アルコール依存症を描いた
第11回 「酒とバラの日々」(1962)

テーマ曲がジャズのスタンダードナンバーとしても有名な映画です。
 主人公の夫婦は結婚して娘が1人生まれ、ごく普通の生活を送っていました。しかし、もともとお酒好きの夫(ジャック・レモン)は仕事上のストレスなどを酒で紛らわすようになります。夫の酒量が増えていくのを妻(リー・レミック)は毛嫌いしていましたが、やがて夫に付き合って2人で飲むようになります。
 やがて夫は酒の上の失敗で職場の立場が悪くなり、妻は酔いつぶれた揚げ句、火の不始末でアパートを火事にしてしまいます。そして、夫は失職。一家は幼い娘を連れ、職や住居を転々とする生活を始めます。
 お酒は「食品」であると同時に「薬剤」でもあり、脳と体に作用を及ぼします。ストレスをお酒で発散することはよくあることですが、お酒で心理的な問題を解決する習慣を続けると、その習慣そのものに体と人生が支配されてしまう状態(アルコール依存症)になります。
 アルコール依存症は誰でもかかりうる「病気」です。この病になった理由はそれこそ人生の数だけありますが、症状はどんな患者でも似ています。映画の中で例を挙げると次のような依存行動が見られます。
 ①飲む時間、量の異常=徹底的に酔うまで飲み続けます。たとえ、明日仕事があっても、飲酒によって妻の父から見放されるリスクがあっても少量で切り上げることができません。
 ②アルコールの血中濃度を一気に上げるような飲み方の異常=赤ちゃんが哺乳(ほにゅう)瓶からミルクを飲むような勢いで酒瓶を一気に空にしたり、意識がもうろうとしながらもウイスキーを休むことなく、ちびちびすすっていたりします。
 ③周りの目を気にし、隠れて飲む=いつでも飲めるように、お酒を隠すようになります。
 ④酒がなくなると探してまで飲む=酒がなくなったときの耐えがたい悲しみ、不安を抑えることができず、雨の中、他人の鉢植えをたたき壊しても、夫を裏切っても、法を犯してでも酒を探します。
 こういった飲酒は家庭や周囲を巻き込むことになり、夫は精神科病院に(強制)入院させられ、妻は家にいられなくなります。夫は入院を機に、依存症患者更生の相互補助団体(A・A)の集会AAに参加します。AAのメンバーは、これから起こるであろう酒の問題を予言し、忠告します。
 映画の最後、多くのものを失い、心に大きな傷を負って、夫婦は対話します。依存症から回復した夫は妻にもその方法を伝えますが、妻はそれに背を向け再び姿を消します。
 依存症からの回復の最初の一歩である「アルコール問題を認める」ことは簡単なようで、時間がかかったり、多くのものを失ってからでないと踏み出せないくらい困難なことなのです。
 夫の最後のせりふはAAのミーティングで、取り上げられる詩です。「神様 私にお与えください かえられないものを 受け入れる落ち着きを 変えられるものを 変えていく勇気を そしてその二つを見分ける賢さを」。この詩にはアルコール依存症以外の心の病や、悩みの解決につながるヒントも隠されているのではないでしょうか。

アルコール依存症に関する推薦映画
・「失われた週末」(1945年/米国)
・「男が女を愛する時」(1994年/米国)
・「リービング・ラスベガス」(1995年/米国)