精巣腫瘍

精巣腫瘍とは

①精巣とは 男性の股間の陰のう内部に左右1つずつある卵形をした臓器で、睾丸(こうがん)とも呼ばれています。
精巣には、精子を造る機能と男性ホルモンを分泌する機能があり、それぞれ異なる細胞で行われています。精子を造るもとになるのは精母細胞で、男性ホルモンを産生するのはライディッヒ細胞です。

②精巣腫瘍とは 精巣にある細胞から発生する腫瘍を精巣腫瘍と呼びます。
精巣腫瘍の約95%は、精母細胞から発生します。精母細胞は、生殖細胞あるいは胚(はい)細胞と呼ぶため、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。90%以上が悪性腫瘍と言われています。
精巣腫瘍の発生率は、人口10万人当たり1~2人と比較的まれな腫瘍で、発症年齢は乳幼児期と20~30歳代にかけて2つのピークがあり、40歳未満の罹患が全体の約3分の2を占めます。男性の全腫瘍の1%程度ですが、15~35歳の男性においては最も多い悪性腫瘍です。精巣腫瘍の30%は転移を有する進行性精巣腫瘍ですが、抗癌剤による化学療法が奏効する場合が多く、転移のある症例でもしっかりと治療することで80%を治癒に導くことができます。

③精巣腫瘍の原因 詳しい原因はまだわかっていませんが、精巣が陰嚢内に降りてこずにソケイ部などに留まっている病態(停留精巣)、精巣外傷、妊娠時のホルモン剤投与、萎縮精巣などが精巣腫瘍の発生を高めるリスク因子と考えられています。停留精巣が精巣腫瘍を生じる危険率については、最近では3~14倍の危険率であるとされ、精巣固定術により精巣を陰嚢内に降ろしても、その危険率は変わらないとされています。
また、両側精巣とも精巣腫瘍に罹患する率は2~3%であり、その場合は両側ともに同一の組織型である場合が多いとされています。精巣腫瘍に罹患した人は、残る反対側の精巣に腫瘍が発生する可能性が通常の人よりも高くなります。

精巣腫瘍の症状

精巣腫瘍の初発症状は無痛性の精巣のしこりや腫れです。好発年齢の青壮年の方は、入浴時に自分で触ってみる自己検診をお勧めします。

【局所症状】

  • 痛みを伴わない陰嚢内(精巣部分)のしこり
  • 痛みを伴わない陰嚢内容(精巣)の腫大(痛みを伴うこともありますが、ほとんどの場合は軽度です)

【全身症状】 転移を起こすと様々な全身症状が出ます。

  • 腹部リンパ節(後腹膜リンパ節)転移→ 大きくなるとおなかにしこりを触れることがあります。腰痛を感じることもあります。
  • 頚部リンパ節転移→ 首にしこりを触れることがあります。
  • 肺転移→ 咳、息苦しさ、血痰などの症状が出ることがあります。
  • ホルモン異常→ 乳房が膨らむ(女性化乳房)ことがあります。
  • その他→ 肝臓、骨、脳などに転移することがあります。

無痛性の場合が多く、病気の部位が陰部のため、恥ずかしさから受診が遅れて病気が進行することがあります。恥ずかしがらないで早めに受診することが大切です。

精巣腫瘍の診断

医師による触診、腫瘍マーカー採血、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などを行い診断します。組織の確定診断は摘出した精巣の病理学的検査と血液検査による腫瘍マーカーで行います。

触診 精巣を直接触診し、精巣上体ではなく精巣そのものにしこりや腫れがあることを確認します。

超音波検査 陰嚢内のしこりの部分を超音波検査で確認します。陰嚢水腫や精液瘤など、他の疾患との鑑別に有用な検査です。

血液検査 以下の腫瘍マーカーを測定します。

  • hCG(ヒト縦毛性ゴナドトロピン)
  • AFP(アルファ胎児性蛋白)
  • LDH(乳酸脱水素酵素)

組織検査 精巣腫瘍では、生検を行うと転移を生じる恐れがあるため禁忌とされており、手術によって精巣全体を摘出する必要があります。

鑑別診断 主に下記疾患が鑑別としてあげられます。

  1. 精巣上体炎 陰嚢内に硬いしこりを触れます、感染症なので急性期には痛みや発熱などの症状を伴うことが多く鑑別可能ですが、慢性期には診断に苦慮することがあります。
  2. 精巣炎 流行性耳下腺炎(おたふく風邪)に伴って起こるものが代表的で、精巣の痛みと腫れがあります。炎症所見が弱い場合、結核性精巣炎の可能性があり注意が必要です。
  3. 陰嚢水腫、精液瘤 超音波検査で容易に鑑別可能です。

確定診断 精巣腫瘍を摘出し、病理学的検査で組織型の確認を行います。組織型はセミノーマと非セミノーマに分類されます。

  1. セミノーマ 精巣腫瘍の50%以上を占める組織型です。
    診断時に約80%がステージⅠで、精巣に限局しています。
  2. 非セミノーマ 胎児性がん・卵黄嚢腫瘍・絨毛がん・奇形腫、それぞれが混在したものがあり、セミノーマより転移を起こしやすいのが特徴です。診断時、ステージⅡ、もしくはⅢの転移を有する症例が60~70%です。セミノーマと、非セミノーマが混合する場合は非セミノーマとして取り扱います。

(ステージⅠ、Ⅱ、Ⅲについては次の治療欄の日本泌尿器科学会病期分類を参照してください)

精巣腫瘍の治療方針

精巣腫瘍の場合、転移がある症例であってもすべての症例で高位精巣摘除術を行い腫瘍の組織型を確認します。
精巣摘出後の治療方針は病期によって異なります。治療方針の決定には病期分類*が非常に重要です。

*日本泌尿器科学会病期分類 第4版

Ⅰ期:転移を認めず

Ⅱ期:横隔膜以下のリンパ節にのみ転移を認める

  • ⅡA 後腹膜リンパ節転移巣が最大径5cm未満のもの
  • ⅡB 後腹膜リンパ節転移巣が最大径5cm以上のもの

Ⅲ期:遠隔転移

  • Ⅲ0 腫瘍マーカーが陽性であるが、転移部位を確認しえない
  • ⅢA 縦隔または鎖骨上リンパ節(横隔膜以上)に転移を認めるが、その他の遠隔転移を認めない
  • ⅢB 肺に遠隔転移を認める
    1. B1:いずれかの肺野で転移巣が4個以下でかつ最大径が2cm未満のもの
    2. B2:いずれかの肺野で転移巣が5個以上または最大径が2cm以上のもの
  • ⅢC 肺以外の臓器にも転移を認める

【Ⅰ期に対する治療】 高位精巣摘除術後、組織型によっては再発を起こしやすい部位への放射線治療を追加したり、抗がん剤を用いた化学療法による補助療法を行うことがあります。
補助治療を行わずに経過観察することもあります。

Ⅱ・Ⅲ期に対する治療 高位精巣摘除術後、抗がん剤による化学療法や、放射線治療、転移部位の切除手術を行います。
精巣腫瘍は大動脈周囲の後腹膜リンパ節に転移しやすいため、このリンパ節を診断、治療目的に切除する後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)を行うことがあります。

精巣腫瘍の治療

  • 精巣に対して → 高位精巣摘除術
  • 転移に対して → 抗がん剤治療
            放射線治療
            後腹膜リンパ節郭清術

長崎大学病院泌尿器科の特色

当院では、後腹膜リンパ節転移を診断・治療目的で切除する後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)を、手術創部が小さく、疼痛も少ない腹腔鏡手術を行うようにしています。
精巣腫瘍は、転移があったとしても適切な治療により根治を望める数少ない固形がんです。本疾患でお悩みの方は遠慮なくご相談ください。

関連リンク

日本泌尿器科学会 一般のみなさま向けサイト
https://www.urol.or.jp/public/symptom/11.html