患者さんへ

泌尿器の病気について:腎不全・腎移植
目 次
1. はじめに
現在わが国には約30万人の腎不全の患者さんが透析療法を受けています。そのうち約12,000人の方が献腎移植の希望登録をしています(図1)。また実際には透析患者さんの多くが腎臓移植を希望していると考えられています。日本の透析療法は腎臓内科や透析医の先生方の尽力により、諸外国と比較しても非常にいい成績であり、患者さんのQOL(生活の質)や生存率も比較的良好とされています。しかし透析療法では時間の制約や食事の制限が比較的大きいと言えます。健康で自由な生活を楽しみたいというのは多くの腎不全の患者さんの願いです。その意味で腎臓移植は末期腎不全に対する治療法の一つとして多くのメリットのある治療といえます。

図1.日本の透析患者数と腎臓移植数

わが国における腎臓移植は、欧米に比べて件数こそ少ないものの、治療成績も年々向上しており、今や成績も安定しており、定着した治療方法の一つとなっています(図2)。またわが国の移植手術に関する技術は諸外国と同様と考えられています。そのような状況の中で私たち長崎大学のグループでは日本のなかでも古くから腎臓移植に取り組んできました。

図2.日本の腎臓移植の治療成績

長崎大学および関連グループでは1965年より腎臓移植を開始し、これまで多くの腎臓移植を行ってきました(図3)。さらには近隣の透析病院の先生方と協力して、腎不全の患者さんに腎臓移植が提供できるような体制を整えております。また最近では多くの方に腎臓移植を受けられるように当院あるいは近隣の腎臓内科と協力して診療に取り組んでいます。

図3.長崎大学での腎臓移植
2. 腎不全について
腎臓は体液のバランスを保つ、尿として老廃物を排泄する、貧血・血圧調整・骨の代謝に関連するホルモンを産生する、など体にとって様々な機能を担う非常に重要な臓器です。腎不全とは十分な腎臓の機能が維持できなくなる状態のことを言います。腎機能障害はいろいろな原因で生じます。以下のような疾患があります。


(1) 慢性糸球体腎炎(自己免疫疾患やある種の感染症などが原因で糸球体が機能しなくなる)

(2) 高血圧や糖尿病などの生活習慣病の悪化

(3) 遺伝性の病気(多発性嚢胞腎など)

(4) 先天的の疾患(低形成腎、膀胱尿管逆流症、先天性ネフロン瘻など)

高齢の方では生活習慣病の一種である糖尿病や高血圧の悪化が原因となる方が多くなっており、特に最近では糖尿病が由来で腎臓が悪くなる糖尿病性腎症により透析が必要となる患者さんが増加傾向にあります。

腎不全が進行すると、正常な尿の排泄ができない、あるいはホルモン産生の低下などにより以下のような症状や病態を生じます。

(1) 尿毒症症状(老廃物の蓄積による吐気・めまい・食欲低下・全身倦怠感などの出現)

(2) 水分の貯留(尿量低下によるむくみ・血圧上昇・心不全・肺水腫による呼吸困難)

(3) 電解質異常・酸塩基の異常(高カリウム血症による致死性不整脈など)

(4) ホルモンの産生低下や異常による貧血・骨の形成異常

その他にも関連していろいろな症状や病態を呈してきます。

腎不全が進行し、治療せず放置すると生命の維持も困難となります。そういった状況では透析療法あるいは腎臓移植といった腎臓の代わりをする治療(腎代替療法)が必要となります。
3. 腎不全の治療について -透析療法と腎臓移植-
前述したとおり腎不全が進行すると、透析療法あるいは腎臓移植といった腎臓の代わりをする治療(腎代替療法)が必要となります。透析療法には血液透析と腹膜透析があります。血液透析は体内から血液を取り出し、血液から不必要な老廃物と水分を除去し(血液を浄化して)体内に戻す治療です。通常は3~4回の透析病院への通院治療が必要となります。腹膜透析はお腹の中(腹腔と呼ばれています)にカテーテルという特殊な管を挿入して、その管を使用して透析液を出し入れすることにより、不必要な老廃物と水分を除去します。

透析療法では体液バランスの調整および老廃物の処理は可能ですが、それでも十分とは言えません。また腎臓の産生するホルモン(貧血や骨の代謝に関係するホルモンなど)は補充できません。腎臓移植は正常に近い腎臓の機能が回復し、通院の回数は少ないので、患者さんにとってのメリットの大きい治療といえます。図4に透析療法と腎臓移植の違いについてまとめております。

図4.透析療法と腎臓移植の違い
4. 腎臓移植とは -腎不全の治療のひとつです-

(1)腎臓移植には生体腎移植と献腎移植があります

腎臓移植は腎不全で透析が必要な状態あるいは近々必要な状態となる人を対象に、ドナーの方から腎臓を提供していただき、移植して、腎臓の機能をほぼ正常な状態に近づける治療方法です。

提供する人をドナーと呼びます。ドナーには2種類あります。家族・配偶者・近親者から二つの腎臓のうち、一つの腎臓の提供を受ける生体腎移植と、脳死や心臓死になられた方から善意の提供うけて移植する献腎移植があります。生体腎移植と献腎移植の違いを図5に挙げております。


図5.生体腎移植と献腎移植の違い



(2)献腎移植について

献腎移植はドナーの状態により脳死下提供献腎移植と心停止下提供献腎移植の2種類に分類されます。1997年に臓器移植法が施行され、さらに2010年に臓器移植法が改正され、脳死下提供移植が増加傾向にあります。しかし、日本では亡くなったからの臓器提供による献腎移植の数が非常に少ないために、生体腎移植の数が増加傾向となっております(図6)。

図6.日本の腎臓移植(献腎移植数と生体腎移植数の推移)

献腎移植を希望する場合には、日本臓器移植ネットワークに登録する必要があります。日本では約12,000人の方が登録されていますが、献腎移植の数が少ないために、長い期間提供を待つ必要があります。登録して10年以上待機することもあります。長崎県では献腎移植の臓器提供活動に以前より積極的に取り組んでいます。そのため長崎県は他県と比較すると献腎移植の数が非常に多い県の一つとなっております(図7)。

図7.長崎県の腎臓移植(献腎移植数と生体腎移植数の割合)

長崎県内で献腎移植登録を希望される方は長崎県健康事業団のホームページ
「献腎移植を希望される方へ」New Window
を参照ください。


(3)生体腎移植について

生体腎移植の最近の傾向と特徴は「ABO血液型不適合移植」と「先行的腎移植」の増加です。

生体腎移植はABO血液型が合う、合わないにより、「ABO血液型適合移植」と「ABO血液型不適合移植」の2種類に分類されます(図8)。かつては血液型の合わないABO血液型不適合移植は拒絶反応が必発と考えられており、医学的に適応外とされていました。最近は免疫抑制療法の進歩や開発によりABO血液型不適合移植も多く行われるようになってきております。治療成績もABO血液型適合移植と遜色ない成績と考えられています。

図8.ABO血液型適合移植と不適合移植とは?

最近は透析が必要となる直前に生体腎移植を計画、準備して、移植を行う「先行的腎移植」
を受けられる患者さんも増加しています。先行的腎移植を受けられる方は、透析を経ないで移植されますので、長く透析を受けることによる合併症も少なく、治療成績もいいとされています。また透析を必要としないことは最大のメリットと言えます。

生体腎移植では、家族・配偶者・近親者といった生体の方から腎臓の提供を受ける必要があります。生体腎移植のドナーは、健康で、腎臓の機能が正常であることが前提です。特にドナーの方が腎臓提供後に支障のない生活が送れるように、手術前に十分なチェックを行い、適応があるかを判断します。当院では、ドナーの方の腎臓を採取する手術は可能な限り、腹腔鏡手術(用手補助併用)を行い、体の負担を軽くして、術後の早期回復に努めるようにしています。
5. 腎臓移植の手術について
腎臓移植を受ける人をレシピエントと呼びます。レシピエントの手術は、下腹部を切開して、下腹部の血管(動脈と静脈があります)をドナーから提供された腎臓の血管と吻合します。血管を吻合した後に、腎臓に血液を流します(血流再開)。次に提供側の尿管とレシピエントの膀胱あるいは尿管と吻合します(図9)。もともとの二つの腎臓は通常は摘出しません。もともとの腎臓がある場所と別の場所に腎臓を移植します。

図9.腎臓移植(レシピエントの手術)
6. 腎臓移植の手術前に必要なこと
生体腎移植の手術前にはドナー、レシピエントともに全身状態の確認あるいは医学的に必要な検査などを行い、ともに医学的に適応の有無について十分な時間をかけて行います。
一方、献腎移植のレシピエントの場合は、ドナーの提供が急な状況で発生しますので、緊急に入院して、短時間で全身状態のチェックと必要な検査を行い、レシピエント手術に望むことになります。ここでは特に生体腎移植のレシピエント(移植を受ける方)の手術前に必要な処置や検査について説明します。

(1) 組織適合性検査
拒絶反応の可能性が高いかどうかを調べるための検査です。具体的にはABO血液型、HLAタイピング検査、リンパ球交差適合試験などがあります。ドナー、レシピエント両者の血液検査を行い、ドナーのリンパ球とレシピエントの抗体に異常な反応があるかどうかを調べます。さらに拒絶反応の主因となるHLA抗原の種類あるいはHLA抗体の有無を調べます。

(2) 全身状態の確認
血液検査・心電図検査・心臓エコー検査・呼吸機能検査・胸部レントゲン検査・CT検査など

(3) 感染症や合併症の有無
歯科受診・耳鼻咽喉科受診・眼科受診・精神神経科受診・産婦人科受診(女性の場合)
胃内視鏡検査・大腸内視鏡検査・膀胱の検査など
7. 腎臓移植後の合併症-拒絶反応と感染症
腎臓移植後は拒絶反応を起こさないように、免疫抑制療法が必要不可欠です。腎臓移植後3か月の間は拒絶反応を起こしやすく、比較的大量の免疫抑制剤が投与されます。この時期は、免疫力も落ちていますので、感染症も起こしやすい時期と言えます。

免疫抑制療法は、具体的には3-4種類の内服薬による治療になります。最近は免疫抑制剤の進歩により、拒絶反応の発症頻度は低くなっており、移植後早期に拒絶反応により、腎臓が機能しなかったという方はほとんどいなっております。しかし、免疫抑制剤が多すぎると、免疫力が低下して、感染症にかかりやすくなります。特に日和見感染症と呼ばれるウイルス感染症、真菌感染症、細菌感染症などを発症する可能性があります。腎臓移植直後は入院で、落ち着いてからの退院後は外来で、症状の有無、全身状態の変化、血液検査などにて拒絶反応や感染症を発症していないかをチェックすることが非常に重要です。

また免疫抑制剤を担当医あるいは薬剤師の指示通り、正しく服用し、何か体調の変化があれば、担当医に相談することが重要です。
8. 腎臓移植の免疫抑制剤について
腎臓移植後は拒絶反応を起こさないように、免疫抑制療法が必要不可欠です。主な免疫抑制剤の各々の特徴については図10を参照下さい。

図10.腎臓移植後に使用される主な免疫抑制剤
9. 腎臓移植後の生活について
腎移植後退院したら外来通院が必要です。最初の3か月間は拒絶反応や感染症を起こしやすい時期ですので、1週間~2週間に1回の外来受診し、その後落ち着いたら月1回程度の外来受診となります(図11)。

図11.腎臓移植後の管理について

退院後注意すべき症状として、尿量低下、発熱、むくみ、急な体重増加、急な血圧上昇などがあります。気になる場合は担当医に相談してください。また免疫抑制剤を飲み忘れた場合には、気が付いた時点で内服し、長く時間がたっている場合には担当医に相談して指示を仰いでください。

腎移植後は日常生活の制限はそれほど多くはありませんが、注意する点がいくつかありますので、以下の点を参考にされてください。

(1) 生活リズムと体調管理について
不規則な生活にならないように注意してください。日常生活が乱れると、体の抵抗力が落ちて、いろいろな病気の原因になります。また日頃より血圧測定、体重測定を行い、水分摂取に心掛けてください。

(2) 食事について
バランスのいい食事に心掛けてください。厳しい食事制限はありませんが、塩分やカロリー摂取過剰に注意してください。免疫抑制剤の影響で、高血圧や糖尿病や高脂血症といった生活習慣病になりやすい状態と言えます。また生活習慣病の発症は、移植した腎臓機能にも悪影響となります。腎臓移植後も生活や食事の管理は非常に重要です。
(3) 感染予防について
移植後3か月は感染症を発症しやすい時期です。定期的な外来通院を行い、感染症の有無をチェックすることが大事です。外出時は人ごみの中ではできるだけマスクを着用し、帰宅後はうがい、手洗いを心がけましょう。

(4) 運動について
透析している時期や腎機能が悪いときは、骨も脆い状態ですが、腎臓移植後は回復傾向となります。ただし、移植直後はまだ回復しておりませんので、激しい運動は避けてください。軽い運動は移植後3か月頃から始めても構いません。また柔道やラグビー、ボクシングなどのスポーツは移植腎を打撲する可能性があるのでさけた方がいいとされています。また鉄棒も移植した腎臓に影響があるので回避してください。

(5) 妊娠・出産について
腎臓移植後に腎機能が安定し、蛋白尿がなく、そのほか各種条件を満たせば女性の方の妊娠、出産は可能です。妊娠した場合には免疫抑制療法の調整が必要となります。また免疫抑制剤には母乳に移行しやすい薬剤がありますので、ミルク栄養をお勧めします。いずれにしても妊娠、出産を予定する場合は移植担当医にご相談ください。
10. 最後に ---腎臓移植の話を聞いてみたいときは?--
私たち長崎大学の腎臓移植グループは、腎不全の患者さんで腎臓移植を希望される方に、情報提供を行い、必要な検査を行い、腎臓移植を行っております。受診前後の具体的な流れは図12をご参照ください。また実際に話しを聞きたい場合には透析担当医あるいは腎臓内科や泌尿器科の主治医に相談していただく、あるいは長崎大学病院泌尿器科・腎移植外科にご連絡ください。

図12.腎臓移植までの流れ

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