長崎大長崎大学大学院医歯薬学総合研究科形成再建外科学分野・長崎大学病院形成外科

疾患の紹介

当科で取り扱う疾患

長崎大学形成外科で治療を行う疾患について解説を行います。
病 名: 位置的頭蓋変形症
解 説:

欧米では新生児、乳児のうつ伏せ寝が推奨されることにより、乳児の突然死が急増した歴史があります。それにより、1992年から乳児は仰向け寝が推奨されるようになりましたが、後頭部頭蓋変形の乳幼児の発症を急増させる結果となりました。
ヘルメット治療とは『位置的頭蓋変形症』に対して一定期間ヘルメットを装着することにより、手術でなく頭蓋の外から頭蓋の形状を正常に再形成するための矯正治療方法です。
米国では1990年代からヘルメット治療が行われており、日本国内においては、2007年から米国製の医療機器を使用したヘルメット療法を開始しています。
2013年には、日本の温暖湿潤気候に適応し、かつアジア人の皮膚にも優しい純日本製ヘルメット『アイメット』が開発され、数多くの大学病院にてヘルメット療法に導入されています。2021年には、アイメットの後発品『クルム』が開発され、さらに2024年には、クルムの後発品『クルムフィット』が開発され、それらを用いたヘルメット療法が開始されています。
これまで15,000例以上の患者さんがジャパン・メディカル・カンパニー社製のヘルメットを使用して治療しており、多くの赤ちゃんの頭のゆがみを矯正してきました。(2025年4月現在)

治療内容

この治療では、次のヘルメットを使用します。

  • 医療機器承認番号:30500BZX00256000
  • 頭蓋形状矯正ヘルメット:クルムフィット

ヘルメットの希望色について:ピンク、ホワイト、ブルーを用意しています。
費用負担などについて:55万円(税別)を一括前払い
お支払い方法について:現金またはカード払いOK

対象となる患者さん

病的頭蓋変形がなく、位置的頭蓋変形症と診断された方を対象とします。
この治療では、上記の0歳児の乳児の患者さんを対象に行われます。そのため、ご家族など代諾者の方にもご説明し、同意をいただくこととなりますので、ご理解ご協力をお願いします。

治療の適応と期間

患者さんの治療適応月年齢は、2か月~10か月を基本とします。しかし、同じ月年齢においても、大泉門の閉鎖の程度には個人差がありますので、実際には、外来診療時に医師の診察にて最終的に治療適応の有無を診断します。
治療期間は、平均6か月を目安としますが、矯正治療効果の進捗状況にて、主治医との相談で変更していきます。

病 名: 眼瞼下垂、腱膜性眼瞼下垂、加齢性眼瞼下垂
病 態:

眼瞼下垂とは、上まぶたが十分に上がらない状態のことです。まぶたは上眼瞼挙筋やミュラー筋と呼ばれる筋肉が、瞼板と呼ばれるまぶたの芯となる構造を引っ張り上げることで開きます。筋肉と瞼板は、腱膜という組織で繋がっています。この腱膜がたるんでくると筋肉の力が瞼板に効果的に伝わらず、まぶたが上がりにくくなってしまいます。これによりものが見えにくくなり、眠そうな印象を与えます。また、おでこの筋肉(前頭筋)を利用してまぶたを上げようとするためにまゆ毛の位置が高くなり、額のしわが目立つようになります。頭痛、肩こりの原因になることもあります。

引用元

日本形成外科学会ウェブサイトより引用
「加齢性眼瞼下垂」 NewWiondow

病 名: 咬合異常
解 説:

咬合異常とは「顎・顔面・歯・歯周組織などが遺伝的もしくは環境的原因により、その発育・形態・機能に異常をきたし、咬合が正常でなくなった状態」と定義されています。上あご(上顎骨)や下あご(下顎骨)の形や大きさの異常、両者のバランスによりまた、歯の大きさのアンバランスにより咬み合わせが異常(咬合不正)な状態です。また咬合異常に伴い顔の変形などの症状を示すことがあります。主な症状は、咬合が合っていないことと顔の変形です。
(咬合異常の診療ガイドライン)

咬合異常の治療には、形成外科医、矯正歯科医、言語聴覚士や耳鼻科医に相談の上、治療方法を決定します。
治療の目的は、咬み合わせと顔貌の両者を改善することです。したがって、どの位置にあごを移動すれば、最も良い咬み合わせと顔貌が得られるかを検討します。
手術を行うことで、咬み合わせが改善されます。さらにあごは顔の大部分を占めるので、顔貌も改善します。骨格の移動により頬や鼻、唇も変化します。

引用元

日本形成外科学会ウェブサイトより引用
「顎変形症」 NewWiondow

病 名: 口唇裂
解 説:

口唇裂は生まれた時から、上唇がつながっていない状態のことです。口唇裂には様々な程度のものがあり、「裂」と呼ばれる割れ目の長さによって、口唇のみの不全唇裂と、鼻の穴(鼻孔)まで裂のある完全唇裂とに分類されます。
また、両側か片側のみかによる分類もされます。さらに、裂が口唇のみに存在する口唇単独裂、歯茎(顎堤)にも及ぶ唇顎裂、口蓋にまで及ぶ唇口蓋裂などがあります。
口唇裂は鼻の形態にも大きく影響し、ほとんどの場合で鼻にも変形が存在しています。したがって、口唇だけでなく鼻の治療も行うことが重要になってきます。
口蓋裂をともなった口唇口蓋裂の出生頻度は、日本では約500人に1人程度といわれており、最も頻度の高い生まれつきの異常の一つです。人種による違いがあることも知られ、東洋人は最も頻度が高いと考えられています。
発生の原因には不明な点が多いですが、多数の因子が関与しているとされています。胎児の口唇は胎生7週ころ、口蓋は胎生12週ころに、それぞれの元になる部分が癒合することで作られます。口唇口蓋裂はこの時期に、何らかの原因でその癒合プロセスがうまく行われなかった結果と考えられます。全くの偶然、母体の環境、何らかの薬剤、遺伝因子など、小さな原因が積み重なった結果、それがある一定の限界を超えたときに発生すると考えられています。ただし、現在の医学では、遺伝的影響がどの程度関係していたかを知る手段はありません。

口唇裂(完全唇裂・不全唇裂)
口唇裂(両側唇裂・片側唇裂)
引用元

日本形成外科学会ウェブサイトより引用
「口唇裂(唇裂・唇顎裂)」 NewWiondow
「口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)」 NewWiondow

病 名: 口蓋裂
解 説:

口蓋裂は、癒合不全が口の中の天井部分で後方の骨のないやわらかいところ(軟口蓋)のみにとどまる軟口蓋裂と、口の天井部分で前方の骨のある硬いところ(硬口蓋)にも割れ目がある硬軟口蓋裂とがあります。軟口蓋裂には粘膜の割れ目がなく粘膜の下の筋肉に割れ目を認める粘膜下口蓋裂があります。硬軟口蓋裂では、口蓋裂単独の場合と唇裂や顎裂を伴う場合があります。
唇裂を伴った口唇口蓋裂の出生頻度は、日本では約500出生に1人程度といわれており、最も頻度の高い生まれつきの異常の一つです。人種による違いがあることも知られていて、東洋人は最も頻度が高いと考えられています。
発生頻度には不明な点が多いですが、多数の因子が関与しているとされています。胎児の口蓋は胎生12週ころに元になる部分が癒合することで作られます。口蓋裂は胎生期のこの時期に何らかの原因でその癒合プロセスがうまく行われなかった結果と考えられます。全くの偶然、母体の環境、何らかの薬剤、遺伝因子など、小さな原因が積み重なった結果、それがある一定の限界を超えたときに発生すると考えられています。ただし、現在の医学では、遺伝的影響がどの程度関係したかを知る手段はありません。

口蓋裂(硬口蓋・軟口蓋)
口蓋裂(軟口蓋裂・粘膜下口蓋裂・硬軟口蓋裂)
引用元

日本形成外科学会ウェブサイトより引用
「口蓋裂」 NewWiondow
「口唇口蓋裂」 NewWiondow

病 名: 顎裂
病 態:

歯ぐきに割れ目がある状態を顎裂と言います。顎裂単独で存在することはまれで、多くの場合は口唇裂や口蓋裂に合併して認められます。

解 説:

歯ぐきに割れ目があると、その部分に骨がないため、口唇裂や口蓋裂を合併しており口唇や口蓋を閉じる手術を終えていても口の中(口腔[こうくう])と鼻の中(鼻腔[びくう])の一部が閉じていない状態となることがあります。また、歯ぐきが連続していないため歯並びが悪くなり、場合によっては噛み合わせに問題が生じることがあります。
幅が狭い顎裂の場合は歯科矯正で改善することがあります(保存的療法)が、多くの顎裂は骨の手術により、歯が正常な位置に生えてくる(歯牙の萌出[ほうしゅつ])のを誘導し、術後の矯正歯科治療と合わせてきれいな歯並びが得られるようにすることを目的とします。
また、顎裂の部分に骨がないことで、将来顔が成長したときに生じる鼻の変形(鼻孔の大きさや形の左右差、鼻が低いなど)を手術によって最小限にすることができます。
手術時期については、口唇形成・口蓋形成術と同時に行う一次手術と口唇口蓋裂閉鎖後に顎骨の成長が進み、歯が萌出した後に行う二次手術に分類されます。犬歯萌出前の混合歯列期(8-9歳頃)に骨移植を行うと骨形成された顎裂部に犬歯を誘導することが可能で、形態的にも機能的にも良好との報告も多いため当院ではこの時期に手術を行う方針としています。

 

手術の解説

病 名: 乳がん
目 的:

乳癌切除後に伴い、乳腺組織・脂肪組織が欠損するため自家組織(広背筋皮弁)による乳房再建を行います。乳房の大きさや本人のご希望から、広背筋皮弁による自家組織再建を行います。
広背筋皮弁は、広背筋と皮膚、脂肪を血管が繋がった状態で胸部に移植する方法です。

手術方法:

はじめに、乳腺外科が腫瘍を含めて乳腺を全切除します。
乳輪乳頭と腫瘍直上の皮膚を温存または切除し、腋窩リンパ節はセンチネルリンパ節生検でリンパ節の一部を摘出する予定です。その後、形成外科にて乳房再建を行います。

① 広背筋皮弁の挙上
背部に25cm程度の皮膚切開をして、広背筋皮弁を挙上します。筋皮弁の尾側に脂肪組織を付加してボリュームを増やします。

動脈皮弁術及び筋皮弁を用いた乳房再建術(広背筋皮弁術)① 広背筋皮弁の挙上

② 背部の閉創
傷は縫縮して、1本の傷となります。
皮下にドレーンを2本入れて、血腫や漿液腫を予防します。

③ 筋皮弁の固定
乳房皮下に入れる前に、ICGテスト(インドシアニングリーン試験)を行い、血流評価をします。血流の悪い部分は切除します。挙上した筋皮弁を乳房皮下ポケットに移動させて、膨らみを作ります。形が整うように、乳房皮膚や大胸筋と固定します。切除された乳輪乳頭と皮膚の部分に筋皮弁の皮膚を当てはめます。

動脈皮弁術及び筋皮弁を用いた乳房再建術(広背筋皮弁術)③ 筋皮弁の固定

④ 閉創
乳房にも血腫ができないようにドレーンを2本入れます。傷を閉じて終了です。

動脈皮弁術及び筋皮弁を用いた乳房再建術(広背筋皮弁術)④ 閉創

術直後は肩の挙上は控えてください。肘を曲げることは問題ないので、歯磨きや洗顔などは可能です。肩の運動は術後3週から始めます。
術後血腫が形成された場合は、緊急手術を行う場合があります。
漿液腫が貯留することもあり、入院中もしくは外来にて貯留部位に針を刺して吸引する処置が複数回必要になる場合があります。

病 名: 乳がん
目 的:

乳癌手術(乳房切除)と同時に自家組織による乳房再建を行います。さまざまな再建方法がありますが、本人のご希望により腹部からの自家組織再建(遊離腹部皮弁)を行います。乳房の下垂、ボリューム、柔らかさなどを考慮するともっとも乳腺に近い仕上がりとなります。

手術方法:

はじめに、乳腺外科が腫瘍を含めて乳腺を全切除します。
乳輪乳頭と腫瘍直上の皮膚を温存または切除し、腋窩リンパ節はセンチネルリンパ節生検でリンパ節の一部を摘出する予定です。その後、形成外科にて乳房再建を行います。
乳腺外科の処置が終わったのちに形成外科に移ります。

① 移植床血管の展開
みぎ内胸動静脈に血管吻合する予定としています。
乳輪乳頭切除部から胸の正中側に剥離をすすめ、内胸動静脈を展開します。第3肋軟骨を切除し、その下にある血管を出します。血管が細かったりして吻合に適さない場合は、第2肋軟骨を摘出して太い位置に吻合したり、反体側(ひだり)の内胸動静脈やみぎ胸背動静脈に吻合することがあります。その際、血管を展開するために補助切開や追加で肋軟骨を切除することになります。

② 腹部皮弁の挙上
乳腺が切除された後、その部分を下腹部の皮膚と脂肪で再建します。組織移植は血管(動脈・静脈)をつけて挙上します(遊離腹部皮弁移植といいます)。腹部皮弁の血管は鼠径部から臍周辺に向かって、腹直筋のなかを走行します。
皮弁挙上時に、血管だけにすると皮弁の血流が不安定になることがあるので、一部腹直筋も付着したまま血管だけにせず組織移植を行います。

③ 血管吻合
皮弁の血管を切り離したら胸の方に置き、皮弁の血管と移植床血管(内胸動静脈の予定)とを顕微鏡下に吻合し、血液を流します。血管の太さは2mm前後です。

④ 皮弁の固定
皮弁の血流が安定したら、乳房にいれる皮弁の形を決めて傷を閉じます。
胸のポケットに血溜まりができないようにドレーン(血液や浸出液を排出する管)を2本ほど留置して皮膚を縫合し、閉じます。乳輪乳頭部や切除した皮膚の部分は、腹部皮弁の皮膚を当てはめます。これは、術後の皮弁血流を確認するためのモニターになります。

⑤ 腹部の閉創
腹部皮弁を採取した所には2本程度ドレーンを入れて、筋膜や皮膚を縫合し創の閉鎖を行います。胸部操作で摘出した肋軟骨を下腹部に入れておき(バンキング)、後日、乳輪乳頭再建を行う際に使用することがあります。肋軟骨が保存に適さない状況になっている場合はバンキングしません。

乳癌に対する一次一期乳房再建(遊離腹部皮弁での再建)手術方法

(図:長崎大学病院 形成外科)

手術中、皮弁を栄養する血管が細く使用できない、もしくは挙上時や吻合時に血管トラブルが生じてしまった場合は皮弁での再建を中断・中止することがあります。その場合は、後日別の再建方法を検討します。また、術後に吻合血管に血栓が形成された場合や、創部に血腫などが貯留した場合は緊急手術を行う場合があります。緊急手術を施行したとしても血栓により皮弁が壊死(部分的もしくは全部)した場合は改めて別の方法で乳房再建を行うことを検討いたします。
術後は吻合血管トラブル防止のため安静が必要です。
柔らかい乳房形態を維持するために、うつ伏せ寝や締め付けの強いブラジャーの装着は控えてもらう必要があります。

病 名: 外傷(挫滅創、熱傷、開放骨折など)
皮膚潰瘍(糖尿病性潰瘍、褥瘡など)
皮膚欠損創(腫瘍の切除術後など)

皮膚・皮下組織は様々な理由により欠損することがあります。代表的なものに外傷による欠損、糖尿病・膠原病などの内科疾患に伴うキズや褥瘡などの皮膚潰瘍、そして腫瘍切除後の皮膚欠損があります。外科的デブリードマンはこれらの皮膚・皮下組織が欠損した状態のキズに対して適応となります。

目 的:

皮膚・皮下組織が欠損した創は、小さい範囲であれば周囲から皮膚組織が伸びて欠損部の上を覆ったり、肉芽組織と呼ばれる組織で欠損部が埋まったりすることで塞がります。大きい欠損では治癒までに時間がかかるため、キズを直接縫合したり、植皮術や皮弁術と呼ばれる組織移植術を行ったりします。しかしキズの表に壊死組織(血流が悪い組織)が存在したり、土砂や異物で汚染されていたり、感染を生じ膿が貯留していたりする場合は、組織が治癒に適した状態でないためこれらの手術を行ってもキズがうまく閉じない可能性があります。そのためキズの表面の壊死組織や汚染物質を除去する必要があります。この操作をデブリードマンと呼び、特にメスなどを用いて手術でデブリードマンを行うことを外科的デブリードマンと呼びます。膿瘍に対する切開・排膿処置を外科的デブリードマンに含むこともあります。この同意書内では外科的デブリードマンについて述べますが、外科的デブリードマンはあくまでキズを治すための準備として行われるものであり、同時もしくは後日追加の手術でキズの閉鎖を行う可能性があります。

手術方法:

手術は予想される身体への侵襲を考慮し、全身麻酔、伝達麻酔(神経へのブロック注射)および局所麻酔のいずれかの麻酔法の下に行います。
麻酔後にキズの表面に存在する壊死組織や、土砂・異物や膿などで汚染された組織を、創部の状態に合わせて、電気メス、メス、剪(せん)刀(とう)(手術用のハサミ)、鋭(えい)匙(ひ)(手術用のさじ状の器具)、カミソリ、専用の器械(水圧式・超音波式デブリードマン)などの道具を使い分けて切除します。デブリードマンは基本的に創部の組織から良好な出血を認めるまで行いますが、場合によっては1回だけでなく複数回行うこともあります。例えば血管、神経、腱や骨などの重要組織が近い場合、切除によって不可逆的な症状を生じる恐れがあり、慎重に複数回に分けてデブリードマンを行う必要があります。デブリードマンを行ったあとでも組織の壊死が進行する場合があり、このような場合も複数回のデブリードマンが必要です。また骨髄炎など骨の感染や壊死を伴う場合は、傷んだ骨組織を除去することもあります(腐骨摘出術)。

デブリードマンと同時に直接縫合や植皮術・皮弁術などの創閉鎖の手術を行うこともありますが、同時に閉鎖を行わない場合は、手術後に人工材料(人工真皮と呼ばれる代替の皮膚材料など)や創傷治療用の器械(局所陰圧閉鎖療法など)で一旦創部を覆うこともあります。

病 名: CLTI(Chronic limb threatening ischemia:包括的高度慢性下肢虚血)
病 態:

下肢虚血(血流が乏しいこと)、組織欠損、神経障害、感染などの肢切断リスクをもち、治療介入が必要な下肢を総称する概念で、虚血による安静時痛や下肢潰瘍、壊死が少なくとも2週間以上改善せず持続するものを指します。

解 説:

CLTIの治療の第1選択は血行再建(カテーテル治療やバイパス手術)です。ただし以下の場合は大切断(膝より下、もしくは膝より上での切断)が適応となります。
① 再建不可能な血管疾患を有する状態
② 非機能肢(神経損傷や脳卒中による麻痺がある状態や関節拘縮により下肢機能が著しく障害された状態)
③ 足部の主要な運動負荷部位の壊死または制御不能な感染
④ 重篤な併存疾患や限られた生命予後しかない状態に対し、回復まで長い期間を要するハイリスク手術の回避

目的としては、血流障害による下肢の痛み(虚血性疼痛)の緩和と病変組織、感染巣、壊死組織の除去であり、繰り返される再治療と長い治療期間から解放されるというメリットがあります。

手術方法:

手術は予想される身体への侵襲を考慮し、全身麻酔、腰椎麻酔(腰からのブロック注射)のいずれかの麻酔法で行います。
下肢を消毒し、切開する部分にマーキングします。
膝下10cm程度の部分(病変の進行によっては多少変更があります)に骨を切るラインを設定し、骨が覆える程度皮膚を多めに切開します。筋肉や骨、神経、血管をそれぞれ、切離、結紮を行います。止血が得られていることを確認し、血腫形成予防のためのドレーンを留置し皮膚を縫合閉鎖して終了となります。

【下腿切断の場合】
① 皮膚を切開して、骨や筋肉・血管、神経を切離
下腿切断の場合:①皮膚を切開して、骨や筋肉・血管、神経を切離
② ドレーンを挿入して閉創
下腿切断の場合:②ドレーンを挿入して閉創

【大腿切断の場合】
① 皮膚を切開して、骨や筋肉・血管、神経を切離
大腿切断の場合:①皮膚を切開して、骨や筋肉・血管、神経を切離
② ドレーンを挿入して閉創
大腿切断の場合:②ドレーンを挿入して閉創

麻酔導入時や術中に急な全身状態の悪化などにより、手術の中断・中止を余儀なくされる場合があります。その病態に応じて適切な対応を行います。
感染が波及している場合に、傷を閉鎖することが困難と判断されれば開放したまま(傷を閉じずに)手術を終了する場合もあります。

参考文献

日本循環器学会・日本血管外科学会(2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)

病名・病態:
<対象疾患>

・毛細血管奇形(単純性血管腫)
生まれつきある赤い平坦な「あざ」です。毛細血管の異常なので、厳密には血管腫ではなく奇形に分類されます。毛細血管は動脈と静脈の間にあり皮膚に広がる細くて薄い管ですが、それらが異常に増えて集まった状態です。

・乳児血管腫(イチゴ状血管腫)
日本人では新生児のおよそ1%弱に出現すると言われています。
典型的には出生直後にはみられず生後数日~数週間で赤い斑点ができ、数か月で拡大・隆起し、多くはイチゴのような形状となります。隆起せず平坦な場合や、皮下に出来る場合もあります。1歳頃にピークに達し、その後は約7割の方で小学校低学年くらいまでの間にゆっくり色・隆起が引いていきます。

・毛細血管拡張症
炎症を伴わない持続性の毛細血管の拡張で、治療のターゲットは血管です。
原因は血中酸素不足、ホルモン、感染、手術侵襲、過度の紫外線被曝、ステロイドの影響、放射線治療後遺症など様々です。

解 説:
<目的>

レーザー照射により皮膚直下の赤あざの原因となっている血管を閉塞させ、あざの軽減を目指します。

<有用性>

血管の太さや深さで治療効果には個人差があります。
1回の照射で薄くなる方、数回照射して効果が出始める方、照射しても効果が得られない方と様々です。照射を繰り返しても完全には消失せず部分的に残存することが多いです。

・毛細血管奇形(単純性血管腫)
頸部や顔面は5~10回程度の治療で多くの場合改善を見ますが、下肢は時に難治性で改善しない場合もあります。それでもレーザーによって、無治療よりはその後の変化をかなり軽微に止められると考えられており、1年に1回ほどの経過観察を行いながら、少しずつでも治療を続けることをお薦めしています。

・乳児血管腫(イチゴ状血管腫)
以前は自然消退するため治療の必要が無いと言われていましたが、隆起によって萎縮瘢痕や変形を残すことがありレーザー治療対象となります。
レーザー治療により増殖のピークを抑え、退縮を早めると言われています。

色素レーザー照射法:苺状血管腫のレーザー治療の経過

引用:CANDELAパンフレット「よくわかるVビーム治療」

・毛細血管拡張症
赤みが目立つ場合、整容面改善のために照射を行います。

手術方法:

・当院ではキャンデラ社の皮膚冷却装置付き長パルス幅色素レーザー(VビームⅡ®:595nm)を使用しています。

・レーザー治療は単一の波長の光を照射する方法です。色素レーザーの光は皮膚を通り抜けて、皮膚直下にある血管内の赤血球(ヘモグロビン)に選択的に吸収され、熱変性により血管を閉塞します。

・照射する皮膚の厚さや血管の深さ・太さによって、レーザーの照射時間や出力、波長を調節しながら治療を進めます。初回は試験照射といって小範囲に照射することもあります。

<治療の流れ>
・通常は1回の照射ではなく1~3か月おきを目安に複数回の照射が必要になることが多いです。

・日焼けで皮膚が黒い状態では、レーザー光がメラニンに吸収され治療効果が望めないことがあります。その場合は治療を行わないことがあります。

① 外来照射の場合
・照射時の痛みに対して、必要に応じて麻酔テープ(リドカインテープ)を使用します。貼付後30分~1時間待機してから照射になります。

・小さなお子さんは安全に照射するため体を押さえさせていただきます。

・病変が広範囲の場合は1回の外来で全てに照射するのではなく部分照射にすることがあります。

・照射後は炎症を抑えるためにステロイド軟膏を塗布し、10分程保冷剤で冷却してからご帰宅いただきます。

② 全身麻酔下照射の場合
・体を押さえても動きが抑えられない場合や、病変が広範囲に及ぶ場合、眼瞼の病変の場合は1歳以降を目安に全身麻酔下で照射を行うことがあります。

・照射前日に入院し当日朝から照射、術後の覚醒具合や体調に問題なければ当日午後に退院となります。

<照射後のケア>
・治療当日は照射部位に化粧はしないでください。

・当日の入浴は可能です。

・照射後半年は遮光(日焼け止めクリームや衣類など)、保湿を徹底してください。乾燥しているとレーザーの刺激により創が出来やすくなります。

・ステロイドの軟膏を処方しますので、当日夜入浴後に1回塗布してください。翌日照射部に水疱やびらんがある場合は治るまで塗布+保護を続け、1週間たっても治らない、もしくは創の様子がおかしい場合(ひどい、出血する、熱を持つなど)は外来に連絡し受診してください。
翌日、創がなければステロイド軟膏は終了し保湿を毎日行ってください。

<照射後経過>
数日~数週間かけて徐々に薄くなります。その過程で一時的に色調が濃くなったり紫斑を形成したりすることがあります。

・紫斑
照射部位が紫斑といって赤紫色に変色することがあります。これは治療過程で自然な反応で、1~3週間で消失することが多いです。この時期は特に色素沈着を来しやすいため日焼け予防を徹底してください。

・再発
毛細血管奇形ではレーザー終了後数年すると再び濃くなることが報告されています。その場合は年に1回程維持療法として照射を行います。

病名・病態:

刃物や機械などによる外傷で手指が体から完全に離れて血液の巡りが全くなくなった状態を完全切断と言います。皮膚や腱などの一部組織でつながっているものは不全切断と言います。

解 説:

指が切断されたときは、皮膚や骨は勿論、指の関節を動かすすじ(腱)や、指の感覚を司る神経、指に血液を送る動脈、指に来た血液を心臓に戻す静脈など重要な組織も切断されることがあります。血行が途絶えることでこれらの指の組織が壊死する前に、早急な血行の再開が必要であり、血行再建のための手術(再接着術)を行います。
切断指の損傷の程度や損傷部位によって治療方針は異なります。一般的に再接着術が適応となる症例は母指の完全切断や鋭利な切断、多数指の切断などです。挫滅や汚染が高度な指、引き抜かれてちぎれた指、熱も加わって切断された指、時間が経過した指などの再接着術は困難です。すべての切断指が再接着可能なわけではありません。切断された指の状態、患者の年齢、動脈硬化など血管の状態、喫煙歴の有無などに影響されます。また術後に予想される機能障害が高度な場合などは、むしろ再接着をすすめない場合もあります。
指の再接着術の成功率は、国内でおよそ8割程度とされています。

手術方法:

手術は全身麻酔もしくは伝達麻酔(腋や鎖骨部などのブロック注射)下に行います。手術では、まず切断部の損傷の強い部分を切除し、骨の固定および腱(指を動かすすじ)の縫合を行い指の全体的な形態を治します。骨の固定には金属のワイヤーやプレートなどを用います。次に、血管(動脈と静脈)と神経を縫合しますが、直径がおよそ0.5mmから1mmと極めて細いため、手術用顕微鏡を用いて縫合します。最後に皮膚を縫合します。皮膚の緊張が強い場合は、皮膚の欠損部を人工真皮と呼ばれる医療材料や、他の部位の皮膚を移植して被覆します(植皮)。

切断指、骨•腱・神経・血管縫合、再接着術後

術後は腫れの予防と血管のつまり(血栓)の予防目的に入院が必要です。術後は縫った血管がつまる可能性があり、血管がつまると緊急で再手術が必要になることがあります。特に術後24時間以内は縫った血管がつまる可能性が最も高く、注意が必要です。術後の安静を保つためにギプスシーネで手全体を固定し、手術部位を保護します。手の腫れを防ぐための挙上と、血管を拡張させるための保温も大切です。必要に応じて血液が固まらないような薬剤の点滴注射を行ないます。喫煙は血管を縮めて細くするので、厳禁です。

術後2、3週間はあまり積極的な指の運動は行ないませんが、縫った血管を通る血流が安定したら、積極的なリハビリ訓練が必要になります。リハビリは長期にわたって行う必要があります。リハビリを行っても指の運動などの改善が乏しい場合、後日追加の手術を行う可能性があります。
切断指の状態が悪く(例えば、損傷の程度が強い場合や、切断された指が見つからない場合など)再接着ができない場合や再接着が不成功となった場合では、骨を短くして短い指の状態で傷を閉じたり、周囲の皮膚を切開し大きくずらして傷を閉じたりすることがあります。場合によっては、後日足指を移植することもありますが、適応は限られます。

参 考

日本形成外科学会ウェブサイト「切断指」 NewWiondow
日本整形外科学ウェブサイト「切断された指の再接着」 NewWiondow

病名・病態:
刃皮膚には様々な腫瘍(できもの)が生じます。皮膚の表面にできるもののほかに、皮膚の下(皮下)にできるものもあります。皮膚・皮下に生じる良性腫瘍には、下記のようなものが代表として挙げられます。
腫瘍の名称 特 徴
粉瘤
  • 皮下にできる良性腫瘍で、皮膚の上皮(表皮や外毛根鞘がいもうこんしょう)が皮内や皮下に袋状の構造を形成したもので、半球状の隆起として触れることが多いです。袋の内側が上皮ですので、本来は外に脱落するはずの角質(いわゆる垢)や皮脂が粥状じゅくじょうの内容物として袋内に蓄積し、少しずつ大きくなっていきます。俗に『脂肪のかたまり』などといわれますが、実は脂肪組織ではなく、皮膚の老廃物のかたまりで、腫瘤の中央にしばしば見られる小さな黒っぽい開口部から、悪臭を伴う内容物がでてくることがあります。
  • 身体のどこにでもでき、特に背中やうなじ、頬、耳たぶなどにできやすい傾向があります。
  • 発生の原因は判らない場合が多いのですが、ケガや毛嚢炎、ニキビが原因で生じることがあります。
色素性母斑
(ほくろ・母斑細胞生母斑・黒子)
  • いわゆる「ホクロ」です。一般的には大小さまざまで平坦なものから盛り上がったもの、黒いものから茶色(褐色)のものまであります。生まれつきからあるものからあとで出現することもあります。また生まれつき皮膚のかなりの部分に色素性母斑がひろがっている場合には、巨大色素性母斑と呼ばれます。
  • 色素性母斑は母斑細胞が表皮と真皮の境目もしくは真皮の中に存在して、メラニン色素を作り出すために、褐色ないし黒色に見えます。時には毛が生えたり表面がでこぼこすることもあります。
  • 小さな色素性母斑は悪性化することはあまりありませんが、巨大色素性母斑は悪性化する可能性があるともいわれているため、適切な観察や治療が必要です。また一般に足の裏や手のひらのほくろも悪性化しやすいと言われますが、それほど頻度は高くありません。
脂肪腫
  • 脂肪腫は、皮下に発生する軟部組織の腫瘍の中では最も多くみられる良性の腫瘍です。脂肪腫には、皮下組織に見られる浅在性脂肪腫と、筋膜下、筋肉内、筋肉間に見られる深在性脂肪腫があります。普通は、成熟脂肪組織で構成される柔らかい単発性腫瘍ですが、まれに多発性することがあります。
  • 発生時期は幼少時と考えられていますが、緩徐に発育するため発見は遅く、20歳以下にはまれで、40~50歳代に多く見られます。
  • 身体の各部に発生しますが、背部、肩、頸部などに多く、次いで上腕、臀部、大腿などのからだに近い方の四肢に多くみられます。顔面、頭皮、下腿、足などは比較的まれです。大きさは数mm径の小さなものから、直径が10㎝以上に及ぶものまでいろいろです。通常、痛みなどの症状は無く、皮膚がドーム状に盛り上がり、柔らかいしこりとして触れます。
  • 血管成分が多いものは、血管脂肪腫と称され、最大径が1~2㎝と小ぶりで、しばしば多発します。
類皮嚢腫
(デルモイドシスト)
  • 眼、鼻の周囲、耳後部、口腔底などの顔面領域に好発する円形の良性腫瘍です。全身のどこにでも発生しますが、顔面以外では卵巣や腰椎での発生の報告もあります。顔面では眼窩上外側の発生が最も多いとされ、出生後、早期に見つかることが多いです。一般に無痛性で表面が平滑、皮膚との癒着はありませんが、骨膜との癒着がある場合が多いです。時に頭蓋内へ連絡していることもあります。腫瘍の発育は殆どないか、緩徐ですが、外傷などを契機として増大したり、炎症を起こすこともあります。嚢腫の内容は毛髪と脂質を含みチーズ様、クリーム様などと表されます。
石灰化上皮腫
  • 石灰化上皮腫とはその名の通り皮膚の一部が石灰のように硬くなる良性の皮下腫瘍の一つです。他の皮膚・皮下腫瘍と同じようになぜ発生するのか原因は分かっていませんが、毛母腫という別名が現すように毛根に存在する毛母細胞を起源とする腫瘍です。比較的若い人、特に小児の顔(まぶた)、腕、頸などに発生することが多いようです。

参考:
日本形成外科学会ウェブサイト「腫瘍」 NewWiondowより

上記の腫瘍に対して手術により摘出を行うのが「皮膚・皮下腫瘍摘出術」です。上記の腫瘍以外でも、皮膚・皮下に存在する良性腫瘍であれば皮膚・皮下腫瘍摘出術が適応となります。皮膚・皮下腫瘍摘出術では腫瘍が生じた部位や個数、大きさによって手術の金額が変わります。また腫瘍でなくとも皮膚・皮下組織を切除する手術において、該当する手術が存在しない場合に「皮膚・皮下腫瘍摘出術」として実施する場合があります。同じ腫瘍でも発生した場所によっては、手術内容は同じでも手術の名称や金額が変わることがあります(例:耳にできた腫瘍の摘出は「耳介腫瘍摘出術」、筋肉より下に生じた腫瘍の摘出は「四肢・躯幹軟部腫瘍摘出術」など)。

解 説:

腫瘍は自然に治癒することはほとんどなく、切開などで内部の貯留物を排出した場合でも腫瘍の被膜が残っていると再び大きくなります。腫瘍による症状は見た目の変化だけでなく、位置や深さによっては神経や血管の圧迫による症状や骨の変形などを生じる可能性があります。また、腫瘍の種類によっては感染を起こすリスクがあります。これらの症状を改善するために「皮膚・皮下腫瘍摘出術」を行います。

皮膚・皮下の良性腫瘍の場合、基本的な治療は腫瘍だけを摘出する手術になります。腫瘍の種類や大きさによって、局所麻酔、伝達麻酔(脇や腰からのブロック麻酔など)、全身麻酔のいずれかで手術を行います。腫瘍は皮膚と癒着しているものであれば、腫瘍直上の皮膚を紡錘形に切開し皮膚に腫瘍をつけた状態で摘出します。

腫瘍と皮膚の癒着がない場合は皮膚を切開し、直下の腫瘍を摘出します。縫合線は腫瘍の直上とは限らず、キズ跡を目立たないようにするため、あえて離れた場所を切開することがあります。
腫瘍を摘出したあとの皮膚は縫合を行います。縫合は腫瘍の部位によって皮膚縫合のみ、または皮膚縫合と皮膚の下の組織を吸収糸で縫う縫合とを組み合わせて行います。創部に問題がなければ多くの場合1~2週間後に抜糸を行います。抜糸後は部位などによって、テープを貼る後療法を行うことがあります。腫瘍摘出後の皮膚が直接縫合できない場合は、皮膚組織を再建するために、植皮術(身体の別の部位からの皮膚組織の移植)や皮弁術(周囲皮膚・皮下組織の移動)などの他の手術を組み合わせる可能性があります。
摘出した腫瘍は基本的に顕微鏡で詳しく調べる検査(病理組織学的検査)に提出します。良性腫瘍の場合、病変が完全に取り切れれば再発の可能性はほとんどありません。ただし、いくつかの腫瘍はできやすい体質なども関わるため、他の場所に同じ腫瘍ができることがあります。検査の結果、もし悪性腫瘍や極めて珍しい腫瘍と診断された場合は、追加の検査や再手術(追加切除)が必要となる場合があります。場合によっては追加の治療のために、皮膚科や整形外科など他の科に紹介することがあります。
また手術中に、術前に想定していた腫瘍とは異なると考えられる場合は、摘出を中止し腫瘍の一部だけを切除し病理組織学的検査に提出し、結果を待ってから再度治療方針を考えることがあります。

病名・病態:

頬骨は頬の高まりを形成している骨で、体部と弓部と呼ばれる部分からなります。体部は前方に、弓部は側方に突出しているため、外力を受け骨折することがあります。頬骨骨折は顔面骨骨折のなかで鼻骨骨折に次いで多い骨折です。交通事故や転落の他、殴打や転倒などの比較的軽度の外傷でも生じることがあります。小児より成人に多く、特に高齢の方で転倒による頬部の打撲で骨折しやすい部位です。

頬骨・頬骨弓
解 説:

頬骨体部骨折では多くは隣り合った骨との接合部(縫合線)で骨折し、体部全体が転位し下記の症状を認めることがあります。
・顔面の変形・頬部の扁平化:頬骨体部の転位により頬部のへこみが生じ、腫れが引くにしたがって顔貌の変形が明らかになります。
・知覚異常:上顎骨に眼窩下神経という感覚神経が通る出口があり、これが頬骨との接合部に近いため、体部骨折ではこの神経が損傷されることがあります。感覚障害(しびれ)は、頬部、鼻の側面、上口唇、歯肉におよびます。歯肉の感覚が低下すると、実際には異常がないのに歯がかみ合わないように感じることがあります。
・開口障害:頬骨弓という骨の下を通っている側頭筋と咬筋(下顎骨に付着しており、口を閉じるときに働く筋肉)が骨折により損傷したり、腫れたり、骨折部が食い込むと口を開ける動作(開口)が障害されます。
・眼球運動障害:眼球が収まっている骨で囲まれた窪みである眼窩が、骨折により広がり眼球が陥没したり、骨折部に眼球を動かす筋肉が挟まれたり、眼窩に血種ができる場合があります。その結果、眼球の位置がずれ顔貌の変化をきたします。また、眼球の運動が不良になると物が2重に見える複視の症状が出現します。ただし、受傷早期の眼球運動障害は一時的で自然に回復することが多いです。

手術により頬骨の骨折を整復することで骨片の転位が原因となる顔面の変形、知覚異常(しびれ・知覚低下)、眼球運動障害(複視)、開口障害は改善が見込めます。骨片の転位が高度であれば基本的には手術の適応となります。転位が軽度で、重要な機能障害がない場合や、ご本人・ご家族が整復を希望しない場合には手術をしないこともあります。軽度の複視や皮膚の感覚障害があっても対症療法で自然治癒する場合があります。当院では1年間に約5例行っており、その後順調な経過をたどっています。

手術方法:

全身麻酔・仰臥位で手術を行います。顔面・口腔内を消毒し切開部位に局所麻酔の注射を行い手術を開始します。

① 下眼瞼の睫毛下、上眼瞼および唇と歯茎の間から切開し頬骨を露出させ、骨折部位を同定します。
①下眼瞼の睫毛下、上眼瞼および唇と歯茎の間から切開し頬骨を露出させ、骨折部位を同定します。

② U字型の用具などを用いて、頬骨を持ち上げ正しい位置に引き上げます。
②U字型の用具などを用いて、頬骨を持ち上げ正しい位置に引き上げます。

③ 頬骨を戻した後に、頬骨をプレートとスクリューで固定します。
③頬骨を戻した後に、頬骨をプレートとスクリューで固定します。

④ 切開した皮膚と口腔内の粘膜を縫合します。

プレートはチタン製と吸収される材料のものがあります。チタン製のプレートは長期留置しても問題ありませんが、感染した場合や本人の希望がある場合はプレートを取り出す手術を行う場合があります。

吸収性のプレートは徐々に吸収されるためプレート除去する必要はありませんが、時間とともに吸収されずに腫れてくることがあります。その場合には切除を行う場合があります。

手術後は、顔面の腫れが一時的に悪化します。一般的には翌日がピークで2週間ほどかけて徐々に改善します。口腔内も切開しているため出血しますが約2日でなくなります。口腔内の出血を飲み込むと吐き気の原因となりますので、なるべく飲み込まないようにしてください。通常は、術後数日は疼痛がありますが、痛み止めの内服で我慢できる場合が多いです。食事が摂取できるようになれば退院です。手術後約1週間で抜糸します。頬の重篤なしびれがある方は、神経症状に対する飲み薬を内服し、数か月おきに半年から1年ほど経過をみる場合があります。

術後に整復が不十分もしくは後戻りが著しく顔面の変形や機能障害が残存した場合は、骨折部を切り離して再度整復と固定を行う手術が必要になる場合があります。

参考文献

形成外科診療ガイドライン2021年版

外傷や腫瘍の切除、または瘢痕組織の切除などに伴い生じた皮膚の欠損・損傷に対して、創部を移植した皮膚で覆うことで治癒を促し、機能回復や整容的改善を図るために「分層植皮術」または「全層植皮術」が行われます。これらの術式では、健康な皮膚を自身の身体の別の部位から採取し、損傷部位に移植します(植皮)。植皮の生着には欠損・損傷部位の性状や移植する皮膚の厚さにもよりますがおよそ2週間程度を要します。生着させるために、植皮片がずれないように固定し、適度に圧迫された状態を保つことが重要です。

分層植皮術:

表皮および真皮の一部を採取し、移植する方法です。この方法は、比較的広範囲にわたる損傷に対応しやすいことが特徴です。通常カミソリなどを用いて皮膚を薄く採取するため、皮膚を採取した部位(採皮部)は擦り傷のようになりますが軟膏や被覆材などで自然に治癒を図ります。この場合、治癒には2週間程度を要しますが、採取した皮膚の厚さや元々皮膚が薄い高齢者などでは治癒に時間がかかることがあります。皮膚採取部をより確実に治癒させるために皮膚をメスなどを用いて全層で切除し縫合することもあります。

全層植皮術:
表皮と真皮の全層を採取して移植する方法で、特に顔面や手など、機能や外観が重要な部位に適しています。分層植皮よりも移植後の皮膚の質感や弾力性が良好であることが特徴ですが、生着させるための管理が分層植皮より難しくなります。
小さい皮膚で広範囲の創を覆うためや、移植した皮膚組織の下に血腫や膿が溜まらないための工夫として、皮膚をメッシュ状やパッチ状に加工して移植することがあります。これらの植皮法は術後の整容性や創部の状況などを考慮して判断されます。

 

 

足の潰瘍、あざ、手足のむくみ、リンパ浮腫、あばら骨・胸のかたち
口や鼻・耳のかたち、乳房・乳頭のかたち、眼のかたち、手や足・指のかたち
(一般社団法人日本形成外科学会「一般の方へ:形成外科で扱う疾患」)
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