫瘍と反対側の副腎は小さくなっているのが特徴です。
また123I-アドステロールシンチグラフィを行い副腎腫瘍にホルモン活性があるかを調べます。

③ 褐色細胞腫 褐色細胞腫を疑った場合、まず血液検査でカテコラミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)を測定します。また一日の尿を貯めて検査を行い、尿中のカテコラミンやカテコラミンの代謝産物(メタネフリン、ノルメタネフリン)を測定します。
褐色細胞腫の診断にはMRI検査での画像所見が重要です。さらに、123I-MIBG副腎シンチが行われます。
これらの検査所見を組み合わせて、褐色細胞腫の確定診断がなされます。

副腎腫瘍の治療

副腎腫瘍の基本的な治療方針は手術による摘出です。腫瘍のできた側の副腎を腫瘍ごと摘出します。両側副腎に腫瘍ができた場合などには降圧薬など症状を抑える内服治療が行われることもあります。
機能性副腎腫瘍に対しては手術が勧められますが、ホルモンを作らない非機能性副腎腫瘍に対しては通常経過観察が行われます。ただし、徐々に大きくなってくる腫瘍や4cmを超える腫瘍は悪性腫瘍の可能性がありますので、手術が勧められます。
副腎腫瘍の手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。現在ではほとんどの患者さんに対して腹腔鏡手術が行われていますが、11cmを超える大きな腫瘍や、悪性腫瘍を疑う場合には開腹手術が行われます。
腹腔鏡下副腎摘除術は1992年に世界に先駆けて日本で開始され、今では全世界の標準治療になりました。長崎大学では1995年より腹腔鏡下副腎摘除術が開始されています。
右副腎腫瘍の場合は4-5か所にポートと呼ばれる小さな穴を開け、ここから手術用の鉗子などの道具を挿入して手術を行います。
左副腎腫瘍の場合は3-4か所のポート設置で手術が行われます。
手術は全身麻酔をかけ、腫瘍のある側を上に向けた側臥位(横向きの姿勢)で行われます。
また頻度は少ないのですが、副腎に悪性腫瘍ができた場合には薬物療法が行われることがあります。

長崎大学病院泌尿器科の特色

長崎大学病院では副腎腫瘍の診断、治療、治療後の経過観察まで含めて内科医との緊密な連携のもとに診療を行っています。副腎腫瘍による体内ホルモン環境の変化は様々な内科的疾患を引き起こすため、内科医との連携が重要と考えています。
長崎大学病院泌尿器科には8名の日本泌尿器内視鏡学会の腹腔鏡認定医が在籍しており、すべての腹腔鏡下副腎摘除術にこの腹腔鏡認定医が関わっています。
また毎週、医局員全員で手術ビデオを見て技術の向上、統一化を図っています。このことで手術の安全性、透明性が高まっており、患者さんとご家族に安心して治療を受けていただけると考えています。