LAC参考文献


社団法人日本実験動物協会が発行する日動協会報 No.71に載ったものを許可を得て掲載しています。

米国「実験動物の管理と使用に関する指針」

1996年改訂版に寄せて

目 次

はじめに            本会実験動物福祉小委員会委員長 前島一淑
「実験動物 管理と使用の指針」解説
改訂の経緯             ノバルティス・ファーマ筑波研究所 鍵山直子
研究者の責任            長崎大学医学部附属動物実験施設 佐藤 浩
獣医学的管理           大阪大学医学部附属動物実験施設 黒沢 努
ケージサイズ      (財)東京都老人総合研究所・実験動物部門 朱宮正剛



はじめに

本会実験動物福祉小委員会委員長 前島一淑



「実験動物 管理と使用の指針」解説 改訂の経緯

ノバルティス・ファーマ筑波研究所 鍵山直子



「実験動物 管理と使用の指針」解説 研究者の責任

長崎大学医学部附属動物実験施設 佐藤 浩

はじめに
 近着の ILAR Journal (Vol. 30(1): 41-48, 1997)によると、“ガイド”は1963年に最初に発行されて以来、1965、1968、1972、1978、そして1985年と改訂を続け、この間、すでに 40万部以上が配布され広く受け入れられているという。また、今回の改訂で研究者が関係する ─研究機関の基本方針と責任 (Institutional Policies and Responsibilities)─ の章関係としては、以前にも増して各研究機関の責任を強調している点が挙げられ、特に動物管理使用委員会 (IACUC)の機能強化と機能拡大、及び職場での健康と安全管理に関するプログラムの遂行を強くうたっているとのことである。 IACUCの重要な機能の一つである計画書審査 (protocol review)にあたり、今回の改訂で特に考慮すべき事柄として、肉体的拘束と、頻回の深部到達外科的手術にも拡げていることを指摘していて、希少動物種の使用の際にも可能とはいえ、十分留意すべしと指摘している。また給餌・給水制限の項目も新たに追加されている。以下本章を紹介する。本章は次の4大項目に分かれており、第1 動物管理と使用の監視、第2 獣医学的管理、第3 職員の資格と訓練、第4 職員の職場での健康と安全管理 ─である。

第1 動物の管理と使用の監視 (Monitoring the Care and Use of Animals)

 1) 研究機関の動物管理使用委員会 (Institutional Animal Care and Use Committee)
 各研究機関では責任のある管理職員が、“委員会”と略される動物管理使用委員会 (IACUC) を任命しなければならないこと。そして IACUCは各研究機関の動物プログラム、処置、そして施設がこのガイドや連邦動物福祉規則 (Federal Animal Welfare Regulation: AWRs)、あるいは米国公衆衛生局基本方針 (PHS Policy)に沿った勧告と一致しているか否かを監視したり、評価したりする責務があるとしている。 委員会構成メンバーには、次の有資格者を入れる必要がある。
(1) アメリカ実験動物医学会認定、あるいは実験動物科学や実験動物医学、または問題とされる使用動物種に経験や訓練に富んだ獣医師1人。
(2) 動物実験に経験がある科学者を少なくとも1人。
(3) 適切な動物の使用や管理に関し興味を有する地域を代表する外部の人を少なくとも1人。
この地域代表者は実験動物ユーザー、機関関係者、さらに機関関係者の直接の家族メンバーでないことが条件になっている。
 IACUCを構成するメンバーの人数や任期は、研究機関の大きさや形態、さらに研究、安全試験、教育プログラムの規模によって決定されるが、IACUCの機能として、
(1) 動物実験施設の視察、
(2) 動物飼育区域やプログラムの評価、
(3) 事務局へのレポート提出、
(4) 動物実験計画書の審査(プロトコール・レビュー)、
(5) システムの確立、 が挙げられている。 IACUCはその責任を果たすべく必要に応じて会合を開かなければならないが、少なくとも 6ヶ月に一度は会合を開くべしとしており、 委員会議事録や決定の過程に関する記録は保存しておかなければならない。また、動物管理プログラムのレビューや動物実験施設や動物実験現場も少なくとも 6ヶ月に1回視察するべきとしている。
 2) 動物管理と使用プロトコール (Animal Care and Use Protocols)
 動物管理と使用プロトコールのレビューやプレパレーションに際して、つぎのトピックを考慮しなくてはいけない。
(1) 動物実験に計画された動物の論理的理由と目的。
(2) 使用計画の動物数や動物種の審査。使用動物数に対する審査は出来る限り統計学的手法を駆使してあたる。
(3) より少ない侵襲性の処置法、他種の使用、摘出臓器の使用、細胞あるいは組織培養、あるいはコンピューターシミュレーションの使用の有用性と妥当性。
(4) 使用される処置に関し実験者の経験と訓練の適切さ。
(5) 異常なケージや管理の要求性。
(6) 適切な鎮静剤、鎮痛剤、麻酔剤。
(7) 不適切な重複実験。
(8) 頻回の深度到達外科的手術の遂行。
(9) 時期を得た介入、研究からの動物の除去、あるいはもし予期されなかった痛みやストレスがもたらされたときの安楽死等のための基準とやり方。
(10) 術後の管理。
(11) 安楽死や処分法。
(12) 職員に対する安全な作業環境の提供、である。
 プロトコールには、時々、今まで遭遇したことがないような処置による動物実験計画であったり、あるいはコントロールできない痛みやストレスを与える実験であったりするが、その例として肉体的拘束、頻回の深度到達外科的手術、給餌・給水制限、アジュバントの使用、エンドポイント法、有害な刺激物、皮膚や角膜刺激試験、必要以上に大きくする腫瘍実験、心臓穿刺や眼窩採血、異常な環境条件での実験を挙げている。
 3) 肉体的拘束 (Physical Restraint)
 肉体的拘束とは試験目的、材料収集、薬剤投与、治療、あるいは実験的操作に対し、動物の正常な動きの一部あるいは全てを手動式又は機械的方法の使用により妨げることであるが、動物はこれらの目的のため、短時間、通常は分単位で研究機器を装着されて拘束され得る。しかし、拘束用固定機器は大きさやデザイン、あるいは動物に対する不快さや損傷を最低にするような適当なものであらねばならない。長い拘束、例えば霊長類のモンキーチェアー使用は、研究目的だけにし、IACUCで承認されるもの以外は避けるべきであって、動物の正常な動きを制限しない拘束システム、例えば霊長類を鎖で繋ぐ方式や家畜の仕切り柱 (スタンチョン)方式などは、計画書の目的に両立するのであれば使用しても構わないとしている。何れにしても固定器が使用されうるのは、他の方法がない、あるいは動物や人間の損傷を防ぐ他の方法がない時だけであるとしている。以下は、拘束の際の重要なガイドラインである。
(1) 固定器をハウジングとみなしてはならない。
(2) 固定器を単に動物のハンドリングや統御に便利や簡単であるからといって使用してはならない。
(3) 固定器の使用時間は研究目的の最低時間にすべきである。
(4) 固定器を使用する時は、動物を前もって器具や人間に馴致しておくべきである。
(5) 適当なインターバルにより動物を必ず観察しなければならないとする規程を IACUCで作成するべきである。
(6) 固定器使用に伴う病変や病気が観察される時は、獣医学的管理がなされるべきであって、もし上記のような異常が認められるような際は、直ちに固定器から一時的または永久に解放すべきである。
 4) 頻回の深部到達外科的処置 (Multiple Major Surgical Procedures)
 深部到達外科手術とは体腔を侵襲または暴露したり、動物の生理学的、肉体的機能をかなりの程度障害するものであって、単数の動物に頻回深部到達外科的処置を行うことはやめるべきであるが、研究者による科学的理由の申し立てが IACUCによって承認されるならば 許可されても良いとしている。その例としては、棲息が限定されているような希少動物の使用や臨床的理由などである。しかし、それでも単なるコストの軽減だけで単数の動物に頻回深部到達外科的処置を行うことは避けなければならない。
 5) 給餌・給水制限 (Food or Fluid Restriction)
 実験上、給餌や給水制限を行うときでも若齢動物の成長や長期実験中の福祉を支える程度の少なくとも最低限の飼料や飲水を与えるべきであって、そのプログラムは生理学的や行動上の指数、例えば体 重減少や乾燥(脱水)状態をモニターするよう勧告している。

第2 獣医学的管理 (Veterinary Care)
 実験動物の健康や福祉を評価できるような獣医学的管理がなされるべきであるとし、獣医師はフルタイム、パートタイムあるいは顧問方式でも良い。鎮静剤、鎮痛剤、麻酔薬の使用に際しては、倫理的、人道的、科学的な考慮が時々必要となるが、これらに対し現場にいる獣医師は研究者に対して人道的見地からアドバイスする必要がある。AWRsや PHS Policyは現場にいる獣医師が動物管理と使用に関し、色々な見地から監視できるような十分な権限を与えるよう要求している。

第3 職員の資格と訓練 (Personnel Qualifications and Training)
 AWRsと PHS Policyは、各研究機関に動物を使用及び管理する人々に資格を取得するよう求めている。

第4 職場での職員の健康と安全管理 (Occupational Health and Safety of Personnel)
 この項目が今回の改訂で強化された。すなわち、
(1) 災害因子の同定と危険性の評価 (Hazard Identification and Risk Assessment)、
(2) 職員の訓練 (Personnel Training)、
(3) 身体の衛生 (Personal Hygiene)、
(4) 施設、手順及び監視 (Facilities, Procedures, and Monitoring)、
(5) 災害を伴う動物実験 (Animal Experimentation Involving Hazards)、 (6) 身体保護 (Personal Protection)、
(7) 職員に対する医学的評価と予防医学 (Medical Evaluation and Preventive Medicine for Personnel)
が小項目として挙げられていて、各研究機関に IACUCのプログラムと調和のとれた Occupational health and safety program (OH&SP)を必要としている。なお、ごく最近“Occupational Health and Safety in the Care of Research Animals”が出版されたので参考にすると良い。

参考文献
(1) J. D, Clark, G. F. Gebhart, J. C. Gonder, M. E. Keeling, D. F. Kohn: The 1996 Guide for the Care and Use of Laboratory Animals. (Special Report), ILAR Journal, Vol. 30(1): 41-48, 1997


「実験動物 管理と使用の指針」解説 獣医学的管理

大阪大学医学部附属動物実験施設 黒沢 努



「実験動物 管理と使用の指針」解説 ケージサイズ

(財)東京都老人総合研究所・実験動物部門 朱宮正剛