パニック障害を描いた
第3回 「アナライズ・ミー」(1999)

今回紹介するのはロバート・デ・ニーロ主演の米映画「アナライズ・ミー」(1999年)です。映画の舞台は米国の暗黒街。マフィアのボスであるヴィッテ(デ・ニーロ)は他組織と縄張り争いの真っただ中で、命を狙われる危険な日々を送っています。

■突然の息苦しさ
 ある時、手下と作戦を練っていたヴィッテは突然息苦しさに見舞われて脂汗が止まらず、「このまま死んでしまうのでは」という強い不安感にとらわれ、救急車で病院に運ばれます。心臓発作に違いないと思っていたヴィッテですが、若い医者は「単なるパニック発作です」と告げます。
 「このおれがパニックだって!?」と精神的な病気であることを信じられないヴイッテは激怒し、部下に命じてその医者を袋だたきにしてしまいます。ところが、そうした症状がその後も繰り返され、精神科医ソポル(ビリー・クリスタル)に助けを求めるのです。
 ソポルは平凡な、どちらかというと気弱な感じの人物です。「マフィアなんて!」とヴィッテにかかわらないよう必死に逃げますが、所構わずヴィッテから呼び出され、しぶしぶ治療を始めることになります。
 そんなソポルでしたが、ヴィッテが少年のころに心に傷を負い、それがパニック発作の原因になっていることが明らかになる中で、次第に精神科医として、患者ヴィッテを救おうと奔走するようになります。

■うつ伴う場合も
 パニック障害は、息苦しさ、激しい動悸(どうき)と発汗に加え、今にも死んでしまうのではないかという強い不安に襲わます。統計では100人に3人という割合で見られ、比較的多い心の病気の一つです。しかし、ヴィッテがそうであったように、最初から精神科を受診する人は少なく、受診しても多くの場合、心の病として受け入れることが難しいようです。

 そうして発作が繰り返されることで「また発作が出たらどうしよう」という不安がつきまとうようになり(予期不安)、さらにその不安から外出しにくくなります(広場恐怖)。こうした悪循環により、パニック障害の半数以上が「うつ」を伴ってきます。

 この病気の原因はまだ明確にされていません。誘因としては日常生活のストレスや、生活歴などに伴う心理的な要因も否めませんが、抗うつ薬SSRIなどの薬物療法が有効であることから、脳内のノルアドレナリン(神経を興奮させる神経伝達物質)系の過敏・過活動、あるいはセロトニン(精神を安定させる神経伝達物質)系の機能不全など脳機能の不調という説が有力です。長崎大では薬物以外に、呼吸法を利用した認知行動療法を用いることがあります。

 さて、全く反対の性格のヴィッテとソポルですが、最後には医師と患者を踏み越えた友情関係にまで発展します。意外にもこの二人は「偉大な父と平凡な息子」というエディプス・コンプレックス(精神分析学者フロイトが唱えた、異性の親に対して性愛の情を抱き、同性の規に対して敵意を抱く無意識的心理)を持っており、その共通点があったからではないかと思われます。

 ヴィッテのようにストレスを心で受け止められない人は身体の症状を出すようになります。近代医学は心と体の関係を分離して発展してきました。しかし、心身相関といわれるように、心と体は連携しているのです。

パニック障害に関する推薦映画
・「めまい」(1958年/米国)
・「小説家を見つけたら」(2000年/米国)
・「アナライズ・ユー」(2002年/米国)
・「阿弥陀堂だより」(2002年/日本)
・「パニックルーム」(2002年/米国)
・「恋愛適齢期」(2003年/米国)