国内留学報告

国内留学報告:留学体験記 ~北の国から~
小松 直広

 平成21年卒の小松です。皆様ご無沙汰しています。
 研修医の1年間長崎大学病院に勤務しましたが、入局してからは各地を転々としていました。そして今は長崎から国内で最も遠いであろう北海道札幌市に来ています。北海道と言えば、雪が多い、寒いなどを想像される方も多いかと思われますが、その通りで非常に寒いです。真冬の時期は経験したこともないような寒さ・吹雪の中歩いて通勤しています。あと冬靴なるものが必須です。路面は凍結してしまい、スケートリンクのうようにツルツル滑ります。何度も転びそうになりました。また初めてスタッドレスタイヤを装着しましたが、結局のところ怖くて冬の時期はほとんど運転しませんでした。どうしても必要な時はタクシーに乗っていましたが、タクシーは凍結した路面でも結構なスピードで走行します。こちらはヒヤヒヤしているのですが、何度スリップしてもお構いなしです。実際に住んでみると、このようなマイナス面は少なからずありますが、食べ物は美味しくて、長崎とは違った味覚が楽しめます。観光地もたくさんあります。それに夏は涼しくて非常に過ごしやすいです(ちなみに梅雨はありません)。札幌市に住んで1年2ヵ月が経ちましたが、思った以上に住みやすくて私はこの地が好きになりました。
 前置きが長くなりましたが、私は今札幌市にある手稲渓仁会病院 消化器病センターで研修をしています。手稲区は札幌駅から電車で10分くらいのところに位置しています。手稲渓仁会病院と言えば、胆膵領域で有名な真口 宏介先生がセンター長を務められている病院です。胆膵内視鏡医を志す者であれば、真口先生の名前を聞いたことがない人はいないかと思います。もちろん北海道でも非常に有名な先生なので、各地から多くの紹介患者が受診されます。かなり遠方から来られる方もいて驚かされます。車で6時間運転してきたり、飛行機に乗ってきたりといった方も稀ではありません。そのおかげで北海道の地理が少しずつ分かるようになってきました。初めは「稚内から来ました」と言われても「?」でしたが、今では「かなり遠いところから来られたのですね」といった言葉も掛けられるようになりました。あと先程の「稚内」の読み方はご存じでしょうか。「わっかない」と読みます。これはご存じの方も多いかと思われますが、「倶知安」、「長万部」、「留萌」はどうでしょうか。少なくとも私は分かりませんでした。実は「くっちゃん」、「おしゃまんべ」、「るもい」です。この他にもたくさん読めない地名があって、なかなか苦労させられます。
 話を戻しますが、真口先生と初めてお会いしたのは、私が消化器内科に入局したばかりの頃で、当時私は諫早に勤務していました。真口先生が佐世保に講演に来られるということで、仕事が終わってからすぐに上司とともに佐世保に向かったことを今でも覚えています。この講演を聴いて、真口先生のもとで勉強したいという強い気持ちが沸き上がってきました。そして2014年4月に1週間の見学の機会を得ました。この1週間の見学で今まで経験したこともないような症例やその数の多さに圧倒されました。症例検討会(CPC)も毎週開催されており、1例につき1時間以上かけて討論します。その真剣さに触れて、ここで勉強したいという気持ちがさらに強くなっていきました。その気持ちが通じたのか、中尾教授をはじめ先生方のお力添えもあって2015年4月より3年間手稲渓仁会病院で研修させていただくこととなりました。
 消化器病センターには胆膵チーム:11名、消化管チーム:9名、肝臓チーム:7名の計3チーム27名が在籍しています。初めの1年間は消化管チームに所属していました。現在は9名ですが、私がいた頃は7名でした。消化管チームは各病院(佐久総合病院、秋田赤十字病院、仙台厚生病院)で研修経験のある上級医3名をはじめとして私のようなレジデントが4名いました。午前中は上部消化管内視鏡検査、外来、回診を行い、午後からは下部消化管内視鏡検査やEMR、ESDなどの内視鏡治療を行っています。ESDは難しい症例のみ上級医が施行しますが、その他のESD症例はレジデントで均等に分けて担当します。上級医1名の指導のもとESDを施行しています。当院ではHookKnife、DualKnife、FlushKnife、IT-2Knifeなど様々なデバイスが使用可能で、2015年11月頃からは送水機能付きのHookKnifeJ、DualKnifeJも早々に使用開始しました。また全症例の動画をパソコンに保存していますので、いつでも復習することが可能です。数えてみますと、1年間で私が施行したESDは食道:5例、胃:21例、大腸:17例の計43例でした。またESD標本はホルマリン固定後に実体顕微鏡で再度写真を撮影し、病理との対比を行います。この対比を通じて拡大内視鏡観察と病理との距離が縮まり、内視鏡から病理をイメージすることの大切さを学びました。さらに早期胃癌研究会やその他研究会にも積極的に参加させていただきました。2016年5月に開催された内視鏡学会総会では口演もできて非常に充実した1年間でした。
 そして2016年4月から胆膵チームに異動となりました。当センターはチームごとに担当疾患は完全に分担されています。これには賛否両論あるかと思いますが、2年間も胆膵領域に集中できるというのは非常に貴重な時間だと感じています。私の1週間のスケジュールは、(月)EUS、(火)上部消化管内視鏡検査、(水)EUS、(木)外来、(金)回診です。午後からはERCPやEUS-FNAなどの処置を毎日行っています。1年間(2014年4月~2015年3月)に当センターで施行したEUSは1065例(ラジアル:709例、コンベックス:356例)、ERCP関連手技は1049例でした。特にラジアルの数は全国的に見ても多いのではないかと思います。1例につき45分~60分程度の時間をかけて詳細に観察しています。まずはレジデントが観察を行い、足りない箇所や観察困難であった場合に上級医が実施しています。
 透視室は中央のコントロールルームと左右の処置室で構成されています。患者の入退室が非常にスムーズですので、午後からの処置が10件以上あっても18時頃までには概ね終わっています。処置が終わった後はチームカンファレンスを行っています。その他、毎週水曜日には1時間半ほど英会話の授業があり、木曜日には18時~21時までCPCが開かれています。CPCには消化器内科医、消化器外科医、放射線科医、病理医、超音波技師といった他職種のスタッフが集まり、毎回活発な討論を繰り広げています。非常にマニアックな領域を掘り下げてとことん突き詰めていきます。様々な症例を通じて診断能力を身につけられるようになっています。
 また当センターはJCOGをはじめとした多施設共同の前向きStudyや治験にも多数参加しており、臨床試験の大切や難しさが少しずつ分かるようになりました。いかにしてエビデンスが作られるのか、それを近くで感じることができる貴重な経験だと思います。さらに驚いたのが、学会や研究会などの発表の多さです。基本的に私のようなレジデントは常に2-3件ほどデータ整理や抄録、発表準備、論文作成を掛け持ちしています。それに加えて毎週のCPCの準備があります。みんな毎日夜遅くまで、パソコンと向き合っています。それでも同じ志をもった仲間がいるおかげで、大変ですが楽しんで仕事ができています。
 余談にはなりますが、真口先生は大のゴルフ好きです。先生の勧めで私も最近になってゴルフを始めました。時間を見つけては練習場に通っています。真口先生と一緒に練習場に行って教えてもらったりもしています(時にはEUSよりも熱のこもった指導も・・・)。先日真口先生と初ラウンドに行ってきましたが、天候も良くてとても楽しい思い出に残るラウンドでした。
 このように公私ともに忙しくも充実した毎日を送っています。長崎に戻った際にはここで勉強したことを少しでも生かせるように努力してまいりたいと思います。最後になりましたが、3年間と長期間の留学を許していただいた中尾教授をはじめ、医局の皆様に厚く御礼を申し上げます。