研究活動

肝臓班
これまでの肝疾患研究
これまでの肝疾患研究
当科における肝疾患研究の流れです。
1990年台は肝癌腫瘍マーカーであるα-fetoprotein (AFP)とB型肝炎の研究を行ってきました。
その後、C型肝炎の研究に着手し、2000年以降は分子標的療法などの肝癌新規治療法の研究行っています。また慢性肝疾患と生活習慣病に着目し、非アルコール性脂肪性肝炎の研究、脂肪肝と内蔵肥満、肝脂肪化と発癌、肝線維化と耐糖能異常のの研究を行なってきました。
長崎における肝癌原因の変遷
長崎における肝癌原因の変遷
Taura N, Nakao K et al. Oncol Rep 2009
これは、長崎に於ける25年間の肝癌の原因を調べたものです。
25年前は、B型肝炎とC型肝炎による肝癌はほぼ同数でした。
その後C型肝炎ウイルスによる肝癌が急増しましたが、C型肝炎治療の効果で最近は頭打ちになっています。この間B型肝炎ウイルスによる肝癌の実数は変わっていません。
一方、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)やアルコール肝関連疾患などの生活習慣関連の肝癌が徐々に増加しています。この傾向が続けば、20年後は、C型肝炎に代わって、非アルコール性脂肪性肝炎による肝癌が大きな問題になると予想されます。
非アルコール性脂肪性肝炎 肝硬変進展の危険因子
非アルコール性脂肪性肝炎 肝硬変進展の危険因子
Miyaaki H, Nakao K et al. Liver Int 2007
これは非アルコール性脂肪性肝炎から肝硬変に進展する危険因子について調べたものです。
182例の検討で女性、60歳以上、糖尿病、高血圧が線維化進展の独立した危険因子として上がってきました。私達はこの4因子の総和を長崎スコア(Nスコア)と呼ぶことを提唱しています。肝硬変進展例では6割近くがスコア3すなわち3っ以上の危険因子を持つことがわかりました。糖尿病・高血圧というメタボリックシンドロームの因子が非アルコール性脂肪肝炎の進行にも大きく関与していることが示されました。
C型慢性肝炎発癌と肝脂肪化
C型慢性肝炎発癌と肝脂肪化
Ohata K, Nakao K et al. Cancer 2003
これはC型慢性肝炎発癌と肝脂肪化の関連を調べたものですが、脂肪化例では約2倍の発癌率になっています。肝臓の脂肪化の有無がその後の肝発癌率に影響を及ぼすことが解りました。C型肝炎と脂肪肝や肥満との関連は現在トピックスとなっています。
肝癌の新規治療法の研究:分子標的治療
肝癌の新規治療法の研究:分子標的治療
Kusaba M, Nakao K et al. J Hepatol 2007
肝癌新規治療法として分子標的治療の研究をご紹介します。
肝癌細胞はIL6などの刺激の無い状態でも転写因子STAT3の恒常的活性化が起きています。正常肝細胞に比べ肝癌細胞では無刺激でSTAT3の強いリン酸化が起きています。STAT3の活性化阻害剤AG490を添加した所、STAT3のリン酸化は阻害されました。そこでAG490の抗腫瘍効果を検討するため、ヌードマウス皮下腫瘍モデルに対してAG490を腹腔内に投与したところ腫瘍の増殖が有意に抑制されました。
次に、腫瘍特異的にアポトーシスを誘導するサイトカインとして臨床応用が期待されているTRAILを併用投与しました。TRAIL単独では全く抗腫瘍効果を示しませんでしたが、TRAILとAG490を併用投与します、腫瘍の増殖が著明に抑制されました。腫瘍組織を見るとAG490とTRAILの併用により腫瘍にアポトーシスが誘導されていました。恒常的なSTAT3活性化を阻害することで肝癌細胞はアポトーシス感受性となることが示唆されました。よって、STAT3は肝癌分子標的治療の候補と考えられます。
肝疾患研究のこれから
肝疾患研究のこれから
肝臓班および消化器内科における研究の展望です。
これまでの肝癌研究を消化器癌全体へ展開したいと思います。
テーラーメード治療に繋がる治療感受性マーカーの研究、癌の再発や予後関連因子の研究、新規治療法の研究を進めたいと考えています。
次に、慢性肝疾患と生活習慣病の研究を消化器疾患と生活習慣病の研究へ展開したいと考えています。
肝炎研究では近年、免疫抑制療法の進歩により、B型肝炎ウイルスの再活性化が大きな問題となっています。そこで、免疫抑制療法に伴なう肝炎という観点から研究を進めたいと考えています。またC型肝炎ウイルスの肝移植後の治療は難治性であり最も予後に影響を与えます。我々はこの問題にも正面から挑むつもりです。
また、新規テーマとして肝再生、粘膜再生の研究にも取組みたいと考えています。