障害児と親の関係性を考えさせられる
第24回 「マラソン」(2005)

 今回は本企画初の韓国映画です。マラソンでサブスリー(3時間を切る)を達成した自閉症の子と母の実話に基づく物語です。
 19歳の青年チョウォンは知的な遅れを伴う自閉症。父親は家を出ており、市営住宅で母キョンスクと弟の3人で暮らしています。母の望みは「息子より一日長く生きること」。
 ある日、往年の国民的英雄のランナー、チョン・ウクが飲酒運転の罰則のボランティア活動で、チョウォンの養護学校を訪れます。キョンスクは彼の家に押しかけ、息子を指導するよう頼み込みます。コーチを引き受けたチョン・ウクはチョウォンと初め意思の疎通がうまくいきませんが、次第に2人の呼吸が合ってきます。
 自閉症の特徴は本企画の第2回「レインマン」でも述べましたがコミュニケーションの障害にあります。目を合わさない、こだわりが強いなどの特徴があり、専門家にかかると1~2歳で診断がつきます。
 しかし、親はそれらの症状を性格や周囲の問題とすることがあります。同世代の子と違うことにうすうすは気が付いているのですが、それを認めたくない気持ちが働いてしまい、治療を受けるのが遅れることもあるのです。特に母親は、子どもの問題を自分のことと考えがちです。
  「母子分離不安」という言葉があります。例えば、公園デビューの場合。子どもは初めての砂場遊びで他の子と一緒に遊びたいのですが、後ろにいる母親をちらちら見ながら、仲間を探します。母親は母親で、子どもが視界から少しでもいなくなると心配になるのです。
 これは母と子の絆なのかもしれませんが、不健全に持続すると、子どもは「一人で学校に行けない」、母親は「子どもがかわいそうだから学校に行かせたくない」となるなど、子どもの自立を妨げることになります。
 女性にとってわが子は自分の心身の延長です。ただ、子どもを守っているはずが、実は自分の保身である場合もあります。例えば、教育ママの心理は「自分が厳しく言わないと他人が言ってくれない。だから言いたくないことも言ってしまう」というものです。ですが、無意識の部分では、子どもの学業がうまくいかないと母親の評価が落ちるという不安が隠されている場合があります。「愛」が「支配」に代わり、「保護」が「従順、無抵抗」を導くのです。
 人間は生理的早産といわれます。他の動物に比べ、圧倒的にか弱い存在として生を受けることにより、母子関係が濃厚に展開します。ですが、どの動物にも子離れ、親離れの時期が必要であり、それゆえ愛情は葛藤を生むことが多いのです。
 母の愛はもろ刃の剣。慈しみ深く、独り善がりなのかもしれません。ですから父性の存在が、子どもの健全な精神の成長に重要なのです。しかし、今の日本は父親の子育てへの参加が希薄なのが現状です。
 映画で、チョン・ウクは母親に言います。「自分で産んだからといって自分のものか」と。もう走らなくていいと言いだした母親に対し、チョウォンは自分自身のために走りたいことを主張します。そして、42.195kmを2時間台で走り抜けてみせるのです。
 発達障害のある子どもの親が、チョン・ウクのような中立的で別の視点から子どもに関わろうと学ぶことを、ペアレンティング(親教育)といいます。親になるためにも教育が必要なのです。