私は2017年6月よりアメリカ・ミシガン州にあるミシガン大学へ留学しています。
　ミシガン大学は臨床・研究ともに非常に盛んで、特に消化器領域だけで150名以上の臨床医(消化器内科医)と200名以上の研究者が所属するアメリカ国内でも屈指の研究医療機関です。基礎研究は私が勤めるBSRB(Biomedical Science Research Building)とMSRB(Medical Science Research Building)という2つの大きな研究専門施設を有し、様々な領域で多くの研究者が日夜研究に没頭しています。
　まずはじめに、私の所属するラボと研究内容を紹介します。ラボメンバーはPIのNataliya、テクニシャンのNureenと私の3人だけですが、オープンラボということもあり、隣のラボと共同研究を行ったり、実験機材を共有しながら和気あいあいとした雰囲気で実験をしています。メンバーが少ないので、マウスの世話からin vitroまで幅広く担当し、朝早くから夜中まで実験をすることもあります。恥ずかしながら、実はこれまで研究経験がほとんどなく、留学直前にバタバタと実験手技の練習をした程度でした。当初はかなり迷惑をかけたと思いますが、基本的な手技から実験計画の立て方まで丁寧に教えてもらいながら、ようやく少しずつ結果を出すことができています。私たちは胆管炎における組織修復・再生メカニズム解明をメインテーマとしており、そのうち私は主に胆管organoidを用いた組織修復・再生に関わるHH signaling および Wnt signalingメカニズムの解析と胆管障害マウスモデルの作製を担当しています。うまくいかないことのほうが多いですが、苦労の末に一枚のスライドができたときの喜びは何にも代えがたいものはあります。また、週に一度の合同ラボミーティングでは、実験の進捗はもちろん、スライドレイアウトや説明の仕方など基本的なところも指導していただき、毎回非常に教育的で濃厚なミーティングです。発表前日は徹夜覚悟でスライドを仕上げますが、いつも打ちのめされてしまいます。それでも最近、「研究者らしい考え方ができるようになったね」と言われたことが嬉しかったです。
　続いてアメリカでの生活について紹介します。ミシガン州はアメリカ北中部に位置し、五大湖に囲まれた自然豊かな土地です。冬は大半が氷点下で時には-20℃以下になる日もある過酷な気候ですが、短い夏を利用しミシガン湖や国立公園などで多くのアクティビティを楽しんでいます。また、ミシガン東部には危険な街として名高いデトロイトがあります。しかしデトロイトはアメリカ4大メジャースポーツ(NFL,MLB,NBA,NHL)の本拠地が数ブロック内に集中している珍しい場所でもあり、スポーツ観戦にはもってこいです。私が住んでいるアナーバーは、デトロイトから西に車で40分ほど離れた人口12万人ほどの小さな街で、そのほとんどがミシガン大学関係者といういわゆるCollage cityです。特に大学フットボールが有名で、全米最大の大学フットボール専用スタジアム(Michigan Stadium)を要し、試合には人口に匹敵する11万人近い観客が入りクレイジーな盛り上がりを見せています。海外からの留学生も多く、様々な国の文化に触れ、世界中の料理が味わえるのも魅力の一つです。もちろん日本人研究者も多く、様々な分野で研究する人と出会い、研究に対するいろんな考え方を知ることができ、大変刺激を受けています。この他にも25年以上の歴史がある日本人会(ミシガン金曜会)もあり、研究会やBBQ、新年会などのイベントで300人以上の日本人留学者たちと定期的に交流を行っています。縁あって今年度から幹事を務めることになり、スタッフとして関われることをうれしく思っています。もちろん衣食住とも日本とは大きく違うため慣れるまでは苦労もあり大変でしたが、家族や友人など多くの人の助けを借りながら今日まで元気に過ごしています。今ではいい意味で大雑把なこの国の文化にも慣れ、逆に居心地の良さも感じています。休日は家族や友人と旅行に出かけたり、趣味のマラソンやサッカーで汗を流したりと大変充実した日々を過ごすことができています。
　初めに留学の話を聞いた時には、臨床を離れることに若干の迷いと不安はありましたが、二度とないチャンスだと思い、あまり長く考えずに決断した記憶があります。あっという間の1年でしたが、多くの経験を積むことができ、広い視野と柔軟な考えを持って課題に取り組みながら、アメリカンライフを満喫したいと思います。最後になりますが、留学中も多々アドバイスをいただいている中尾教授や赤澤先生、そして多忙な中快く送り出してくださった医局の先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。成長した姿をみせれるように精進してまいりますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。