自閉症を描いた
第2回 「レインマン」(1988)


今回取り上げる米映画「レインマン」 (1988年)はアカデミー賞主要4部門に輝いた秀作で、この映画により米国の自閉症の理解が10年は進んだといわれています。
 米西海岸のロサンゼルスで車のディーラーをしているチャーリー・ハビット(トム・クルーズ)は事業がうまくいっていません。そんな中、絶縁状態にあった父親が亡くなります。借金に追われる彼にとって、父親の遺産は願ってもないことです。しかし、贈られたのは一台の車とバラの木だけ。遺産の300万ドルは長年、病院で暮らしている兄レイモンド(ダスティン・ホフマン)へ。
 チャーリーは遺産目当てで知的障害の兄を米北東部シンシナティの病院から連れ出し、車でロサンゼルスに向かいます。チャーリーは当初、自閉症をただの知恵遅れと思っていましたが、彼と行動を共にするうちに、それとは全く異なることを知ることになります。

■発達障害の総称
 自閉症は①相互対人関係の質的異常②コミュニケーションの質的異常③幅が狭く反復的・常同的である行動・興味・活動のパターン―の三つの領域の障害でまとめられた発達障害の総称です。
 症状には幾つかの特徴があります。①他者との情緒的接触の欠如②物事を常に同じようにしようとする強い欲求③言葉がない、あったとしてもおうむ返しや他者には通じない独特な言葉を作るなどコミュニケーションに役立たない言葉の使い方④カレンダー計算などの特殊な領域での優秀な能カ―などです。
 チャーリーは何度もレイモンドに話し掛けますが、レイモンドはそれに答えず、まるでチャーリーがそこにいないかのように振る舞ったり、ある番組のせりふを意味もなく繰り返したりして、コミュニケーションが成り立ちません。レイモンドは独自の生活リズムや行動様式を持ち、それが狂うと奇声を上げ、パニックを起こします。
 独特な知覚(身体的接触・音・光など)の過敏さも持ち、体に触られることを極端に嫌がったり、警報機の音や救急車のサイレンなどの音に混乱を起こすこともあります。車で移動中、レイモンドは流れる風景でなく、橋や電柱で変化する光や影に注目している様子が分かります。


■特異な才能発揮
 治療法として、自閉症そのものを治す薬物はありません。対人関係や環境変化のストレスによるうつ状態や不眠、過度の緊張・興奮といった二次的問題に薬物療法を行うことはあります。ちなみに日本には自閉症など子どもの精神科医療に携わる医師が少なく、本県では県、長崎大を挙げて養成に取り組んでいます。
 映画の中でレイモンドは特異な才能を発揮します。人類の歴史の中で、彼のような才能の持ち主が科学・芸術の分野で大発見・発明をしていることに気付かされます。時として情報が創造性に邪魔なもの、雑音になってしまうことがあります。他人の心を読み過ぎることは、物事の本質を遠ざけるのかもしれません。自閉症を取り扱った映画は幾つかありますが、この映画には演出的にも自閉症としてのうそがないような気がします、それが作品の芸術性を一層高めていると思います。さて最後になりますが、この「レインマン」というタイトル、一体何のことだと思いますか。ぜひこの作品を見て、この謎を解いてみてください。きっと心が温まりますよ。


自閉症・発達障害に関する推薦映画
・「フォレスト・ガンプ」(1994年/米国)
・「アイ・アム・サム」(2001年/米国)
・「モーツァルトとクジラ」(2004年/米国)
・「マラソン」(2005年/韓国)