尿路がん(腎盂・尿管・尿路がん)

尿路がんとは

「尿路がん」といっても、皆さんにはあまり聞き馴染みがないかもしれません。
尿路とは読んで字のごとく「尿がとおる路(みち)」であり、具体的には腎臓と接する『腎盂(じんう)』、腎臓と膀胱をつないでいる『尿管』、そして、尿を貯める役割を果たす『膀胱』と、膀胱の尿を排出する『尿道』を指します。
つまり、「尿路がん」とはこれら尿の通り道にできた癌を総称したものです。また、その解剖学的な特徴から、腎盂や尿管にできたものを「上部尿路がん」とまとめて呼び、「膀胱がん」と区別することもあります。
そして、その発生頻度は、膀胱>上部尿路>尿道の順ですが、尿道のみに癌ができることは比較的少なく、そのほとんどは「膀胱がん」と「上部尿路がん」です。
尿路がんは、胃がんや肺がんほど頻度は高くありませんが、泌尿器科領域の3大癌の1つであり、男性や60歳以上の高齢者に多いことが知られています。ただし、女性の喫煙率上昇に伴い、女性が占める比率が増えてきたという報告や検診の普及などにより上部尿路がんの罹患率は増加しているという報告もあります。

尿路がんの症状

尿路がんになると、どのような症状が出てくるのでしょうか?
皆さんが「癌」と聞いてイメージされる急激な痩せや強い痛みは、尿路がんでも同様に起こることがあります。
しかし、これらの症状は、他の癌種と同じく進行癌で見られやすい代表的な症状であり、尿路がんの早期から出現することが多い特徴的な症状としては「血尿」が挙げられます。血尿は目でみてわかる「肉眼的血尿」と、血尿の自覚はないものの検診などで指摘される「顕微鏡的血尿」あるいは「尿潜血陽性」に分かれますが、特に「肉眼的血尿」には注意が必要です。いずれの場合も、放置することなく、近くの泌尿器科を受診することをお勧めしますが、特に「肉眼的血尿」に気が付いた場合には、出来るだけ早く専門医を受診してください。
また、「頻尿」や「排尿時痛」にも注意が必要です。これらは、高齢者に多い前立腺肥大症や、女性がかかりやすい膀胱炎、そして、過活動膀胱の代表的な症状ですが、これらの治療を適切に受けたにもかかわらず改善しない、あるいは、このような症状が長引く患者さんで、膀胱がんが見つかることも少なくありません。このように、排尿に関する症状が長引く場合にも、泌尿器科を受診されることをお勧めします 。

尿路がんの原因

尿路がんの原因は何でしょうか?
他の癌と同様によくわかっていない部分も多いのが実情ですが、そのなかでもまず挙げなくてはならないのは「喫煙」です。「喫煙」は様々な病気の発生や進行に関係している事が知られていますが、尿路がんは特にその関与が強いことがわかっています。その他、ある種の化学物質やお薬の影響、そして、結石や感染症や寄生虫がその原因となりうることが知られています。
一方、まだ議論の段階であり結論は出ていませんが、ある種の乳酸菌飲料や緑茶の摂取が尿路がんの発生を抑制するという報告があります。このように、尿路がんは外部因子の影響を受けやすいという特徴があります。
また、尿路がんの特徴として、尿路に多発して発生することが少なくないことが挙げられます。つまり、膀胱に複数の膀胱がんが発生していることがあり、膀胱がんと上部尿路がんが同時に発生することもあります。
さらに、尿路への再発率が高いことも知られており、悪性度にもよりますが10%から70%と高率に再発をきたします。しかも、膀胱がん手術後に膀胱に再発するだけではなく、上部尿路に再発することや、上部尿路がん手術後に膀胱に再発することもあります。
このように多発しやすい、再発しやすいことが尿路がんの特徴なのです。

尿路がんの検査

尿路がんが疑われた場合には、どのような検査が行われるのでしょうか?
先に述べた「顕微鏡的血尿」や「尿潜血陽性」で受診された場合、まずは尿を顕微鏡で観察する尿沈渣や尿細胞診、そして、超音波検査など負担の少ない(痛みの少ない)検査を主体に行います。一方、「肉眼的血尿」の場合には、これらの検査に加えて、膀胱鏡検査を行うことがあります。膀胱鏡検査は外尿道口(おしっこの出口)から内視鏡をいれて膀胱の中を観察するものですが、現在の膀胱鏡は小指よりも細くなっており、その痛みも以前よりも劇的に少なくなっています。そして、これらの検査の結果に応じてCTやMRIなどを追加します。
これらの検査で、尿路がんの可能性が高くなった場合に、組織を採取する生検を行います。さらに、私達は画像検査で上部尿路に癌が疑われるものの、はっきりとした証拠が見つからない場合(細胞診が正常など)には、尿管鏡検査を積極的に行うことでより正確な診断をつけるようにしています。尿管鏡検査を行うには入院や麻酔が必要になりますが、より正確な診断と適切な治療計画を立てる上で重要な役割を果たすことがあり、状況に応じてではありますが有用性の高い検査法だと考えています。
なお、CT・MRI検査や尿管鏡検査などは、ある程度設備の整った病院で行う必要がありますが、尿沈渣や尿細胞診などは、泌尿器科の診療所や開業医院でできますのでご相談ください。

尿路がんの治療①(膀胱がんの手術療法を中心に)

尿路がんと診断されたら、どのような治療が行われるのでしょうか?
現在、尿路がんには、手術療法、放射線治療、抗がん剤治療、さらには、免疫療法と多種多様な治療法が保険適用となっています。悪性度や進行度によって選択される治療法は異なりますが、まず手術療法を中心とした代表的な治療法を取り上げます。
膀胱がんでは、膀胱の粘膜に留まる「筋層非浸潤性がん」であれば、尿道から内視鏡を入れて切除する「経尿道的腫瘍切除術(TUR)」で根治的な切除が期待されます。また、膀胱の粘膜の中に広範囲に癌が散らばった状態である上皮内癌(CIS)に対する治療や膀胱がんの再発予防のために、膀胱の中に抗がん剤やBCG(弱毒化した結核菌)を入れる「膀胱内注入療法」が行われることもあります。これらの治療には副作用や合併症がありますが、膀胱はそのまま残るため、生活の質の低下は軽度に留まります。
一方、画像検査で転移はないものの、がん細胞が膀胱の筋肉にまで及んでいる「筋層浸潤性がん」の場合には、膀胱をすべて摘出する膀胱全摘除術が第一の選択肢となります。膀胱全摘術は、その手術創の大きさや、腸を使って代用膀胱を作る必要性から、泌尿器科領域の手術の中でも最も患者さんの負担が大きい手術と言えます。しかし、最近は「腹腔鏡手術」を行うことで手術後の痛みや体力の回復は大きく改善しました。また、「ロボット支援下手術」を行うことでより精密な操作が可能となりました。長崎大学泌尿器科学教室では、基本的に「腹腔鏡手術」や「ロボット支援下手術」を行っており、患者さんの手術中や手術後の負担を最小限にできるように努めています。ただし、最も根治性の高い膀胱全摘除術を行っても、その後に再発する患者さんも少なくありません。そこで、私達は、以前より抗がん剤治療を手術と組み合わせた治療を積極的に行ってきました。最近、複数の大規模な臨床研究において、このような併用療法をした患者さんの方が、そのまま膀胱全摘除術を行った患者さんよりも予後が良好な(長生きできる)ことが報告されました。現在も、このような筋層浸潤性がんの患者さんの予後延長を目指した「周術期補助療法」の開発や改良に積極的に取り組んでいます。
また、このような膀胱全摘除術を前提に抗がん剤や放射線治療を行ったところ、腫瘍が著明に縮小し結果的に内視鏡の手術で根治でき、膀胱を取らずにすんだ患者さんも少なからずおられます。もちろん、すべての患者さんでこのような「膀胱温存」が可能となるわけではありませんが、その適応の見極めやより治療効果の高い方法の確立を目指した治療法の実践や研究も、長崎大学泌尿器科学教室の主要なテーマの1つです。

尿路がんの治療②(上部尿路がんの手術療法を中心に)

上部尿路がんの場合は腎臓と尿管、さらに膀胱の一部まで切除する「腎・尿管全摘、膀胱部分切除術」を行う必要があります。以前は、腎臓を摘出するためと、尿管や膀胱を摘出するための2か所の大きな切開が必要でした。しかし、現在、長崎大学病院泌尿器科では、膀胱がんと同様に、「腹腔鏡手術」を積極的に行い体に優しい手術を心がけています。そのため、手術後の痛みは大幅に改善し入院期間も短縮しています。また、その悪性度や病期にもよりますが、上部尿路がんにおいても、膀胱がんと同様に、抗がん剤を用いた併用療法も積極的に行うことで、少しでも根治できる可能性を高める努力をしています。
一方、何らかの事情で腎臓が1つしかない患者さんにこの手術を行うと、透析療法が必要となります。また、腎臓の機能が悪い患者さんでは、必ず透析療法が必要となるわけではありませんが、その可能性を覚悟する必要があります。さらに、全身状態が悪く長時間の手術や麻酔に耐えれられない患者さんもいます。そのような場合には、尿管鏡を用いたレーザー治療が行われることがあります。特殊な機器も必要であり、広く普及しているわけではありませんが、長崎大学病院泌尿器科では、数年前よりこのレーザー焼却術を導入しており、治療法の選択肢として活用しています。

尿路がんの治療③(化学療法、放射線治療を中心に)

リンパ節や他臓器に転移している患者さんには、抗がん剤や放射線を用いた治療が中心となります。現在、尿路がんに対して標準的な1次治療はゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法であり、私達もこの治療法を軸に抗がん剤治療を行っています。また、腎機能などの内臓機能の低下や、高齢などで全身状態が悪いためにGC療法ができない患者さんに対しては、それ以外の抗がん剤を用いた治療法を選択することもあります。長崎大学病院泌尿器科では、過去の経験や海外を含めた他の施設からの報告を参考に新たな治療法を開発し、その効果を海外の学会で報告すると共に、海外誌に論文として発表してきました。
また、2018年からは、標準的な抗がん剤治療に抵抗性の患者さんに対して、新たな免疫療法である「免疫チェックポイント阻害剤」の投与が可能となりました。重篤な副作用も起こりうる治療法であるため、細心の注意が必要ではありますが、今までにない高い効果を示す患者さんも経験しています。長崎大学泌尿器科では、すでに数十名の使用経験があり、他の診療科と連携をして万全の副作用対策をとりながら診療にあたっています。
次に、放射線治療ですが、現状では、尿路がんを完全に治癒させるという目的よりも、血尿や疼痛の緩和に用いることが多いのが実情です。そして、それらの効果は、多くの患者さんで十分に満足できるものです。一方、上に述べた化学療法では抗がん剤は点滴として投与されますが、筋層浸潤性膀胱がんの患者さんに対して、膀胱を栄養する動脈にカテーテル(管)を挿入し、そこから膀胱がんに直接抗がん剤を投与する治療も行われます。我々はこの動脈内注入療法と放射線治療を併用することで、半数以上の患者さんで膀胱全摘術を回避できることを海外誌に報告しました。現在も、このような膀胱機能温存を目指した治療を積極的に行っていますが、放射線治療が重要な役割を果たしています。

長崎大学病院泌尿器科の特色

長崎大学病院泌尿器科では、標準的な治療法であるガイドラインを基盤にしながら、さらに最新の知見も参考にして、個々の患者さんの状態にあったベストな治療法を提供できるように努めています。
また、このような「最先端」の医療を提供することに加えて、地域の在宅診療ネットワークとの診療連携など、患者さんや家族の方に密着した「やさしい医療」も心掛けています。