性同一性障害を描いた
第5回 「ボーイズ・ドント・クライ」(1999)

  物心ついたころから「男の子なんだから」 「女の子なんだから」などと言われ、男の子は青や黒、女の子はピンクや白の洋服を着せられます。身体的性(セックス)と「男らしさ・女らしさ」という心理・社会的性役割(ジェンダー)が一致するのは当然のことと多くの人が思っていると思います。しかし、日常生活に支障を来すほど、その「当たり前」の不一致に悩み、苦しむ人々の存在が徐々に明らかになってきています。
 今回の米映画「ボーイズ・ドント・クライ」(1999年は)米ネブラスカ州で実際に起こった事件に基づいた作品です。主人公ブランドン・ティナーを演じた女優ラリー・スワンクは、身体的性は女性でありながら、男性として生きようと苦悩する姿を見事に演じ、アカデミー主演女優賞を獲得しています。
 93年、20歳のブランドンは知り合いのジョンがよく出入りする愛人の娘ラナと恋に落ちます。ある日、警察官から免許証の提示を求められた際、ブランドンが実は女性であることが判明します。見た目は全くの男性のため、その場に居合わせた人たちがくぜんとし、男性としてブランドンを愛していたラナもショックを隠せません。
 後日、ラナはブランドンを訪ね、ブランドンが性同一性障害(GID)であることを打ち明けられます。それでもラナはありのままのブランドンを受け入れ、愛することを告げます。しかし、周囲はブランドンを忌み嫌い、新聞で事実を知った町の人々も「変質者」扱いし始めます。二人はこの町を出て、新天地を求めて旅立とうとしますが、偏見と嫉妬(しっと)から悲劇を招きます。
 98年、日本でも初の性転換手術が行われ、性同一性障害という病名が広く知られるようになりました。
 診断するには、まずジェンダーが一致しているかを判定します。十分な時間をかけて詳細な養育歴、生活史、性行動歴を聴取します。並行して身体的性別の判定も行いますが、原則として男性から女性への性転向希望者は泌尿器科医、女性から男性への性転向希望者は婦人科医で実施します。各専門医の情報を基に、GIDに十分な知識と経験を持つ精神科医2人の意見が一致して、GIDの診断が確定します。
 治療は、精神科領域の治療と身体的治療(ホルモン治療、性別適合手術など)により構成されます。まず患者が望む性別で一定期間、実際に生活してみる「リアルライフテスト」を行い、いずれの性別でどのように暮らすことが患者にとって一番望ましいかを検討し、さらに踏み込んだ身体的治療をするかを患者に自己決定してもらいます。これらは病院の倫理委員会を通して、慎重に審査することが求められます。
 テレビや映画など芸能界ではGIDの存在が珍しくなくなってきましたが、この映画のように、いざ身近な人物がGIDと知った時に偏見や恐れを持つことなく、心の目でその人と向き合うことができるでしょうか。GIDの人を前にすると、あらためて「男らしさ・女らしさ」の基準を考えさせられるとともに、「性」がその人の「生」と強くつながっていることを痛感します。普段あまり意識しないジェンダーですが、ご自身の「性」と「生」に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

性同一性障害に関する推薦映画・テレビドラマ
・「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999年/米国)
・「ロバート・イーズ」(2000年/米国)
・「3年B組金八先生 第6シリーズ」(2001年/TBS)
・「ラストフレンズ」(2008年/フジテレビ)