理研 有賀純チーム(比較神経発生/行動発達障害研究チーム 2004-2013)の研究紹介

 
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髄膜は大脳の発生にも重要である (Inoue et al., 2008)

私たちが研究を続けているZic遺伝子は細胞の核内にあって特定の遺伝子のスイッチをオン・オフにする働きを持つZicタンパク質を作り出します。Zicタンパク質は未熟な神経細胞で産生されているのですが、それ以外にも妊娠後期の脳形成の過程で「髄膜」という大脳の表面を覆う膜をつくる細胞にも存在していることがわかりました。髄膜におけるZicタンパク質の役割を明らかにするために、Zic遺伝子を破壊したマウスを作製し、このマウスの髄膜の解析を行いました。その結果、Zic遺伝子が欠損したマウスでは髄膜を形成する予定の細胞の増殖が抑制され、正常な髄膜形成に必要な細胞数が不足すること、髄膜細胞の性質を獲得できなくなることがわかりました。この結果からZic遺伝子は髄膜細胞の数を調節し、その成熟に必要な遺伝子であることがわかりました。

私たちはこの研究の過程で、Zic欠損マウスは髄膜だけでなくその下にある大脳皮質に異常を持つことを発見しました。そして、この大脳皮質の形成異常は、脳室で生じた未分化な神経細胞が、髄膜が未熟であるために表層へ正しく移動できないことがその原因の一つであることを突き止めました。髄膜はこれまで中枢神経系の周りを覆い、多くの血管や頭蓋骨・脳脊髄液とともに神経組織を保護、維持する役割があるものと考えられてきましたが、今回の研究結果は発生過程で大脳皮質が正常に形成されるためにも重要な役割を担うことを示唆しています。 髄膜の異常は大脳皮質の形成異常につながります

ヒトでは滑脳症という脳の先天奇形が知られており、神経細胞の移動障害が深く関わっていると考えられています。形態学的には複数のタイプに分類されますが、Zic変異マウスの大脳皮質で認められたものはこのうち丸石様皮質異形成というものに類似しています。ヒトでの滑脳症の発症にZicが関わるかどうかは、現在のところ明らかでありませんが、近い将来に私たちの研究がこの奇形の発症機序の理解に役立てられることを期待して研究を進めています。

 



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