身体疾患とストレスを描いた
第19回 「レスラー」(2008)

今回はストレスの話です。映画は米映画の「レスラー」。バブル期に大人の退廃的な愛の形を描いた「ナインハーフ」で有名なミッキー・ロークが10年ぶりに主演し、見事、第62回ベネチア国際映画祭金獅子賞に選ばれた作品です。ブルース・スプリングスティーンの主題歌が渋く、男くさい作品に仕上がっています。
 20年前は人気レスラーだったランディ(ローク)は今ではガレージで寝泊まりするくらいに、すっかり落ちぶれています。スーパーの食品売り場のアルバイトで生計を立てながら、週末のリングに上がる日々。しかし、そのオファーも少なくなり、自分の限界を意識するようになります。
 最愛の娘との仲もうまくいかず、孤独な生活。長年の筋肉増強剤使用のため心臓に発作を起こし、医者からレスラーをやめるよう告げられますが…。
 ストレスのない人生はありません。人生最大のストレスは恐らく母親のおなかの中から出てくるときかもしれません。精神的のみならず、身体的なストレスもあります。
 ランディは筋肉増強のためステロイドホルモンを打ちますが、人間の体はストレスがかかると、副腎から炎症を抑え、免疫を制御する作用のあるステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)を放出し、短期的に対応しています。また、副腎からは別のノルアドレナリンが分泌されて心拍数を上げ、血液を心臓に集め、さらに末梢(まっしょう)血管を収縮させ、血液が固まりやすい状態になります。
 これは「逃走または闘争」状態で、この状況が平時にも出現するのが「パニック発作」といわれるものです。ステロイドやノルアドレナリンが持続的に放出されると免疫力が低下し、動脈硬化を促進、脳細胞を一部死滅させます。
 ちなみにストレスへの対処法と、その人の性格・特性に関連があるという考え方があります。例えばストレスにすぐ対応し、時間に追われるように仕事し、声が大きく、競争心が強く、同時並行的に物事をこなす傾向を「タイプA(angina=狭心症)性格」と言い、狭心症、心筋梗塞になりやすい特徴があります。一方、怒りをあまり表に出さず、内省的な傾向を「タイプC(cancer=がん)性格」と言い、がんになりやすいといわれています。
 では、ストレスとの付き合い方とはどんなものでしょう。私流ですが、まず紙に自分が感じているストレスを10個書き上げ、①自分でコントロールできるものとできないもの②難しいものと簡単なものを分類(図1 参照)。Ⅰ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳの順に対応しますが、Ⅳについては時間が解決してくれるのを待ちます。
 映画で、ランディは誇り高き男として生きることを選択します。男のロマンを感じるところですが、女性は愚かで軽率なことと思うかもしれません。どんな人生においても、人は自分のメーンストリームから降りる時があります。しかし、これがなかなかできません。ものすごく恐ろしく、とても勇気がいることだからです。しかし、新たな希望もそこにはあるのです。



    【図1】ストレスへの対処を整理する表



身体疾患とストレスに関する推薦映画
・「デュエット・フォー・ワン」(1986年/米国)
・「フィラデルフィア」(1993年/米国)
・「イン・アメリカ」(2003年/アイルランド・英国)
・「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年/フランス)