国内留学報告

国内留学報告:国内留学体験記
小松 直広

 平成21年卒の小松と申します。この度、北海道の手稲渓仁会病院への国内留学を修了し、長崎に戻ってまいりましたので、留学報告をさせていただきたいと思います。
 私が長崎大学病院に勤務したのは研修医1年目の年で、消化器内科に入局してからは各地を転々としておりました。佐世保、諫早、佐賀、五島を経て、卒後7~9年目の3年間を手稲渓仁会病院で研修を行いました。
 まず手稲という街がどこにあるかご存知でしょうか。手稲は札幌市内にあり、札幌と小樽の中間地点に位置しています。札幌駅から電車で10分ほどの距離で、比較的利便性の高い地域です。手稲駅の北口を出てすぐに手稲渓仁会病院が見えてきます。手稲渓仁会病院の病床数は670床で、そのうち消化器内科の入院患者数は90人前後です。なかでも胆膵疾患患者が最も多く、50~60人程度を占めています。手稲渓仁会病院といえば、胆膵疾患で有名な真口 宏介先生が平成30年3月までセンター長を務められた病院です。真口先生が退任されて、平成30年4月からは潟沼 朗生先生がセンター長に就任されました。
 話は変わりますが、私が真口先生と初めてお会いしたのは、消化器内科に入局したばかりの頃で、当時諫早総合病院に勤務していました。真口先生が佐世保に講演に来られるということで、仕事が終わってからすぐに上司とともに佐世保に向かったことを今でも覚えています。この講演を聴いて、真口先生のもとで勉強したいという強い気持ちが沸き上がってきました。そして平成26年4月に1週間の見学の機会を得ました。この1週間の見学で今まで経験したこともないような症例やその数の多さに圧倒されました。症例検討会(CPC)も毎週開催されており、1例につき1時間以上かけて討論します。その真剣さに触れて、ここで勉強したいという気持ちがさらに強くなっていきました。その気持ちが通じたのか、中尾教授をはじめ先生方のお力添えもあって平成27年4月より3年間手稲渓仁会病院で研修させていただくこととなりました。
 手稲渓仁会病院消化器病センターは胆膵チーム、消化管チーム、肝臓チームと3つのチームに分かれています。年度ごとに多少増減はしますが、およそ26~8名ほど在籍しており、そのうち半分は胆膵チームに所属しています。私は最初の1年間を消化管チームに、その後2年間を胆膵チームに所属しました。
 消化管チームには各病院(佐久総合病院、秋田赤十字病院、仙台厚生病院)で研修経験のある上級医3名をはじめとして私のようなレジデントが4名いました。因みに上級医の2名は「上部消化管内視鏡診断マル秘ノート」の著者でもあります。興味深い本ですので、手に取って読んでみてください。小技や豆知識も大変参考になります。午前中は上部消化管内視鏡検査、外来、回診を行い、午後からは下部消化管内視鏡検査やEMR、ESDなどの内視鏡治療を行っています。ESDは難しい症例は上級医が施行する場合もありますが、その他の症例はレジデントで均等に分けて担当します。上級医1名の指導のもとESDを施行しています。当院ではHookKnife、DualKnife、FlushKnife、IT-2Knifeなど様々なデバイスが使用可能で、2015年11月頃からは送水機能付きのHookKnifeJ、DualKnifeJも早々に使用開始しました。また全症例の動画をパソコンに保存していますので、いつでも復習することが可能です。数えてみますと、私が施行したESDは食道:5例、胃:22例、大腸:20例の計47例でした。またESD標本はホルマリン固定後にピオクタニン染色を加え、実体顕微鏡で再度写真を撮影し、病理との対比を行います。この対比を通じて拡大内視鏡観察と病理との距離が縮まり、内視鏡から病理をイメージすることの大切さを学びました。さらに早期胃癌研究会やその他研究会にも積極的に参加させていただきました。2016年5月の消化器内視鏡学会では発表もできて非常に充実した1年間でした。
 そして2016年4月から胆膵チームに異動となりました。2年間は胆膵疾患のみに集中でき、非常に貴重な時間であったと感じています。私の午前中1週間のスケジュールは、(月)EUS、(火)EUS、(水)回診、(木)外来、(金)上部消化管内視鏡検査でした。午後からはERCPやEUS-FNAなどの処置を毎日行っています。1年間(2014年4月~2015年3月)に当センターで施行したEUSは1065例(ラジアル型:709例、コンベックス型:356例)、ERCP関連手技は1049例でした。特にラジアルの数は全国的に見ても多いのではないかと思います。1例につき30~40分程度の時間をかけて詳細に観察しています。まずはレジデントが観察を行い、足りない箇所や観察困難であった場合に上級医が施行しています。研修するまで一度もラジアル型EUSに触れたことがなかった私ですが、ほぼ毎日のように見ていると自然とイメージが出来上がっていきました。また実際に自分の手で手技を繰り返すことで、胆管や胆嚢をきれいに長軸で描出し、胆嚢管の合流部を観察することができるようになりました。さらに乳頭部腫瘍の診断のためのテクニックなどステップアップしていきました。
 透視室は中央のコントロールルームと左右の処置室で構成され、透視システムはUltimax-iを使用しています。午後からの処置は平均7~8件程度ありますが、10件以上になることも稀ではありません。2年間で私が施行した処置は、観察EUS:244例、EUS-FNA:49例、ERCP関連手技:267例でした。
 処置が終わった後はチームカンファレンスを行っています。その他、毎週水曜日には1時間半ほど英会話の授業があり、木曜日には18時~21時までCPCが開かれています。CPCには消化器内科医、消化器外科医、放射線科医、病理医、超音波技師といった多職種のスタッフが集まり、毎回活発な討論を行っています。様々な症例を通じて診断能力を身につけられるようになっています。
 また、学会発表にも力を入れており、レジデントは常に2-3件ほどデータ整理や抄録、発表準備、論文・依頼原稿の作成を掛け持ちしています。それに加えてほぼ毎週のようにCPCがあります。私が胆膵チームで発表した学会・研究会は、消化器病学会、消化器内視鏡学会、膵臓学会、胆道学会、JDDW、APDW、KDDW、地方会4回、臨床消化器病研究会になります。なかでも主題の発表ができた経験は非常に大きく、自信となっています。さらに施設を代表して発表するということの責任を実感しました。地方会では「遠位胆管癌の術後再発と切除肝側胆管断端」で奨励賞、KDDWでは「Evaluation of Soft Tissue around Superior Mesenteric Artery on Computed Tomography to Diagnose Extrapancreatic Nerve Plexus Invasion in Pancreas Head Cancer」でTravel Grant Awardをいただきました。また「胆と膵」など3つの雑誌にも寄稿できたことは、当センターの先生方にとても感謝しております。
 また手稲渓仁会病院はインドのバンガロールにあるSakra World Hospitalとも関連があります。その関係もあって、2018年2月に内視鏡治療のデモンストレーションのため、インドに渡航する機会をいただきました。1週間と短い期間ではありましたが、胃ESD 1例、大腸ESD 2例を施行することができました。インドではESDを施行できる医師は4名しかおらず、しかも全員が外科医のようです。処置中は内科医のみならず、研修医や外科医も見学に来られていて、ESDが世界的に注目されている手技であることを肌で実感しました。
 まだまだ書ききれないこともありますが、概ね3年間で自分が経験したことを書いてみました。2018年4月から久しぶり長崎に戻り、現在は長崎大学病院 消化器内科の一員として働き始めたところです。不慣れなこともありますが、これからは手稲渓仁会病院で学んだことを長崎のために少しでも生かせるように努力してまいりたいと思います。最後になりましたが、3年間と長期間の留学を許していただいた中尾教授をはじめ、医局の皆様に厚く御礼を申し上げます。