国内留学報告

国内留学報告:国立がん研究センター中央病院 留学記
藤富 真吾

 2010年10月から2011年3月までの半年間 国立がん研究センター中央病院 消化管内科で研修させていただきました藤富真吾です。まだまだ消化器内科としても医者としても未熟でありますが、がんセンターへの研修という貴重な機会を頂きましたので、その体験を研修前も含め記させていただきます。なお今後同院への研修を希望される方への参考として書かせていただく部分もあり、稚拙な文もあるかと存じますが御容赦いただければ幸いです。

 私が研修の御話を初めて本格的に伺ったのは、2009年消化器内科が独自の講座として設立された頃でした。日本のがん研究の中心施設であることに加え、それまでに本田先生や竹下先生、川口(旧姓:川本)先生といった錚々たる方たちが行かれており、また東京という大都市での生活も含め自分に務まるのだろうかと非常に不安を強く感じました。しかし、元々癌加療に対する興味があり、化学療法およびその適応、副作用への対処、御家族への対応など日本での癌治療最高峰の一つであるがんセンターでどのように行われているのかを、実際に見聞して知りたいという気持ちも強かったことから研修を受けさせて頂こうと決めました。

 まずは研修前の話からさせていただきます。実際に研修を受けるためには、まず募集確認から試験まで熟さなければなりません。募集要項は病院のホームページからの確認となりますが、募集は複数あり年度・期間も違うため自身のものを確認し、必要書類を揃えたのち期限までに提出となります。これらは当たり前のことですが、いざ揃えよう・提出しようという際にはすぐには揃わないものも多いため、日時も含め余裕をもって確認出来るようしておくと醜態を晒さずに済むかと思います。なお、私の時には応募人数の関係上筆記試験はなく面談となりました。形式は各チーフの先生方が並んで座られ、受験者が一人ずつ面接室に呼ばれる形式です。その際の質問は研修を希望した理由や専攻を考えている臓器などいわゆる一般的な面接の質問でしたが、元々緊張しやすい私は事前に考えていた内容など全て抜け落ち、何とか言葉を繋ぎながら返答しているような有様でした。それでも実際に癌治療最前線でどのように加療が行われ、そのためにどのようなシステムなどがあるかを実際に見聞し、それを持ち帰って地域医療に役立てたいという意志を伝え、幸いにも研修を受けることが出来ることとなりました(なお、実際に研修可能の御通知を頂くまで、研修できるのだろうかという不安と自分の醜態を思い出しては落ち込む日々が続いておりました・・・)。

 実際に研修が始まると、先生方の加療に対する熱意と知識に圧倒されることや、システムの点でも完成度の高さに驚くことが数多くありました。研修時の体制説明とともに、その内の幾つかを述べさせていただきます。
 まず。私の研修させていただいた消化管内科は、トップである消化器診療グループ長の島田安博先生を筆頭に5人のスタッフの先生方がいらっしゃり、その下にそれぞれレジデントと言われる先生方が付かれることで5つのグループが作られていました。私は主に下部消化管を担当される濱口哲弥先生の下でレジデントの高橋直樹先生とともに研修させていただきました。なお、レジデントとは言っても一般病院の研修医の先生方とは違い、卒後4~7年目前後の方たちであり、抗がん剤の作用機序や適応、副作用への対処などに対する知識は膨大なものを持たれていました。さらに、プロトコルに関してもスタッフの先生方と立案・構築し、生のデータの統計・編集もされていました。これらはいずれも大学などでもされていることであり、取り立てて言うほどのことでもないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本全国で為されているもの・今後標準療法となるかもしれないものに同期前後の方たちが関わられているということは刺激になりました。また、私自身は半年という限られた期間内であったため消化管内科で集中的に研修させていただきましたが、がんセンター所属レジデントの先生方は他の科も研修されており、実際に使用した経験からの知識を教えて頂く機会もありました。
 システムとしては色々考えさせられたものがありますが、特に印象的だったものを2つ述べさせていただきます。一つは抗がん剤の入力システムです。電子カルテに完全移行していることもあり、入院時または施行近日に入力されている身長・体重から体表面積計算されており、プロトコル毎に前後の輸液・内服薬まで含め一つの単位とされてものを選択すると、必要量が自動で表示されていました。細かい単位に関しては切り捨てで整数化して入力し直したりしていましたが、選択プロトコルを間違えなければ、明らかに異なる薬剤投与量が為されることを防ぐことが出来るものでした。もちろんそれに加え調剤時および投与時にも確認が行われ、過量・過少投与防止が為されていました。抗がん剤は副作用が大きいものが多く、前後の輸液・内服も必要なものが多いため、院内投与方針の一元化含め非常に役立つシステムと考えました。もう一つは、カンファレンスについてです。これは病院毎の実情もあるかとは存じますが、がんセンターにおいては内科・外科・放射線科などが合同で行う機会が週毎に定期的にありました。診断から手術・術前術後化学療法といった治療に加え、その後の経過まで報告が行われることで、一貫した病態把握やより積極的な治療方針の提案などが為されていました。癌治療は特に様々な科が関わることが必要なものであり、他科と情報を共有することは自身の病態へのより深い理解に繋がるといった点とともに、他科の先生方とより同一の方向性を持つことでよりスムーズな加療が可能になるように感じました。
 一日の流れとしては、他病院と大きくは変わらないかと思います。朝、一旦スタッフの先生とともに担当の方の回診、その日の方針の打ち合わせなどを行った後、スタッフの先生方が外来をされている間に病棟業務を行い外来終了後に再度回診やカンファレンスがあるといった形が一般的でした。ただし、他病院と違っていた点として薬剤師の方が回診時に同行されていました。病棟担当の方がいらっしゃることはありましたが、日毎の回診にも付かれていたことで情報を共有し、診察後必要時にすぐ必要薬剤や減量につき相談することが出来たことは非常に心強いことでした。

 以上、連々と書き連ねさせて頂きました。小心者であり、赴任当初は非常に不安が強かったのですが、スタッフの先生方に非常に丁寧に御指導いただき、レジデントの先生方とも昼食を御一緒したり、治療方針につき話しあったりしているうちに、気付けば不安は消え去り研修に専念できるようになっていました。特にグループに付かせて頂いた濱口先生には、様々な御指導をいただきました。先生方の御助力により充実した期間を過ごし、今後の糧と出来たことは非常な幸いだったと思います。また、このような機会を与えてくださいました中尾一彦教授、市川辰樹准教授はじめ、研修前に色々と相談させていただきました先任の先生方や激励いただいた消化器内科の先生方に厚く御礼申し上げます。

 最後に今後研修・留学を考えてみようかなという方へ。百聞は一見に如かずと言われますが、国立がんセンターにしても私が研修前に抱いていたイメージとは違いました。各分野がありますが、その最高峰と言われる場所を実際に体験することは非常に身になりますし、刺激にもなります。拙文ですが、迷われている方の参考となれば幸いです。