患者さんへ

泌尿器の病気について:尿路がん
尿路がんとは:
 「尿路がん」といっても、皆さんにはあまり聞き馴染みがないかもしれません。尿路とは読んで字のごとく「尿がとおる路(みち)」であり、具体的には腎臓と接する腎盂(じんう)、腎臓と膀胱の間にある尿管、そして、膀胱と尿道を指します。つまり、「尿路がん」とはこれらの部位にできた癌を総称したものです。また、その解剖学的な特徴から、腎盂や尿管にできたものを「上部尿路がん」とまとめて呼び「膀胱がん」と区別することもあります。そして、その発生頻度は、膀胱>上部尿路>尿道の順ですが、尿道のみに癌ができることは比較的少なく、そのほとんどは膀胱がんと上部尿路がんです。尿路がんは、胃がんや肺がんほど頻度は高くありませんが、泌尿器科領域の3大癌の1つであり、男性に多いことが知られています。ただし、女性の喫煙率上昇に伴い、女性が占める比率が増えてきたという報告もあります。
尿路癌の症状:
 さて、尿路がんになると、どのような症状が出てくるのでしょうか?皆さんが「がん」と聞いてイメージされる急激な痩せや強い痛みは、尿路がんでも同様に起こることがあります。しかし、その早期から出現することが多い特徴的な症状としては「血尿」が挙げられます。血尿は目でみてわかる「肉眼的血尿」と、血尿の自覚はないものの検診などで指摘される「顕微鏡的血尿」に分かれますが、特に「肉眼的血尿」には注意が必要です。いずれの場合も、決して放置することなく、近くの泌尿器科を受診することをお勧めしますが、特に「肉眼的血尿」に気が付いた場合には、出来るだけ早く受診してください。
尿路がんの原因:
 尿路がんの原因は何でしょうか?他の癌と同様によくわかっていない、というのが実情ですが、そのなかでもまず挙げなくてはならないのは「喫煙」です。「喫煙」は様々な病気の発生や進行に関係している事が知られていますが、尿路がんは特にその関与が強いことがわかっています。その他、ある種の化学物質やお薬の影響、そして、結石や感染症や寄生虫がその原因となりうることが知られています。その一方、ある種の乳酸菌飲料が尿路がんの発生を抑制するという報告がありますが、まだ議論の段階で結論は出ていません。このように、尿路がんは外部因子の影響を念頭に治療や経過観察の方針をきめ細やかに立てていく必要があります。また、その悪性度にもよりますが10%から70%と高率に再発をきたすため、より慎重で計画的な検査が必要です。私達は「禁煙が膀胱がんの再発に与える影響」を検討する(第59回西日本泌尿器科学会「学術奨励賞」受賞)など、「禁煙指導」や「食生活指導」なども含めた総合的な診療によって、少しでも再発率を下げ進行を防ぐように心がけています。
尿路がんの検査:
 尿路がんが疑われた場合には、どのような検査が行われるのでしょうか?多くの場合、まずは尿を顕微鏡で観察する尿沈渣や尿細胞診、そして、超音波検査などを行い、状況に応じてCTやMRIなどを追加します。それらの検査で、さらに尿路がんの可能性が高くなった場合に、内視鏡検査や組織を採取する生検を行います。さらに、私達は膀胱だけでなく上部尿路にがんが疑われるもののはっきりとした証拠が見つからない場合には、尿管鏡検査などを積極的に行うことでより正確な診断をつけるようにしています。MRIや尿管鏡検査などは、ある程度設備の整った病院で行う必要がありますが、尿沈渣や尿細胞診などは、泌尿器科の診療所や開業医院でできますので相談してください。
尿路癌の治療:
 尿路がんと診断されたら、どういう治療が行われるのでしょうか?もちろん、その悪性度や進行度によって多種多様な方法がありますので、ここでは、代表的な治療法のみ取り上げます。
 膀胱がんでは、悪性度が低く、膀胱の粘膜に留まる早期がんであれば、尿道から内視鏡を入れて切除する「経尿道的腫瘍切除術(TUR)」で根治的な切除が期待されます。また、膀胱の粘膜の中に広範囲に癌が散らばった状態である上皮内癌(CIS)に対する治療や膀胱癌の再発予防のために、膀胱の中に抗癌剤やBCG(弱毒化した結核菌)を入れる「膀胱内注入療法」が行われることもあります。これらの治療には副作用や合併症がありますが、膀胱はそのまま残るため、生活の質の低下は軽度のことが多いです。私達は、適応を考慮しながら積極的に「膀胱内注入療法」を行っています。
 一方、画像検査では転移はないが、癌細胞が膀胱の筋肉にまで及んでいる場合は、膀胱をすべて摘出する膀胱全摘除術が第一の選択肢となります。しかし、最も根治性の高い膀胱全摘除術を行っても、その後に再発する患者さんも少なくありません。そこで、私達は積極的に抗がん剤治療を手術と組み合わせた治療を行っています。最近、海外の大規模な研究において、このような併用療法をした患者さんが、そのまま膀胱全摘除術を行った患者さんより長生きできることが報告されました。私達も同様の感触を得ていますので、今後も様々な治療法を組み合わせた「集学的治療」を積極的に行っていきます。また、このような膀胱全摘除術を前提に抗がん剤や放射線治療を行ったところ、腫瘍が著明に縮小し結果的に内視鏡の手術で根治でき、膀胱を取らずにすんだ患者さんもいます。このような「膀胱温存」を目指した治療法の実践や研究も、長崎大学泌尿器科学教室の主要なテーマの1つです。
 次に、上部尿路がんの場合は腎臓と尿管、さらに膀胱の一部まで切除する必要があります。以前は、腎臓を摘出するためと、尿管や膀胱を摘出するための2か所の大きな切開が必要でした。しかし、現在、長崎大学病院泌尿器科では、「体腔鏡手術」を積極的に行い、体に優しい手術を心がけています。そのため、手術後の痛みは大幅に改善し入院期間も短縮しています。もちろん、上部尿路がんにおいても、膀胱がんと同様に、抗癌剤を用いた併用療法も積極的に行うことで、少しでも根治できる可能性を高める努力をしています。
 一方、リンパ節や他臓器に転移している場合には、抗癌剤や放射線を用いた治療が中心となります。現在、尿路癌に対して標準的な治療はゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法とされており、私達もこの治療法を軸に抗癌剤治療を行っています。しかし、その一方で、我々の今までの経験や海外を含めた他の施設の報告を基にして、それ以外の抗がん剤の使用や病態に合った選択を行っており、その成果は海外の論文にも掲載されています(業績を参照ください)。長崎大学病院泌尿器科では、標準的な治療法であるガイドラインを基にさらに新しく広い知識を加えながら、より個々の状態にあったベストの治療法を提供できるように努力しています。事実、そのような成果や世界的な趨勢について、昨年と今年だけで海外で出版される泌尿器科医師向けの英語の教科書3冊に執筆する機会を得ました。
長崎大学泌尿器科の特色:
 長崎大学病院泌尿器科では、「世界に向けて新たな、そして、患者さんに有益な情報を発信していく」という方針のもと、日常の診療は言うまでもなく、それに加えて様々な研究を行い、学会活動や論文執筆を通じて世界中に情報を発信しています。また、「日本で唯一」、「世界で初めて」という治療法の提案や確立も積極に行っており、尿路がんについても複数の新たな治療法を導入して実践しています。
 また、このような「最先端」な部分だけではなく、先に書きました「生活指導」や、地域の在宅医療ネットワークと当院の地域連携室の協力を得た「在宅外来化学療法」など、地域や患者さん、家族の方に密着した「やさしい医療」も心掛けています。実際、そのような試みや有用性が全国誌(がんナビ-日経メディカル)にも取り上げられました。
 泌尿器科は、その病気の特性から、診断から治療、そして、その後の経過観察までを一貫して行うという特徴があり、何よりもその事を長崎大学病院泌尿器科は大切なことと考えています。