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ホーム九州法医学ワークショップ平成27年11月21日ー 11月22日>飯田直樹法律事務所弁護士:飯田直樹先生


SESSION 2:他領域から見た法医学1
-法律と法医学の接点-

  飯田直樹法律事務所弁護士 飯田 直樹 先生

0.自己紹介
 こんにちは。ただいまご紹介いただきました、飯田と申します。
 長崎市内で飯田直樹法律事務所という事務所を開いております。この年末で、弁護士になって丸6年、自分で事務所を開いて丸4年となります。
 とある事件で池松先生と知り合ったことをきっかけに、今回のワークショップにお声掛けいただきました。
 池松先生に、何を話せばいいですかと聞いたら、「学生たちが法医学に興味がある話をしてくれればいい」という無茶ぶりを受けました。それはちょっとハードルが高いので、興味を持てるかどうか分かりませんが、法医学が弁護士のやる裁判にどれだけ役立っているかという話をしたいと思います。

1.法医学と触れ合ったきっかけ
 自分が法医学と触れ合ったのは、ある殺人未遂事件の加害者の弁護をしたのがきっかけです。その際、法医学の知識が必要になり、池松先生に裁判で証人として出てきていただきました。必要な範囲で事件の概略を説明すると、加害者と被害者はお酒を飲んで、二人とも大分酔っぱらっていました。加害者は、被害者を包丁で刺したことは認めている、しかし、加害者は、被害者から首を強く絞められたので、身を守るために刺したんだと言っている。そうすると、被害者が先に攻撃をしたのであれば、正当防衛が成立するということになります。

2.被告人(加害者)の弁護と法医学の必要性
 実際には、事件直後の加害者の写真があり、お酒を飲んでいたこともあり、顔が赤くなっている。加害者は、被害者から強く首を絞められたと言っています。他方、加害者は、首を絞められながら、「やめろ」とか色々叫んだ、でもやめてもらえなかったから刺したんだということも言っている。素人的な感覚からすると、首を強く締めたら声が出ないんじゃないかというのはあるわけです。
 ただ、池松先生が、加害者の写真を見て、「加害者が首を強く絞められた証拠があります。」と言ってくれました。その発言を聞いても、そんな証拠はどこにあるのか、説明されるまで分かりませんでした。「溢血点」というらしいんですが、首を強く絞めたために、顔の表面にある毛細血管が切れて赤い点が出てきているんです。こちらとしては酔っぱらって顔が赤くなったんじゃないのかとしか思わなかったんですが、池松先生の説明によると、血流が悪くなって溢血点ができたのと、酔っぱらって顔が赤くなったのとでは、全然違うとのことでした。
 あと、声を出した、叫んだというのも、首を強く絞められても声は出るんだということも話してくれました。呼吸をする気道を締めるのは相当に大変だと、ただ、首を力を入れて締めると先に血管が閉じていく、だから、首を絞められたからといって、必ずしも声が出ないわけではない、ということでした。
 池松先生のお話のおかげで、判決でも、加害者が被害者を刺したのは、被害者の攻撃から身を防ぐためにやむを得ずにしたものであると、判決でも認定してもらいました。

3.被害者から見た法医学の必要性
 次に被害者から見た法医学の必要性についてお話しします。
 弁護士が被害者の話をするというのは、そもそも珍しいかもしれません。ニュースでよく目にする弁護士は、犯罪者の味方というイメージだと思います。ドラマでも、基本的には捕まった人の弁護をして、最終的には真犯人は別にいる、無罪を勝ち取るというケースが多いように思います。しています。実際にも、よく「極悪人の弁護もしなければいけないんですよね。」と聞かれることもあります。
 ただ、今自分のやっている仕事の一つとして、被害者支援というのがあります。加害者には弁護士がつく、弁護士を呼んでくれと言えばよんでもらえる。でも被害者にはそこまでの制度はないんです。そうすると、どうやってフォローしていくか。「長崎犯罪被害者支援センター」というのがあって、そこが、「早期支援団体」というんですが、警察から、犯罪被害者のフォローをしてくれという依頼を受けて、精神面、法律面など色んな対応をしたり連携の窓口になったりしています。そのセンターの会員として、そのセンターに来る人で弁護士の対応が必要な人については、9割がた自分のところに来ています。
 被害者支援をしている中でも、法医学の大切さを痛感しています。
 そもそも、被害者やその家族、被害者が亡くなっている場合はその遺族が一番求めていることは何なのでしょう。
 自分の経験上の話ですが、一番は、事件の前の状態に戻してほしい、人が亡くなった事件の場合、人がなくなっていない事件の場合、いずれも同じです。事件の前の生活に戻りたい、それが一番の想いです。
 ただ、それは難しいです。人が亡くなっていなくても、例えば性犯罪などは、それをきっかけに会社を辞める、PTSDなどの障害になる、笑わなくなって家に閉じこもるなど、事件前の状態に戻るのは難しいです。普段は元気にしていても、打合せの際に、突如思い出して泣きだしたりということはよくあります。気丈にふるまっているだけということが多いです。
 特に、人が亡くなった事件の場合、より一層難しいです。では、次に求めていること、これは過去にアンケートを取っての研究発表もあって、「何が起こったのか、何故起こったのか知りたい。」ということなんです。これは事故なのか、誰かにやられた事件なのか、事故だとしたらどんな事故だったのか、誰かにやられたのであれば、何をされたのか、そういったことを胸にとどめておきたいということです。
 ただ、亡くなった人は、こんなことされましたとは言えません。誰かにやられた事件だとしても、その事件の犯人が正直に話しているとは限りません。罪を少しでも軽くするために、自分のやったことを軽くして言うかもしれません。
 人が刺されて殺された場合、立ったまま刺されたのか、尻餅をついた状態で刺されたのか、横たわった状態で刺されたのか、リプレイはできないですけど、刺さった傷の形状を見れば、この傷の具合であれば、立ったまま刺されたということは考えにくいと、あくまで可能性の範囲ですが、分かるわけです。

4.まとめ
 これまでとりとめもなく話してきましたが、まとめに入りたいと思います。裁判というのは、大きく分ければ2つのステップからなっています。事実認定と法律解釈です。その中でも、ほとんどの裁判は、法律解釈ではなく事実認定で勝負がつきます。ただ、法律家ができる事実認定というのは限られています。
 法医学があってこそ、刑事事件の事実認定ができると言っても過言ではないと思っております。
 法医学が、人の罪を決める際にも大事な役割を担っているということ、法医学がなければ、適切な裁判は出来ないということを、分かってもらえれば幸いです。
以上
 
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