睡眠障害が鍵となる
第12回 「インソムニア」(2002)

今回はアカデミー賞俳優3人共演して話題となった米映画で、いわゆる警察ものの傑作です。インソムニアとは「不眠症」のことを意味します。
 米ロサンゼルスの敏腕刑事ドーマー(アル・パチーノ)は殺人事件捜査の応援のため、一日中太陽が沈まない白夜のアラスカを訪れます。そこでは彼を尊敬し、あこがれている女性警官エリー(ヒラリー・スワンク)が出迎えます。
 事件ものなので詳しい内容は控えますが、犯人フィンチは悪役が珍しいロビン・ウィリアム。捜査中のある事件をきっかけに、ドーマーは不眠症となり、次第に憔悴(しょうすい)し、ドラマも意外な方向に進んでいきます。
 最近の報告では日本人の睡眠時間は年々減少傾向にあり、5人に1人が睡眠障害に陥っているといわれています。
 大きく分類すると、①寝つくまで2時間以上かかる「入眠障害」②いったん寝ついても目が覚めやすく、2回以上目が覚める「中途覚醒(かくせい)③朝起きたときにぐっすり眠った感じのない「熟眠障害」④朝、普段よりも2時間以上早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」―4種類があります。この症状のどれかが週2回以上、かつ少なくとも1ヵ月持続すると不眠症として診断されます。
 特殊な睡眠障害の例として「ナルコレプシー」があります。基本的な症状は①一日中反復する抑えがたい居眠りがほぼ毎日、何年間にもわたって続く②普通は緊張して居眠りなどしない場面、例えば試験中や商談中に強い眠気が起こり、数分程度眠り込んでしまう(睡眠発作)③大笑いしたり、興奮して怒ったりするなど、主に強い陽性感情の動きをきっかけに、全身あるいはひざ、腰、首、あご、ほお、まぶたなどの姿勢筋の力が突然抜けてしまう(情動脱力発作)―というものです。
 同じ症状は犬にも認められ、その研究から人の睡眠覚醒に重要な物質オレキシンも発見されました。
 新幹線の居眠り運転で有名になった「睡眠時無呼吸症候群」は、睡眠中に呼吸が止まった状態(無呼吸)が断続的に繰り返されるために十分な睡眠が得られず日中に強い眠気を感じるものです。
 もう一つ重要な問題としては、病的な寝坊(概日リズム障害)があります。人の体内時計は25時間周期といわれ、日常生活や日光により1時間早めに時間をリセットしています。しかい、このリズム機能が不十分だと、毎日1時間ずつ寝て起きる時間が遅れてしまい、不登校や遅刻の常習者になることがあるのです。
 映画でドーマーが不眠症になるのは白夜で夜がなくなり、このリセットがうまくできなくなったためと考えられます。
 これらの睡眠障害は判断力、注意力を低下させ、交通事故や作業を伴うリスクを高めます。そして、心筋梗塞(こうそく)、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病や、うつ病と密接に関連があるのです。たかが不眠されど不眠です。症状により、薬物療法などの対策がありますので、軽く考えず治療しましょう。
 ところで、娯楽中心といわれるハリウッドの映画にはこの映画のように実は「正義とは何か」をテーマにしたものが多いような気がします。新学期のこの季節、多様な価値観の中で何が正しいのか、大事な人と真剣に話し合うことも必要かもしれません。

不眠症(睡眠障害)に関する推薦映画
・「マイ・プライベート・アイダホ」(1991年/米国)
・「ファイトクラブ」(1999年/米国)
・「ロスト・イン・トランスレーション」(2003年/米国)
・「マニシスト」(2004年/スペイン・米国)