患者さんへ

診療紹介 (1.消化管診療班)
小腸疾患
 小腸は以前は暗黒大陸とも言われ、内視鏡で観察不能な臓器であった。しかし、近年ダブルバルーン内視鏡、カプセル内視鏡が開発され、全小腸の観察が可能になっている。それに伴い原因不明の消化管出血とされていた患者さんの中に小腸疾患が発見されるようになった。当院でも2005年ダブルバルーン内視鏡、2008年カプセル内視鏡を導入し、小腸癌、小腸悪性リンパ腫、小腸GIST、小腸潰瘍、小腸ポリープ、メッケル憩室、angiodysplasiaなどが発見され、また小腸内視鏡を用いた治療として、内視鏡的小腸ポリープ切除術、止血術、狭窄に対するバルーン拡張術、異物除去などを行っている。
炎症性腸疾患
 クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患はわが国で年々増加している。当院でも難治例の紹介患者さんが増えているが、クローン病に対するインフリキシマブ、潰瘍性大腸炎に対する白血球除去療法、重症例でのシクロスポリンなどの治療により難治例の緩解導入・緩解維持の成績が向上している。
 また、研究面では炎症性腸疾患の病因としての細菌感染症の探求やパイエル板の役割など詳細な内視鏡所見との関連を含め検討を進めるとともに、疾患感受性遺伝子の解析も行っている。
食道
 食道癌の治療は外科、放射線科との合同カンファランスにより治療法を決定している。Narrow Band Imaging (NBI)、拡大内視鏡の導入によりリンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる深達度m1, m2病変の発見が増え、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で非侵襲的な治療を行っている。また、放射線療法や化学放射線療法後の遺残あるいは再発病変による粘膜挙上困難例、出血傾向のある症例など内視鏡的切除不能例に対しては光線力学的治療(PDT)で良好な治療成績が得られている。外科手術不能例に対する放射線化学療法は放射線科と合同で5-FU+シスプラチンなどで治療を行っている。
 研究面では食道癌におけるmicroRNAの解析、Barrett食道における胆汁酸やVac-Aの役割及びLight blue crestの病理組織学的検討などの研究が進行中である。
消化器癌の化学療法について
 消化器内科で治療する癌は、胃癌、食道癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、胆道癌、膵臓癌と非常に多岐にわたっています。国立がんセンターの統計によると2006年の全癌死亡者329314人中、 これら消化器癌による死亡者は177024人(53.8%)と 半数以上を占めています
 消化器癌の化学療法は外科、内科の両方で行われていますが、従来は主に外科で行うことがほとんどでした。しかし、がん対策基本法の施行を背景に近年、臨床腫瘍科や腫瘍内科といったがん薬物療法を専門とする科が増えてきています。日本でも内科医が中心となって消化器癌の化学療法を行う時代がすぐそこまで来ているのです。
 消化器癌も他の多くの固形がん同様、根治的治療の第一選択は手術になります。しかし、先述しましたように消化器癌で亡くなる方は非常に多く、これらのほとんどの方が治癒切除不能な進行・再発がんであり、化学療法が必要となる患者さんなのです。さらに、治癒切除が可能な場合にも治癒率を高めるため、術前、術後の補助化学療法を行うことがしばしばあります。このように消化器癌治療において化学療法が占める割合は非常に大きく、また、新規抗がん剤や分子標的薬の導入により治療が複雑化してきているため確実に標準的な化学療法を実施できる専門家育成が急務となっています。
 当科ではこういった現状を踏まえ、がん薬物治療の専門家育成のため、2006年より3名が国立がんセンター中央病院にて化学療法の研修を行いました。現在、治癒切除不能な進行・再発がんを中心に術前術後補助化学療法も含め多くの消化器癌化学療法を行っております。最近トピックになっている分子標的薬に関しては消化器癌では結腸・直腸癌に対しベバシズマブ、セツキシマブ、GISTに対してイマチニブ、スニチニブが使用可能となっており、適応症例には積極的に使用しております。現在はエビデンスに基づいて標準的な化学療法を確実に行うことを主体としていますが、今後は臨床試験にも積極的に参加し標準治療の確立に貢献していきたいと考えております。