海外留学報告

海外留学報告:メイヨークリニック研究留学体験記
中尾 康彦

 2018年9月よりアメリカ、ミネソタ州にありますメイヨークリニックに留学させて頂いております。メイヨークリニックはロチェスターという冬は-20度の極寒になる小さな田舎町にあります。メイヨー日本人会という日本人留学生の集まりもあり、日々助け合いながら留学生活を送っております。まず、これまでの9ヶ月間の私の失敗経験をご紹介したいと思います。


1.英語の壁渡米当初はカンファレンスでの英語が1割程度しか聞き取れませんでした。また、共同研究者とのディスカッションに30枚近くスライドを準備して望みましたが、結果1枚のスライドに議論が白熱し、1時間を使い切るという機会がありました。準備の仕方を工夫した方がいいことに気付かされました。
2.体調を崩しメイヨーを受診渡米後3ヶ月が経過し、ようやく最初の実験が起動に乗り始めた頃、少しでも早く結果が欲しいという焦りから、朝5時半から夕方6時頃まで時間依存な働き方をしていました。ミネソタの厳しい寒さの影響もあり、風邪を引いた勢いでヘルペスの再活性化をおこし、私がメイヨークリニックを受診するという自体になりました。

 この他にも多くの失敗を経験しましたが、これらの失敗から学び、いくつか小さな習慣を始めました。1、アメリカにいるだけでは英語能力は向上しないことに気付き、毎日少しでも同僚に話しかけることを始めました。また、ディスカッションの現場ではなるべく録音をして、後で何回も聴き直して、自分がやるべきこと、何を指摘されたのかを明確にする習慣をつけました。2、時間依存ではなく、集中してなるべく短時間で仕事を終わらせる工夫を始めました。3、毎回失敗した自分を責めることをやめました。挑戦しなければ失敗はなく、失敗した自分を許して次ぎに進む準備をすることが大切と学びました。

 現在私が携わっているプロジェクトについてご紹介いたします。私が所属するハルミート先生のラボはNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)やアルコール性脂肪肝の肝細胞やマクロファージの小胞体ストレスと細胞外小胞(エクソソーム)についての研究を7人のメンバーで行っております。メンバーはインド、中国、韓国、アメリカ人のアジア圏よりのラボになります。毎週一回のミーティングでデータを提示し、指示をもらうスケジュールで実験を行っております。私のプロジェクトは現在6つあり、NASHの新規バイオマーカーを開発することが目的です。メインはNASHモデルマウス肝細胞株からのエクソソームを抽出し、質量分析およびデータ解析を行っています。最終的にヒトNASH血清で同様の実験を行う予定です。特に質量分析に適したエクソソーム抽出方法の開発の際にはメイヨー内の別ラボの共同研究者にも恵まれ、お互いにできる技術を提供しあうことの大切さを学びました。その他にもRNA-Seqおよびリピドミクス等の解析に取り組んでおります。バイオインフォマティクスのデータ解析にはプログラミング言語のR言語やPython言語が有用なこともあり、ヒートマップや主成分解析、tSNE解析といったdata visualizationの基本的なテクニックを学んでいます。近年エクソソームは細胞間コミュニケーションツールとして注目されてきており、エクソソーム内のある特定の蛋白群がNASHにおいてどんなトピックを示しているかを明瞭化し早期診断に繋げたいと考えております。また、マウスのTail injectionや初代培養肝細胞精製、骨髄からのマクロファージ培養等のテクニック等を勉強中です。

 私生活ではメイヨー日本人会という日本人の集まりに渡米当初から助けて頂きました。特に体調を崩してからは健康のために日本人の筋トレ部に所属しました。始めた当初はベンチプレス20kgの棒ですら厳しかったですが、現在Max80kgまであげることができるようになり、仲間と習慣の大切さを実感しております。また、メイヨー日本人会の幹事の仕事では日本全国からメイヨーに新しく来られる先生方との交流を通して、日々いい刺激を頂き、人と人とのつながりの大切さを学んでおります。

 最後に、極寒の冬もむしろリサーチに集中する上では最高の環境であり、このような貴重な機会を頂いた長崎大学消化器内科の全ての方々に心から感謝申し上げます。これからも長崎に持ち帰るものが筋肉だけにならないように精進いたします。