患者さんへ

診療紹介 (3.化学療法診療について)
 消化器癌(胃癌、食道癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、胆道癌)の患者様は非常に多く、全癌死亡者数の半数以上を消化器癌が占めています。下のグラフは2008年に癌で亡くなられた患者様のうち原因として多いものから上位10位の癌腫です。現在、日本で癌種別の死因第1位は肺癌ですが、グラフのように胃、大腸、肝臓、膵臓、胆道、食道などの消化器癌はいずれも死因の上位となっています。

資料:国立がんセンターがん対策情報センター
 これらの消化器癌に対する治療の第一選択は手術でありますが、診断時に遠隔転移を有する場合や術後の再発、あるいは切除可能な病変であっても合併症などのために手術ができない場合などには化学療法が第一選択となります。さらには手術の根治性を高めるために術前、術後の補助化学療法を行う場合もあります。当科ではこれら化学療法の適応となる消化器癌の患者様に対しエビデンスに基づいた標準的な化学療法を実践しています。
 特に大腸癌においては化学療法の進歩によりここ数年治療効果が飛躍的に高くなっています。その立役者となっているのが、ベバシズマブやセツキシマブなどの分子標的治療薬と呼ばれるものです。これまでの標準治療であるFOLFOX療法やFOLFIRI療法などにこれらの薬剤を併用することで治療効果が高くなることが臨床試験で証明され、日本でも使用可能となりました。セツキシマブに関してはがん組織のKRAS遺伝子というものに変異があれば治療効果がないことが明らかとなっており、当科ではセツキシマブが使用可能となった時点より当院検査部遺伝子検査室の協力のもとKRAS遺伝子を測定し、個別化治療の参考にしてきました。現在ではさらに測定感度の異なる2種類の検査法を用いてKRAS遺伝子検査を行うことで、よりセツキシマブ使用に適した検査法の検討も行っています。
 2009年度に当科に化学療法(化学療法中の有害事象もしくは緩和ケアによる入院も含む)のため入院された患者様の延べ人数は下のグラフの通りです。胃癌の患者さんに比べ大腸癌の患者さんは極端に少ない結果となっていますが、これは胃癌では入院を要する治療が標準的治療の一つとなっているのに対し、大腸癌の標準治療は全て外来で投与可能なためと考えられます。
2009年度癌腫別入院数
 近年、消化器癌の化学療法は患者様の生活の質を向上させるため外来で行うことが主流となっています。当科では2009年4月から2010年2月までの間に617件の化学療法を外来化学療法室にて行いました。月別の利用件数の推移を下にお示ししますが、利用件数は増加傾向にあり、今後も少しでも多くの患者様の治療を行っていきたいと考えております。
2009年4月-2010年2月 月別外来化学療法件数
 大腸癌に対し新たな分子標的薬であるパニツムマブがまもなく承認され、胃癌でも数年のうちに分子標的薬の導入が予想されています。これからさらに消化器癌の化学療法は進歩し、より複雑化してくる一方で、セツキシマブやパニツムマブのように遺伝子検査に基づいた個別化治療が積極的に行われてくると思われます。当科では今後も大学病院の利点を活かし、一人ひとりの患者様により適した治療を行っていきたいと考えています。