発達障害やうつ病患者の増大などメンタルヘルスの需要は増す一方であり、重大な医療・社会的問題になっております。需要の増加に伴い、初診までの待機時間も長くなり、医療資源までのアクセスも難しくなっている現実があります。さらに地域によっては医師不足による医療崩壊が進み、医療資源の不足は深刻な社会問題となっております。
最近の科学技術の進歩には目覚ましいものがあります。
精神障害の診断は、客観的評価の担保が難しいことが一因で、医師により診断が異なるという問題がありました。この問題を解決するために患者様の診療情報や行動から診断、治療方針の決定を行う人工知能の活用が考えられます。またヒト型ロボットの技術進歩にも目覚ましいものがあります。ロボットは予めプログラムすることで人間同様の動作を行うことが可能であり、人間と比較して常に同一の動作が可能な正確性があります。この利点を利用して、精神科診療のエキスパートの面談技術をロボットのプログラムに組み込むことで、その面談を別のロボットで再現できる可能性があります。
さらにこのロボットを患者様の面接や学生の教育に導入することで、全国各地で統一化した最先端の面接の提供、および面接法の教育が可能となります。またアヴァター技術の進歩にも目覚ましいものがあります。アヴァターを適切に用いることで遠隔医療の質の向上が期待されます。精神科医療には、病院、診療所、待合室、離島医療だけでなく、デイケア、訪問看護、グループホーム、作業所、学校、特別支援教育をはじめとした多様なフィールドでの展開が期待できます。このように人工知能、ロボット・アヴァター技術は医療資源の不足を補うだけでなく、高度で標準的な医療への貢献が期待されます。
また精神科だけでなく他の診療科においてもメンタルサポートを要する患者様は多数いらっしゃいます。各地域の多様な領域で、人工知能、ロボット・アヴァター技術を適切に用いることで、高度な医療を全国各地にもたらすことにつながり、地域における医療の格差是正の効果も期待できます。
一方で、従来先人たちが築き上げてきた伝統的精神科医療の功績が大きいことは申し上げるまでもございません。私たちは先人たちに敬意を忘れず、学びを続けていかねばならないと思っております。今回、新たに設置する未来メンタルヘルス学分野では、既存の伝統的精神科医療と人工知能やロボットといった最新の科学技術の共生について研究を進めてまいります。精神科医療の発展に寄与するとともに、増加する発達障害やうつ病患者のメンタルヘルスの需要にも対応できる次世代型の人材育成を目指してまいります。
2020~2025年度 | ムーンショット型研究開発事業:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」(代表 石黒浩): 熊崎(分担)担当:発達障害・うつ病患者実証実験研究 |
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2021~2026年度 | CREST:納得感のある人間-AI協調意思決定を目指す信頼インタラクションデザインの基盤構築と社会浸透(代表 山田誠二):熊崎(分担)担当:5歳児協調健診 |
2022~2024年度 | JST 未来社会創造事業:「数理的社会情動能力の発達を促進するAIエージェントシステムの開発」(分担)発達障害児を対象とした社会情動能力の数理的発達の検証 |
2020~2021年度 | 新学術領域(研究領域提案型):人間機械共生社会を目指した対話知能システム学「対人恐怖症患者に対話継続を促す診察支援ロボットの開発」(公募班代表 熊崎) |
2021~2022年度 | 学術変革領域(A)公募:実世界の奥深い質感情報の分析と生成「自閉スペクトラム症児の感覚処理特性評価研究から探る深奥質感認識個人差の解明」(公募班代表 熊崎) |
2021~2024年度 | 基盤研究(A): 発達障害学生のオンライン授業における複数ロボットによる支援システムの開発(代表 熊崎) |
2020~2023年度 | 基盤研究(A): 発達障害者の交流を支援する半自律対話ロボットに関する研究(代表 吉川雄一郎)(分担 熊崎) |
その他、多数のプロジェクトに熊崎が研究代表者もしくは分担者として参画中
大阪大学 | 大学院総合文化研究科 | 石黒浩教授、長井隆行教授、吉川雄一郎准教授 |
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京都大学 | 大学院情報学研究科 | 河原達也教授、井上昂治助教、越智景子特定助教 |
慶應義塾大学 | 総合政策学部 | 新保史生教授 |
国立情報学研究所 | 山田誠二教授 | |
東京大学 | 大学院総合文化研究科 | 植田一博教授 |
ギフテッド創成寄付講座 | 池澤聰特任准教授 | |
農学部 | 岡本雅子特任准教授 | |
北海道大学 | 大学院情報科学研究科 | 小野哲夫教授 |
岐阜大学 | 工学部 | 加藤邦人教授、原武史教授、寺田和憲准教授 |
静岡大学 | 情報学部 | 大本正義准教授 |
名古屋大学 | 名古屋大学未来社会創造機構 | 上出寛子特任准教授 |
金沢大学 | フロンティア工学系 | 渡辺哲陽教授 |
人間社会研究域 | 小林宏之教授、吉村優子准教授 | |
子どものこころの発達研究センター | 池田尊司助教 | |
九州大学 | 医学部 | 加藤隆弘准教授 |
追手門学院大学 | 心理学部 | 本田秀人准教授 |
芝浦工業大学 | 電気工学科 | 吉見卓教授 |
三重大学 | 教育学部 | 松浦直己教授 |
産業技術総合研究所 | 生活機能ロボティクス研究チーム | 松本吉央上級主任研究員 |
国際電気通信基礎技術研究所 | 宮下隆弘所長、塩見昌裕室長、住岡英信グループリーダー |
その他全国各地の研究室と連携して活動中
仏国ロレーヌ大学 | Jerome Dinet先生 |
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米国Vanderbuilt大学 | Zachary Warren先生、Nilanjan Sarkar先生、Blythe Corbett先生 |
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