救急現場の精神科医療を学べる
第17回 「ER 緊急救命室」(1994~2009)

今回取り上げるのは映画ではなく、テレビドラマです。日本でも医療ドラマが人気ですが、その火付け役になったといえるのが米国で15年にわたって放映された「ER 緊急救命室」です。アカデミー俳優ジョージ・クルーニーが、このドラマからスターになったことでも知られています。
 ドラマは救命救急センターを舞台にしています。医療考証が正確で、実に多くの精神科関連の問題が取り扱われています。日本の救命センターでは患者の約20%は自殺未遂といわれており、これだけでも救急現場に精神科的対応が必要なことが分かるでしょう。
 末期がんや肝臓病、心臓病、腎機能などの病気では、軽い意識の混濁である「せん妄」という症状が頻発します。認知症と誤解されやすいのですが、激しい幻覚、妄想状態になることもあります。
 例えば、生まれて初めての手術で入院した高齢の方が不安のために眠れなくなります。睡眠薬を処方されて服用したところ、翌日の夕方から急に「孫の運動会があるから帰る」と混乱してしまうことがあります。家族は「入院してボケちゃったのかな」と考えますが、これがせん妄です。
 「ER」のエピソードでは、進行がんで血液のカルシウム濃度が高くなった患者が運ばれてきますが、せん妄状態となり、自分が病室にいることや周りが医療者であることを認識できません。「おれの車から降りろ」と叫びますが、これはベッドを自分の車と思い込んでいるわけです。
 しかし、カルシウム値が正常になった患者は病室を抜け出し、禁止事項と理解した上でこっそりたばこを吸ったり、それを看護婦に見つかると、しらを切ったりするシーンがあります。認知症とは異なり、症状が急激に良くなったり、悪くなったり変化するのがせん妄の特徴です。
 身体疾患に伴う総合病院における精神科の対応を「コンサルテーション・リエゾン」といいます。コンサルテーションとは、体の病気がある患者に生じた精神症状の相談に応じ、適切な治療を行うことです。リエゾンは連携という意味のフランス語で、一般病棟の医療チームの一員として精神科医が参加することを指します。精神科医を志望していない研修医にとっても、リエゾンサービスは身体疾患に伴う精神症状を学ぶ絶好の機会となります。
 長崎大学病院を含む多くの総合病院で精神科への往診依頼が増加していますが、それに対応できるだけの専門スタッフが確保されていないのが現状です。せん妄などの出現の可能性を考えると、入院するのなら精神科スタッフがいる病院が安心です。
 話は変わりますが、米国のドラマではよくシーズンという言葉が使われます。これは半年間ドラマを流し、後の半年は再放送し、それで評判のいいものは次のシーズンで新作を放送するわけです。
 「ER」については10年前、シカゴで評判のレストランへ行こうとしたとき、「木曜の8時に行くといいよ。ERの放送時間だから(すいてる)」と言われたものです。日本ではかつて人気のラジオドラマの時間には銭湯がガラガラになったそうですが、それに匹敵する人気でした。
 ある日本のディレクターが「ER」関係者に「人気があるなら、なぜ連続的に放送しないのか」と聞いたところ、「クリエーターには半年の休暇が必要」と説明されたそうです。日本の状況を考えるとうらやましい話です。


お薦めの医療ドラマ
・「メンタル:癒しのカルテ」(米国)
・「Dr.HOUSE」(米国)
・「白い巨塔」(日本)
・「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(日本)
・「JIN-仁-」(日本)