ごあいさつ

ご挨拶と今後の抱負 教授:中尾一彦
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科消化器内科学分野 教授
(長崎大学医学部消化器内科学 教授)
長崎大学病院消化器内科 診療科長
中 尾 一 彦
 平成21年3月1日をもちまして長崎大学に消化器内科学教室が誕生いたしました。この新設は、「ナンバー内科制から臓器別内科へ」という長崎大学内科改革の賜物であります。これまで、長崎大学の消化器内科の診療・研究・教育は第一内科ならびに第二内科の消化器グループが分担して行ってきました。両グループは、それぞれ豊富な診療経験と研究実績があり、得意とする領域を持っています。このことは、新しい消化器内科にとって、貴重な財産であります。よって、これまでのknow-howを集結・協力することで、万全な消化器内科診療・研究・教育体制を構築できるものと確信しています。

以下に消化器内科学教室主任としての、これからの診療・教育・研究における抱負を述べます。


診療への抱負
1)消化器内科診療の重点領域
 私は、幅広い消化器内科診療の中でも慢性肝疾患診療、進行消化器癌に対する化学療法、胆膵疾患・消化管癌に対する内視鏡治療を消化器内科診療の3本柱と位置づけ、重点的に取組みたいと考えています。近年、抗ウイルス剤、抗癌剤、分子標的薬剤、生物学的製剤の進歩は目覚しく、内視鏡治療も確実、安全に施行できる方向へ進歩しています。よって、国内外の医療機関との交流を通して最新の診断、治療法の獲得を目指します。
2)横断的診療連携体制の構築
 消化器疾患は内科単独で対応できる疾患は少なく、消化器外科、放射線科、集中治療部、病理部、緩和医療チーム等との協力体制なくして診療を進めることはできません。私は、消化器疾患に関わる各診療科との横断的な診療連携体制をより充実したものにしたいと考えています。そのことが患者様の利益となり長崎大学の消化器診療の活性化に繋がると考えています。(すでに放射線科、外科、内科合同の食道癌カンファランス、肝癌カンファランスを始めました。)


教育への抱負
1)学部教育
 近年、医学生が学ぶ知識は増加し、シラバスも過密スケジュールとなり、講義も体系的、効率的なものに再編されました。内容も、個性的な講義(国家試験にあまり役立たないが夢を与えるような講義)から、知識優先的、網羅的講義へと変わってきています。勿論、網羅的医学知識は必要ですが、病態、鑑別、治療について、症例検討や実地問題を通して自ら考え、解決策を見いだす訓練を学部教育にもっと導入すべきと考えています。学生のハートを掴む様なインパクトのある教育を行い将来への夢を与えることが長崎大学へ研修医を残す第一歩と考えます。
2)卒後教育
 消化器内科総合医の育成を目標にします。入局後の後期研修~関連病院研修の期間(4~5年)を総合消化器内科育成期間に当てたいと考えています。大学に医員、大学院生として戻った後も総合医を目指すコースを継続させます。この間に、内視鏡診療、肝疾患、炎症性腸疾患、胆膵疾患、化学療法など消化器全般の診療を経験し、すべての消化器疾患にしっかりと対応でき、地域医療を担える消化器内科総合医を育成したいと考えています。このことが、各種専門医資格の取得にも直結すると考えています。
 一方で、腫瘍内科医、高度内視鏡治療医、移植消化器内科医など高次病院で指導者となれる専門医も養成したいと思います。スキルアップのための国内研修も積極的に進めたいと考えています。
3)大学院教育
 大学院教育の実質化が求められる中、大学院研究と専門医取得をどう両立させていくかが大きな課題です。学位よりも専門医取得を重視する傾向にある若い臨床医の研究へのモチベーションを高めるために、大学院教育・研究を彼らにとって魅力あるものとする必要があります。よって、臨床(症例)研究、トランスレーショナルリサーチ等、臨床にフィードバックできるような研究を促進すべきと思います。一方で、研修医教育の段階から不明な点や問題点を探求するリサーチマインドを持った臨床医を育てることも必要と考えます。「良い臨床医は良い研究者でもある」というのが私の持論です。


研究への抱負
臨床医学の進歩は、基礎医学における発見やブレークスルーの上に成立っています。すなわち「基礎医学なくして臨床医学なし」です。よって、基礎医学の先生方と積極的にコラボレーションし、臨床へのフィードバックを目指したトランスレーショナルレサーチを展開したいと考えています。
1)消化器癌研究
 消化器癌を研究の柱に据え、血管新生抑制療法、分子標的療法、免疫療法等、新しい消化器癌治療法の開発に向けた研究に力を入れたいと考えています。一方で、発癌や転移・浸潤に関する基礎研究、発癌危険因子、発癌・再発抑制に関する臨床研究も行いたいと考えています。
2)消化器疾患と個体差
 B型肝炎ウイルス感染一つをとっても疾患感受性や病態(重症度)には大きな個体差があります。消化器癌に対する薬剤反応性の研究はテーラーメード医療の発展にも繋がります。よって、分子生物学的手法を用いて消化器疾患における疾患感受性や病態の個体差に関する研究を展開したいと考えています。
3)生活習慣と消化器病
 生活習慣やメタボリックシンドロームと関連の深い非アルコール性脂肪性肝炎などの肝疾患や消化管疾患について、臨床研究を進めたいと考えています。
4)再生医療
 再生医療研究の進歩は目覚しく、骨髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞を用いた再生医療は最も臨床に近い所にあります。これら幹細胞を用い、肝再生、消化管粘膜再生を目指した研究に着手したいと考えています。



最後になりましたが、私は、研究、診療、教育の現場で若者のやる気に火をつけたいと考えています。そして、活気に溢れ、夢を語り合える、元気な教室作りを目指したいと思います。

平成21年3月1日