国内留学報告

国内留学報告:国内留学体験記 -国立がん研究センター中央病院-
大石 敬之

 平成27年4月から1年間国立がん研究センター中央病院へ国内留学させていただきましたのでご報告いたします。
私は平成21年卒業の大石敬之と申します。関連病院にて消化器内科医として診療に従事する中で、進行消化器癌患者さんを担当する機会が多々あり、きちんとした治療ができているか悩むことが多くありました。そのような中で深く化学療法について学びたいという思いが強くなり、国立がん研究センター中央病院への国内留学を希望しました。また、化学療法はそれぞれの患者さんの生活の上に成り立つものであり、長崎県内もそれぞれの地域に化学療法を専門に行う消化器内科医がいればと考えたのも、私が化学療法班に入った理由のひとつです。
 国立がん研究センターは国立高度専門医療センターの6法人の中のひとつであり、がんに関する高度かつ専門的な研究、診療、教育、施策提言を目的とし、東京都中央区築地にある中央病院と千葉県柏市にある東病院、それぞれに付属する研究所を中心に構成されています。また、センター内には日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の運営事務局やデータセンターもあり、さまざまな臨床試験や治験を主導していることも特徴のひとつです。がんセンターには40年以上前からレジデント制度があり、がんに対する専門的な治療、研究の研修のため、全国各地から多くの若手医師が集まります。研修医が終わった3年目から10年目以上と経歴はさまざまで、私のように医局に所属しているものもいれば、市中病院で後期研修を終えたもの、なかには海外留学を終えレジデントに応募したものもいました。
 私は肝胆膵内科7か月、ICU1か月(duty)、消化管内科4か月とローテーションし、消化器癌の化学療法について勉強させていただきました。レジデントは基本的には入院患者を担当し、その中で標準治療や合併症の管理、治験や臨床研究対象患者のマネージメントを学びます。私も胆管がんに対するFGF4阻害薬のFirst-in-Human試験や、現在国内外で盛んに開発が行われている免疫チェックポイント阻害薬の第Ⅲ相試験なども担当させていただきました。肝胆膵内科では肝細胞がん32例、胆管がん17例、膵がん41例、膵神経内分泌腫瘍21例、消化管内科では食道がん50例、胃がん60例、大腸がん32例、虫垂がん4例、消化管内分泌腫瘍6例と、一般病院の数年分の症例を短期間で集中的に経験することができました。また、多くの臨床試験や治験の症例を担当することで、現在の標準治療がどのように確立されてきたのかということを、身をもって学ぶことができました。また、消化器癌の化学療法の分野の第一人者といわれる先生方と身近に接することで、がん診療に対する情熱や考え方に触れることができたことは、これからがん患者さんの治療を行っていく上でとても大切な指標になったと思います。
 病棟業務以外でも原稿執筆の機会をいただき、「切除不能進行膵癌に対する化学療法の進歩」(腫瘍内科 17(2):185-191,2016)、「胃癌の分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の開発の現状」(医学のあゆみ 258巻5号)についてまとめさせていただきました。もちろんこれまで原稿など書いたことはなく、指導医の先生方から多くの手直しをいただきながら進めていきましたが、多くの参考文献を読むことで自分の中での知識の整理にも役立ち、とても良い経験となりました。また、学会発表についても「当科における膵神経内分泌腫瘍に対するStreptozocinの使用経験」を第3回神経内分泌腫瘍研究会学術集会で発表させていただきました。このときは半年ぶりに大学病院の本田琢也先生にお会いすることができました。また、消化管内科では「局所限局型食道原発神経内分泌癌に対する化学放射線療法の治療成績の検討」を行い、第4回神経内分泌腫瘍研究会学術集会での発表を予定しています。いずれも後ろ向き研究であり、昔の紙カルテを見返す中で、日ごろのカルテ記載がいかに大事かということに気づかされました。
 最初はよそよそしかったレジデント同士も、研修がすすむにつれて打ち解けてきて、助け合い、励まし合い、時には競い合いながら診療、研究に励んでいました。レジデント勉強会なども多くあり、熱心で積極的に仕事に取り組む彼らにとても刺激を受けました。また、仕事以外でもレジデント仲間と朝4時から築地市場の寿司屋に並んだり、膵がん撲滅のチャリティマラソンに参加したり、屋形船に乗って隅田川・東京湾クルーズをしたりと、多くの楽しい思い出を作ることができ、志を同じくする仲間と出会えたことは、私にとって大きな財産となりました。
 がんセンターに行って最も強く感じたことは、人と人のつながりの大切さでした。そして、そのもととなる信頼は、与えられた仕事を丁寧にきちんとこなしていくことでしか得られないということでした。また、情熱をもって仕事にあたれば、誰かが賛同し協力してくれるということも感じました。研修終了間近の3月、指導医から「長崎に帰ったら、どんな小さなことでもいいから学会などで情報を発信するように。そうすれば、必ず誰かが見てくれているから。もちろん僕も見てるよ(ニヤリ)。」と言葉をかけていただきました。意外と引っ込み思案な自分としては内心どきっとしたのと同時に、とても心に残る言葉となりました。
 この4月からは長崎大学病院消化器内科に帰局し、化学療法を中心に診療させていただいています。患者さんにエビデンスに基づいた治療内容の説明と、きちんとした標準治療を提供するのはもちろんのこと、臨床試験や治験にも積極的に参加し、新しい治療の開発にも携われたらと考えています。
 最後になりましたが、今回このような貴重な機会を与えていただきました中尾教授、化学療法グループの塩澤先生、本田先生、竹下先生、また医局の先生方に、誌面をお借りして厚くお礼申し上げます。今回得られた経験を生かし、長崎県の消化器がん診療に少しでもお役に立てるよう努力してまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。