「喪の仕事」について考えさせられる
第23回 「P.S.アイラヴユー」(2007)

 今回は久々にラブコメディー作品「P.S.アイラブユー」(米国)を題材にします。主演はシリアスな作品が多い、アカデミー賞女優ヒラリー・スワンクです。
 主人公ホリー(スワンク)と夫ジェリー(ジェラルド・バトラー)はケンカをしてもすぐに仲直りをする熱愛カップル。しかし、映画は始まって間もなく、夫は脳腫瘍で死亡してしまいます。悲嘆に暮れ、引きこもったホリーの30歳の誕生日に、亡き夫からケーキとテープレコーダーが送られてきます。それからいろいろな方法で彼の手紙が届けられ、妻に行動を促します。文面の最後には「P.S.アイラブユー」とつづられていました。
 人類はさまざまな不幸に見舞われ、その都度克服してきた歴史があります。トラウマという言葉が最近多く使われますが、決して再起不能な問題ではなく、自然経過の中で多くの人は確実に改善していきます。それは体の傷の治癒経過に似ています。
 例えば、道端でくぎを踏んだとします。その瞬間は激しい痛みに襲われ、さらに数時間痛み続けるかもしれませんが、1週間以上になることはまれです。この時、対応を誤ると化膿(かのう)するかもしれません。しかし、多くは腫れが引き、出血が止まり、かさぶたができ、次第に傷が癒されます。時に外傷を負ったときより強い痛みに襲われることもありますが、時間とともに回復していくパターンがあるのです。
 これと同時に人が精神的不幸から回復する時間的経過があります。これをフロイトは「喪の仕事」と称しました。
 また、上智大文学部教授のアルフォンス・デーケン神父は「悲嘆のプロセス」として、①精神的打破とまひ状態②否定③パニック④怒りと不当感⑤敵意と恨み⑥罪悪感⑦空想形成⑧孤独感と抑うつ⑨精神的混乱と無関心⑩あきらめ、受容⑪新しい希望、ユーモアと笑いの再発見⑫立ち直りの段階、新しいアイデンティティーの誕生―という段階があると唱えました。
 しかし、すべての人が順調に立ち直るわけではありません。そう考えると、そもそも回復力とは何なのでしょう。困難にうまく適応できる力を「レジリエンス」(挫折から回復・復元する弾力性)と呼びます。好奇心や柔軟性、忍耐力、大局観、肯定的な未来志向性などを持った人がレジリエンスを有することが多いと言われています。
 ホリーは夫の手紙に従って徐々に悲嘆のプロセスを経過し、回復していきます。最後に手渡されたのは彼女の未来に向けての、夫からの最高のラブレター、そしてお別れの手紙でした。その時、ホリーは彼の死を真に受容し、希望を持ち、泣き、笑い、新たな人生の旅立ちに進みます。
 回復の希望となるものとは何でしょうか。それは恐らく「自分の未来にかすかに期待する」という慎重かつ控えめな楽観性ではないかと最近考えています。もし自分が先に逝くと考えている男性は、奥様に最後のラブレターをこっそり書いてみてはいかがでしょうか。最後に「P.S.アイラヴユー」を入れるのをお忘れなく。きっと二人の大切なものが見つかるはずです。