患者さんへ

泌尿器の病気について:精巣腫瘍
1. 精巣とは

精巣(せいそう)は睾丸(こうがん)とも呼ばれ、男性の外陰部である陰のうの中にある卵形をした臓器で男性の内生殖器の1つです(図)。左右に1つずつあり、女性では卵巣にあたります。精巣には、2つの大切な働き、すなわち精子を造る役割と男性ホルモンを分泌する役割とがあり、それぞれ別の細胞によって行われています。精子を造るもとになるのが精母(せいぼ)細胞、男性ホルモンを産生するのがライディヒ細胞と呼ばれる細胞です。

精巣とは
2. 精巣腫瘍とは
精巣にある細胞から発生する腫瘍を、精巣腫瘍と呼びます。精巣腫瘍の多く(約95%)は、精母細胞から発生します。精母細胞のように生殖に直接関係のある細胞を生殖細胞あるいは胚(はい)細胞と呼ぶため、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。また、多くが悪性(がん)としての性格を持っています。

精巣腫瘍は、病理診断(顕微鏡で、細胞や組織の状態を詳しく観察して診断すること)と腫瘍マーカーの値によって、大きくセミノーマ(精上皮腫)とそれ以外の非セミノーマ(非精上皮腫)の2つに分類されます。この分類により、それぞれの病状や治療方針が異なります。

精巣腫瘍にかかる割合は10万人に1人程度とされ、比較的まれな腫瘍です。しかし、他の多くのがんと異なり、20歳代後半から30歳代にかけて発症のピークがあり、若年者に多い腫瘍であることが大きな特徴となります。詳しく年齢別にみると5歳以下(小児)と20歳代後半から30歳代にかけて2つのピークがあり、40歳未満の罹患が全罹患数の約3分の2を占めます。実際に20歳代から30歳代の男性では、最も患者さんの数が多い固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍)とされています。また、多くの場合でがんになる原因はよくわかっていませんが、精巣腫瘍にかかりやすい要因としては家族歴(家族に精巣腫瘍にかかった人がいる場合)、停留精巣(乳幼児期に精巣が陰のう内に納まっていない状態)があったこと、反対側の精巣に腫瘍があったことなどがあげられます。精巣腫瘍による死亡が、がんで亡くなる人全体に占める割合は0.1%未満と少なく、比較的予後のよいがんの部類に入ります。また日本人の罹患率は、男性100万人あたり、10~15人程度と欧州諸国に比較して少ないのですが、年々増加傾向にあります。
3. 症状
精巣腫瘍の主な症状は、片方の精巣が腫れて大きくなったり硬さが硬くなったりする変化です。しかし、多くの場合は痛みや発熱がないため、かなり進行しないと気付かないことも少なくありません。なんとなく気付いていても病気の起きる場所が陰部であることから遠慮をして病院の受診が遅れることもあります。また、精巣腫瘍は比較的短期間で転移を起こすことがあるため、転移によって起こる症状が先行して、そこからもともとの病気である精巣腫瘍が診断されることもあります。症状は転移した部位により異なります。例えば、腹部リンパ節への転移の場合では腹部のしこり・腹痛・腰痛などが、肺への転移の場合では息切れ・咳(せき)・血痰(けったん)などがみられます。
4. 診断
診察
最初に陰のう内の“しこり”について触診で確認します。腫瘍が小さいときには、腫瘍はやわらかい精巣の中に一部硬いしこりとして感じられます。腫瘍が大きくなり精巣内をほとんど占めるようになると、精巣全体そのものが硬いしこりとして触れます。また、陰嚢が大きくなるほかの病気として陰嚢水腫(すいしゅ)といい水がたまった状態を認めることがあります。しこりが腫瘍か水腫かを判断するためには、超音波(エコー)検査が有用です。

血液検査
腫瘍マーカーと呼ばれる腫瘍細胞がつくり出す物質を血液検査で調べます。精巣腫瘍の診断において重要な検査のひとつで、腫瘍の種類の判断や治療の際の目安にもなります。腫瘍マーカーとしては、AFP(αフェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)およびLDH(乳酸脱水素酵素)があります。

画像診断
腫瘍の性状や広がり、転移の有無を調べるために行われます。主に超音波検査では、精巣の内部を観察し、腫瘍の診断に役立てます。CT検査は、腫瘍の状態や周辺の臓器への広がりに加えて肺やリンパ節などへの転移の有無を調べることができます。その後の治療方針を決めるにあたっても非常に重要な検査となります。その他に必要に応じて、MRI検査や骨への腫瘍の広がりを調べる骨シンチグラフィーなどの検査も行われます。
5. 治療
精巣腫瘍は進行が速く、転移しやすいという特徴があります。そのため、精巣腫瘍が疑われる場合には、まずできるだけ早く病気のある側の精巣を摘出する手術(高位精巣摘除術)を行います。そして、摘除した腫瘍組織を顕微鏡で調べる病理診断を行い、これと同時に先ほど述べたCTなどの画像診断によって、腫瘍の種類と病期(腫瘍の進み具合)を決定します。この結果によってその後の治療方針と予後(病気や治療などの経過についての見通し)が異なってきます。下の図は、腫瘍の種類と病期、行われる治療との関係の概略を示したものです。その図の中に出てくる治療法についての説明を以下に追加します。

精巣腫瘍の診断・治療の流れ

1) 後腹膜リンパ節郭清術
  後腹膜リンパ節とは、おなかの中にある大血管(大動脈や大静脈)の周りにあるリンパ節です。精巣腫瘍はこのリンパ節に良く転移を起こすことが知られています。再発予防の意味で非セミノーマでは転移が無くともこの手術を行うことがありますが、多くは転移がある場合に次に述べる化学療法をまず行って、転移を小さくしてからこの部分のリンパ節とその周りの組織を取り除く手術を行うことがあります。この手術を後腹膜リンパ節郭清術といいます。特に化学療法後の後腹膜リンパ節郭清は難易度の高い手術の1つとされていますので、場合によっては症例数の多い専門病院で受けられることをお勧めします。当科ではこれまで多くの手術を手がけてきました。最近では症例によって腹腔鏡を使った低侵襲な手術にも取り組んでいます。

2) 化学療法
  化学療法とはいわゆる抗がん剤による治療のことをさします。明らかな転移のないI期でも、再発の可能性が高い場合や、転移のあるII期以上の精巣がんに対してこの化学療法が行われます。 精巣腫瘍の多くは化学療法が非常に良く効くとされ、転移のある進行したがんの場合でも、化学療法を中心とした集学的治療によりかなりの割合で根治が期待できます。化学療法では、通常数種類の作用の異なる抗がん剤を組み合わせて治療を行います。1回の治療が約2週間かかり、これを体力や副作用からの回復期間をはさんで3ないし4回行います。したがって、入院期間はある程度長くなることが通常です。約5%の患者さんで大きな転移のある非セミノーマの場合、通常の化学療法を含む集学的治療のみでは非常に治療に難渋する場合もあり、今後新しい抗がん剤やその他の薬剤の登場が待たれています。
最後に

精巣腫瘍は社会的に活動的な年代の男性に多いことから、異常を感じたら早めに専門医を受診しましょう。早い段階で診断・治療がうけることができれば、十分根治が可能ながんです。